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ガキ英雄譚ッッッッッ!!!!! ~世界が滅びる未来を知った俺たちはヒーローになる約束をした~  作者: 立神ビーグル
第三章 愛の英雄の誓い 編

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第6話 剥がれた化けの皮 9 ―何故……何故……何故……―

 9


 愛は昨日、疑問に思っていた。


『何で先輩は、《王に選ばれし民》の情報を詳しく記事に書けたのだろう?』と。


 そして、ポリポリと頭を掻いて考えた。


『先輩が"バケモノ"って言葉を知っていた理由は?』と。


 愛が"王に選ばれし民が使役する者"を"バケモノ"と呼称すると知ったのは正義が帰ってきてからだった。

《王に選ばれし民》に関する知識を豊富に持っているボッズーから教えられたのだ。

 この事を萌音に教えたつもりはなかったが、萌音は「輝ヶ丘連続放火事件続報! 被害者本人だからこそ語れる、事件当日に起きた事実と王に選ばれし民との戦いに関しての私見」というタイトルの記事の中で『王に選ばれし民には作戦を指揮する「バケモノ」と呼称される存在がいますが――』と、さも当然の様に綴っていた。


 愛は『教えたつもりはないけど、もしかしたら教えていたのかも?』と記憶を探るが、やはりそんな記憶はなかった。

『それじゃあ単純に、"バケモノ"って言葉を固有名詞として使ったんじゃなくて、奇怪な存在だから"化け物"って書いただけなのかも……』と考えてみるが、これはすぐに自分自身に否定された。

「化け物」という言葉は普通にある。一般名詞としてある。しかし、記事にある「バケモノ」は確実に固有名詞としての「バケモノ」であった。


 それから秘密基地をあとにしながら、『私達を襲ってきた怪人が"下級の存在"だって、何で先輩は知ってるんだろう?』とも考えた。


 愛が"自分達を襲ってきた存在"="ダーネ"が、バケモノとは違う者と知ったのは、萌音が自宅だと主張していた家が燃えた後だった。

 英雄たちの秘密基地で正義達と集まった時に正義に教えられたのだ。

 それも、正義達にとっても新情報であった。正義達もダーネと戦ってみて、はじめてダーネが"バケモノ"="人間や動物を変化させた存在"とは違うと知った。

 そんな情報を英雄ではない萌音が何故持てたのか、その答えは一つしか考えられなかった。


『もしかして、先輩には情報提供者がいるの?』という、愛なりの答えだ。


 この答えに行き着いて、家にも着いて、愛は更に考えた。『《王に選ばれし民》に詳しい人物は、英雄か《王に選ばれし民》だけだけど、せっちゃん達が先輩に情報提供なんてする筈ないし……って事は、提供してるのは《王に選ばれし民》なの?』と。

『記事を書く為とはいえ、先輩が《王に選ばれし民》から情報提供を受けるなんて、あり得ない!』と、愛は自分自身に首を振り欠けるが、すぐにそれを止めた。

『相手が人間の姿をしていたなら? 《王に選ばれし民》に関係している人物って知らなかったら?』と思い付いたからだ。

 この考えを思い付いて、愛は自分自身に頷いた、『きっとそうだ!』と思った。 

『先輩に情報提供してるのは、バケモノに選ばれた人物の筈だ!』と。


 ここまで考えて、愛は正義達が話していた"ストーカー男"はバケモノではないと結論を出した。

 バケモノの正体が"ストーカー男"="柏木"であれば、人間の姿をしていようが萌音が情報提供を受ける訳がないと思えたからだ。

『せっちゃんは"かなり信頼の出来ない奴"から、輝ヶ丘にバケモノは居ないって聞いたって言ってた。って事は、全然嘘だったって可能性もある! いや、きっとそうだ!』……と、愛は一人で納得し、やっと深夜になって床についた。

『明日になったら、もう一度先輩に会いに行こう』と決めて、『先輩に情報を提供しているのは誰ですか?』と聞こうと決めて、『私がバケモノの本当の正体を暴いてやる!』と心に希望を抱いて――



 そして、瑠樹と別れた後、愛は再び考え始めた。


「瑠樹くんが見付けた石の色は、本当は青色……」


 その足は山下商店へ向かっている。『俺は友達の家に戻ります。ちょっと疲れたし、姉ちゃんに会えたらヨロシク伝えてください』と去っていった瑠樹と違って、やはり萌音の居場所が知りたかったからだ。

 山下商店に戻っている可能性もあるし、現在の萌音が他に行きそうな場所も思い付かなかった。


 この道中で、新たに生まれた疑問の答えは何かと愛は考えた。


「何で先輩は、青い石を赤い石って偽って記事を書いたんだろう? でも、何で嘘だった筈の赤い石が町内で見付かり続けてんの? それに、燃えた家が燃えなかったら、先輩はどうするつもりだったんだろう?」


 三番目の疑問は、『自宅と主張していた家まで連れて行った後にどうやって誤魔化すつもりだったんだろう』という疑問と、『あの日に私に石を見せていたら、石の色は赤色って嘘は記事には書かないつもりだったのかな?』という疑問が合わさったものだった。


「う~ん……全部不思議な事ばっかりで全然分かんない。赤い石も見付かってる事に関しては、赤と青の二種類が存在してたのかなって思えるけど……それじゃあ、何で弟くん達が見付けた石の色を青じゃなくて赤だって記事に書いたの? ん? もしかして、情報提供者から石に関しても聞いてたの? それで、弟くん達が見付けてしまった青い石の存在を、弟くん達が誰かに話してしまう前に、敢えて赤い石の情報を出したってこと? だって、赤い石に関しての記事を先輩が発表した翌日だよね、町内から続々と赤い石が発見され始めたのって……もしかして、情報提供者から赤い石は翌日から発見される予定だって聞いてて、カモフラージュの為に赤い石の情報を先出ししたとか? それほど青い石は知られたくない物だったから……んぅ??」


