他の勇者も逃げてない!
地面をズルズルと動く大きなダンボール、瓦礫の間をゆっくりと移動していた。
ブゥゥゥゥゥゥン……
蝿の羽音が近付く。
するとダンボールはピタリと止まる。
息を潜めるように。
存在を消すように。
やり過ごす。
そして羽音が遠ざかると、また少しだけ前へ進む。
そんな事を何度も繰り返していた。
「こ、こわいぃぃ……」
ダンボールの隙間から覗いていたのは、一人の女性。
リュウトの想い人。
そしてリュウトと同じ異世界から来た女勇者。
アオイ。
周囲には死体。瓦礫……そして血。
いつもなら人で賑わっていた町は、見る影もない。
「(でも……僕も頑張らないと……)」
震える手でダンボールを押す。
少しずつ。
本当に少しずつ。
アオイは目的地へ向かっていた。
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《少し前》
《ヒロユキ達》
「話を戻します」
隅々まで屋敷を調べ、小さなブルゼが居ない事を確認した後。
ヒロユキ達のパーティーとミクラル王国代表騎士ナオミは、孤児院のロビーへ集まっていた。
後から聞いた話によると、ナオミもまた、この孤児院で育った孤児らしい。
「先程の国王からの通信によると、騎士団との連絡が途絶えています。ギルドのポータルも起動していないそうです」
「あぁ、だからあたし達が起動してやらないとね」
「はい。そして援軍を投入してもらうのが最優先事項でしょう」
「……」
「クリスタルドラゴン討伐の時を思い出してください。みんなで力を合わせれば、きっと何とかなります」
「クリスタルドラゴン討伐はミーも聞いてるよ。もしかしてアニキも居たの?」
ひょこっと顔を出したのは、小柄な少女。
白い髪をした可愛らしい見た目の人物だった。
「ジュンパク。良い質問ですね」
ユキは胸を張る。
「参加してます!」
「流石アニキ!」
“彼”の名前はジュンパク。
勇者ヒロユキの新たなパーティーメンバーだ。
「それに騎士団だけではありません。冒険者達の援軍も集めましょう。ポータルさえ開けば、他の町や国からも応援が来るはずです」
「ミーも賛成だけど、それ相応の報酬が必要じゃない?」
「そうですね……やはりお金が一番効果的でしょう。ナオミさん、国王と交渉できますか?」
「任せな。国王も今回の件はかなり重要視してる。それこそ災害級の報酬が出るさ」
ナオミはそこで何かを思い出したように笑う。
「あ、そうそう」
「?」
「災害で思い出したんだけどね。この町には今、“一人”とんでもなく強い奴が居るんだよ」
「強い人?」
「あたしには、そいつが死んでるようには思えない。今頃どこかで踏ん張ってるんじゃないかね」
「……あ」
ヒロユキが反応した。
「ヒロユキさん?」
そしてナオミは、その名前を口にする。
「クリスタルドラゴン討伐の勇者――リュウトだよ」
その名前を聞いた瞬間。
ユキは見事に腰を抜かした。
まさに“すってんころりん”という表現が似合う転び方だった。
「なななななんと!? リュウトさんが!? この町に!? それは朗報ですよ!」
「……ユキ、会ったの言うの忘れてた。すまん」
「ヒロユキさん!? 何で言わなかったんですか!?」
「……帰ったらユキ寝てたし、俺も酔ってたからすぐ寝た」
「あの日ですか!? 二日酔いでヒロユキさんが大変だったあの日ですか!?」
「ちょっと待って! ミーは一人部屋だったのに姉貴とアニキが同じ部屋だった件について!?」
「とりあえず、あたしゃ今からアレン国王と連絡取ってくるよ」
ナオミはそう言って席を立った。
「これで安心できますね」
ユキは微笑む。
「この作戦を実行すると――私は動けなくなりますから」
「え!?」
「……どういう事だ?」
「【ファイアードーム】を使います」
ユキは静かに答えた。
「私の魔力のほとんどを使って、この町全体へ範囲を広げます」
「……!?」
「流石に大きなブルゼは対象にできません。でも、この町に居る小さなブルゼと、そこら中に散らばっているゴミくらいなら綺麗に掃除できます」
冗談みたいな口調だった。
だが言っている内容は全く冗談ではない。
「……わかった」
ヒロユキは即答した。
「流石ヒロユキさんですね。話が早すぎませんか?」
「……ユキなら心配いらない」
ヒロユキは静かに言う。
「ヒロユキさん……」
「……兄さんが言ってた」
ヒロユキは少しだけ笑った。
「……“お前を信じる俺を信じろ”って」
「私のお母さんも似たような事を言っていました!」
ユキも負けじと胸を張る。
「“僕の信じる君を信じろ”って!」
「あの〜……一応ミーも居るんだけど……」
「ジュンパクにも期待してますよ」
「ユキの姉貴ぃぃぃ!」
「おっと。ハグは全部終わってからです」
「グェッ」
抱きつこうとしたジュンパクの顔面を、ユキは片手で押し返した。
そして。
表情を引き締める。
「では――作戦開始です」
そう言ってユキという少女は、魔法を発動した。




