すれ違い。獣人でさえも『魅了』する存在
「はぁ…………………」
ため息しかでない、あそこでやめとけば……やめとけば……
「そ、その、アカネちゃん?こんなときもあるって」
外に出て夜風に当たってる私をヒメちゃんは心配してくれる。
「私、才能ないんですかね……」
「え、えと……ほら!途中までは勝ちまくってたじゃない!私より!」
「途中までは……ね」
そう、途中まではめちゃくちゃ勝っていたのだ、最初の5万は2倍になり。
そこから色んなものに手を出してみたら勝ちに勝ち続けた、ルールもわからないカードを使ったやつに関しては良くわからないまま勝ってたし……
しかし、なぜか、まったく勝てなくなった……そして気がつくとお金が無くなっていた。
もしも、制限がなければ私はどこまでも突っ込んでいただろう……
「私はもう少しだけしようと思うけどアカネちゃんはどうする?」
「いえ。ここで少し頭を冷やしながら待ってます」
「わかった!」
そういって、ひめちゃんはまた扉を開けて賑やかな中に入っていった……
扉がしまった途端に静寂が訪れる。
その静寂だけが私を慰めてくれていた……
「はぁ……ギャンブルって……こわい」
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「次で最後にしよ、アカネちゃんにあんまり待たせちゃ悪いから、えーっと」
周囲を見渡せば、また違う別の世界が広がっていた。
ディーラーが一新され、昼間の雰囲気とは一転。
夜になると獣人の雇用時間が終わるのが理由なのかそれとも悪い大人が来る時間なのか__
「人間ねぇ……」
ディーラー、受付、ほとんどが人間のメスになっていた。
____そして、全員が共通して掲げる、自らの「番号」
これこそが彼女らの身分であり、存在意義を示す印。
「奴隷」
姫は小さく呟いた。
そう、人間のメスの奴隷。
アバレー王国でもっとも権利のない人種であろう。
オスならば使い道は多いが、メスは性欲の捌け口か食肉にしかならない。
「汚いわね」
普段、この国で人間のメスがどう言うふうに扱われているか見慣れているので、そんな感想が出てしまう。
だが、そこに一際眩い輝きを放つ存在があった。
____それは、まるで天から降り立った天使のような人物。
その黄金の髪は、光を纏ったかのようにきらめきながら滑らかに揺れる。
一本一本が精巧に彫り上げられた工芸品のように美しく、隙なく整えられたその姿には一片の汚れも見当たらない。
真珠のように白く輝く肌。
そして、深淵の湖をそのまま切り取ったような青い瞳。
その瞳がただ一瞬こちらを向くだけで、全ての者が吸い込まれ、種族を超えた恋に落ちるだろう。
その存在感は言葉を超越しており、視界に入った瞬間、姫は意識すら奪われるように、その人物に見入っていた。
「……綺麗……」
その言葉は姫の心から自然と溢れたものだった。
その美しさに、ただ圧倒され、飲み込まれ、時間も場所も忘れたかのように――彼女はその人物から目を離せなかった。
人間にここまで見惚れるのは初めてだ。
「最後は……あそこでしよう」
まるで引力に引き寄せられるかのように、視線はその人物から離れない。
その場の熱気や周囲の喧騒など、もはやどうでもよかった。ただ、その人を近くで見たい――それだけのために、席に着いた。
近づくたびに、その人の美しさはさらに際立った。
光の加減で黄金の髪が織りなす輝きはまるで神聖な後光のようで、その姿を前にすれば、誰もが目を背けることなどできないだろう。
「お客様はこれで全員ですね、それでは、始めます」
その人が発した声。
瞬間――時が止まった。
透き通った高音は、空間全体を包み込み、姫の耳を優しく撫でる。
静謐な湖面に一滴の水が落ち、澄んだ響きが無限に広がっていくようなその声は、ただ聞くだけで心が落ち着き、同時にもっと聴きたいと渇望する甘美な響きだった。