 愛は頭が回っていくに任せて、次々に思考を展開させていくが、ここまで考えて一旦止めた。

 駅前公園も通り過ぎて、山下商店のある輝ヶ丘の南部へと足を踏み入れたばかりだが、歩くのもやめる。


「カモフラージュの為にって、まるで先輩が情報提供者の……いや、バケモノの手先みたいじゃん! なにそれ、やばい、却下、却下……私は何を考えてんだ、もっとちゃんと考えながら考えないと」


 愛は自分自身の頭脳が導き出そうとした答えを却下した。

 それからまた歩き出す。深夜の様に自分以外には誰も歩いていない横断歩道をボソボソと思考しながら渡っていく。


「ヨシっ、一旦石に関してを考えるのはやめよう。家の事に関してを考えよう。燃えた家は既に自分達の家じゃないって私に言えなかったのは、悲しい出来事を話したくなかったからだったとして、もしも私を燃えた家まで連れていってしまってたら、その時は嘘がバレちゃうよね。それなのに何で、わざわざ私をあの家に連れて行こうとしたんだろう? 私だったら、始めから『私の家に来て』なんて言わずに、別の場所を用意するけどなぁ。先輩は間抜けな人じゃないから『嘘がバレないと思ってた』なんて事がある筈ないし。でも、結局家は燃やされてしまって私には嘘はバレなかったのか。もしかして、先輩はそうなるって知ってたのかなぁ? バケモノから家を燃やすって聞いてて、バレる事はないって知ってたのかなぁ? って、だっ……だから、なんで先輩が家が燃やされるのを知ってんだよ! それじゃあ、また先輩をバケモノの手先扱いしてんじゃん! 何言ってんの私!」


 愛はまた正義の真似をしたくなった。

 思考している内に愛の感情を気にせずに導き出されてしまう答えを否定したくて、髪の毛を掻き回したくなった。

 今日はポリポリでは済まない、ガリガリといきたくなった。その足は山下商店へと迫っていく。


「ないない! 絶対ない! ないないない!!」


 愛は首を左右に大きく振った。

 自分にとってはあり得ない答えばかりを出してしまう自分自身の頭脳に苛立っていたから、自然と声は大きくなっていく。


「ないったらない! 絶対にない!!」


 苛立ちは足取りを大股にもした。

 別の答えを見付けられないまま、愛は山下商店の前に立った。


「そんな事は絶対にあり得ない!!!」


 自分に向かって怒鳴った愛は、山下商店の引き戸に手を掛けた。


「ねぇ……」


 すると、


「……何があり得ないの?」


 と、誰かが話し掛けてきた。


「ですからぁ! あり得ないもんはあり得ないんですよ!!!」


 苛立ち続ける愛は、その声が誰の声なのかと確かめる前に返答していた。

 愛は自然と受け入れてしまったのだ。考える前に、自然と答えてしまったのだ。

 何故なら、問い掛けてきた声はとても馴染みのある声だったからだ。


「だから、何があり得ないのかって聞いてるの」


「ですからぁ! 先輩がバケモノの手先だなんてあり得ないって話ですよ……って、え??」


 二度目の返答を経て、愛はやっと気が付いた、自分が誰かと話していると。

 そして、同時にもう一つ気が付く。話している相手が誰かと。


「あれ、この声って……」


 問い掛けてきた声は山下商店の中から聞こえてきた。

 愛は引き戸を開く。ゆっくりと、恐る恐るとしても間違いではない。

 愛にとって声の主は会いたい人物であった。が、目の前に居ると知ると、少し怖いとも思った。抱いていた疑問の答えを彼女から聞く事が怖いと思った。


「あっ……お久しぶりです」


「昨日もあったじゃん」


 引き戸を開くと、やはり彼女が立っていた。


「あ、そ、そうですよね」


 愛はドキマギとしてしまうが、失礼な態度だと思い、引き戸を開くと同時に伏せてしまった顔を上げた。


「桃ちゃん、変だよ」


「あっ……そ、そうですよね、変ですよね……えっ? せ、先輩? ど、どうかしたんですか?」


 愛の目の前に立っていた人物は中学生の頃からの憧れの先輩だった。

 美麗で且つ、溌剌とした雰囲気を持つ人物だ。

 しかし、今日の彼女の顔は昨日までとは別人に思えるものになっていた。


「どうかしたって、何が?」


「えっ……だって」


 目の焦点が合っていない。

 目の前に愛がいるのに、何処か遠くを見ている様な目をしている。

 表情は暗い。彼女が持っている暖かい気持ちを一つのカケラも感じられない。否、暗いとも謂えない。表情がなかった。まるで魂を抜かれてしまったかの様な"無"でしかなかった。


「まぁいいや。それより……桃ちゃん」


「な、何ですか? わ、私、探してたんですよ、先輩を!」


「そうなんだ、それより、私が質問してるんだけど」


「あ、そうでした」


 先輩……否、萌音の、いつもと違う雰囲気に驚き、愛の心臓の鼓動は早くなる。何やら嫌な予感がした。


「私がバケモノの手先……って、なにそれ?」


「あっ、き、聞こえてましたか。いや、違うんです。あり得ないですよね!」


「うん、あり得ないね」


 萌音は静かに頷いた。

 そして、愛に向かって手を伸ばす。


「手先なんてあり得ないよ」


 愛の首に向かって――


「だって……私がバケモノなんだから」

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