声が放たれるたび、空気が震える。
周囲の喧噪も、他の音も、すべてが消え去り、姫の耳にはその声だけが届いた。
――ああ、なんて美しいのだろう。
姫の心は完全に奪われていた。その人物の一挙一動に、目も心も釘付けだった。
もはやゲームのルールも勝敗も、何もかもがどうでもよくなっていた。ただ――
もっと、この人の声を聞きたい。もっと、この人を近くで見ていたい。
「ほら、はやく始めろよ!」
隣から響いた荒々しい声に、一瞬ビクリと肩を震わせ、我にかえる。
その声の主に目をやると、立派な角を生やした強面の獣人が座っていた。
「(面倒なのが同じ卓に居たのね)」
噂は聞いている、コイツはここ一帯を仕切る《熊さん組》の一員で、力だけでなく凶暴さでも名を馳せる問題児。
喧嘩や騒ぎを引き起こすのは日常茶飯事だという。
「では、賭け金をどうぞ。」
この卓には獣人が5人。
その全員が迷うことなく上限いっぱいの五万を表示させている。
いや、この美しいディーラーの前では上限いっぱい出してしまう……まるでそれが見物料かの如く。
彼女の存在感はそれほどまでに圧倒的だった。
『美しさの支配』
その言葉がこの場で一番的確な言葉だった。
「ルールは簡単です。今から僕がこのコインを弾きますので、表か裏を予想して当ててください」
彼女が取り出したのは一枚のコイン。
そのコインの裏か表を当たる本当に単純なギャンブルだ。
だが、それが彼女に合っている。
コインに目が行かない。
数秒でもコンマ1秒でも彼女の容姿を、身体を見ていたいと本能が反応している。
その数秒でも目を離すと命取りになるこのギャンブル。
どうやら、ここのマスターは彼女の使い方をよく分かっている様だ__
「では、行きます」
彼女がコインを弾こうとするその動作__なんて優雅で、美しいのだろうか。
流れるような指の動き。
弾かれたコインが宙を舞い、光を纏いながらくるくると回転するその光景さえ、まるで一幅の絵画のようだった。
ただ、ただ__本当に……
「……綺麗」
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____30分後
「…………」
私は気がつけば、連敗を重ね、自然と席を離れていた。
勝負そっちのけで、その美女を眺め続けてしまう……まるで引き寄せられるように。
席を見渡すと、次々に入れ替わるプレイヤーたち。
「あの子もやり手ね」
勝ってる人も居るが、確実に負けている人の方が多い。
店としての利益は爆上がりだろう。
それを可能にしてるのは彼女の腕と采配と容姿。
適当にコインを投げるだけならこんなに安定して店側が勝てないだろう……
イカサマ。
バレてはないが、確実にしている。
そして、餌にされている。
だけど、良い。
今、この場で。
この人生で。
この美しさに出会えたことが光栄であるから__
だが。その考えを巡らせていた矢先__
「ふざけんなてめぇ!」
突如、怒号が場の空気を切り裂いた。
「っ!?」
目を向けると、先ほど隣に座っていた強面の獣人__《熊さん組》の一員が、美女の机を激しく蹴り飛ばしていたのだ。
「な、なんですか!」
美女の美しい顔が一瞬にして驚きと困惑に染まる。
「何ですかじゃねぇ!人間がぁ!」
獣人の荒々しい声は、場の空気を完全に凍りつかせた。
獣人と人間。
この国で、両者の間には越えられない壁があり、いつも人間は弱い側だ。
彼女が本当にイカサマをしたのかどうか……。
その真実は解らない……だが、関係のない事だった。
“獣人が人間に対してイカサマをしたと言う”
それだけでそれが真実。
そして、確信を持って言えることがある。
____彼女は、美しすぎたのだ。
だからこそ、この場で一番厄介な奴に目をつけられる。
その美しさが、祝福であり、呪いでもあった。




