#74 ルルカとセリウス
ルルカとセリウスのお話。
今のところあまり本筋に絡まない二人。
でも、ルルカだって恋に悩める乙女なんです。
エリックとライオネルが図書館でモヤモヤし、ユリアとゲイルがイチャイチャしていた頃、セリウスとルルカは町で市場調査を行っていた。
「二人でデートなんて久しぶりだね」
セリウスが嬉しそうに言った。
「あら、デートなんかじゃないわ。これはただの調査よ」
ルルカが済ました顔でそう言った。
実際二人で町へ出かけるなんて本当に久しぶりだった。
「そうだけど、僕は嬉しいな。ルルカとこうして町を歩けるなんて」
「──あなたってほんとにお調子者ね……」
ブルースペード家とイエロームーン家は昔からの馴染みで、二人とも幼い時からの知り合いであり、内々に婚約者候補として双方の家からも認められている。
イエロームーン家の一人娘であり、唯一の跡継ぎであるルルカは、婿養子をとることになる。
ファンシー王国の重鎮であるイエロームーン家としては、優秀でかつ家柄の良いセリウスを是非とも婿として迎えたかった。
ブルースペード家にしても、自家には優秀な長男がおり、次男であるセリウスが婿としてイエロームーン家と縁を結ぶのは非常にメリットがあり、両家にとって申し分ない婚約だった。
「うーん、調子に乗ってる訳じゃないんだけど……心外だなぁ」
と、肩をすぼめるセリウスは、やはりお調子者に見えるのだった。
──ルルカは“あなたはセリウス様と結婚するのよ”と母に言い聞かされていた。幼い頃のルルカは、当然そうなるものだと何の疑いもなく信じていた──!
「……セリウスは誰にでも優しいだけね……」
ぼそりと呟いた。
ルルカは並んで歩きながら幼き日の事を思い出していた………
*****
「セリーあそぼー」
ルルカは公爵たちの集まりでは必ずセリウスを誘っていた。凡庸な女の子たちとのお茶会より、余程楽しかった。
「いいよー」
サラサラの青い髪を靡かせ、ハチミツみたいな甘い瞳でニコニコ手を握るセリウスは天使のように可愛らしかった。
「ルルはおままごとがしたいわ。セリーは?」
「特にないよ。ルルがしたいのにしよう」
そう言っていつもセリウスはルルカを優先してくれた。
優しくて、聡明で、ずば抜けて綺麗で……セリウスより可愛いらしく美しい子はいない!と思っていた。
そんな相手が将来の結婚相手であるのだから、自分も相応しい、いい女でいなければと自分磨きにも熱が入ったものだ。
月日は巡り、初等教育を受ける頃には、セリウスもルルカもますます美しさに磨きがかかり、端から見ても申し分のない婚約者同士となった。
順調に穏やかに日々を過ごしていた、はずだった。
だが、そんなある日、ルルカは見てしまったのだ!
「セリウス、あちらに綺麗な花が咲いてるの。一緒に見に行きましょう」
なんと、カーペンター公爵家の娘、ココナ・カーペンターがセリウスの手を引っ張り、遊びに誘っていたのだ。
……ココナ……人の婚約者を誘うなんて……淑女にあるまじき行為だわ!
ルルカは当然セリウスは断るものだと思っていた。
だがしかし!
「いいよ」
サラサラの青い髪を靡かせ、ハチミツみたいな甘い瞳でニコニコと、ココナの手をとったのだ!
はぁ~~~~!?どういう事ぉ~~~?
いやいやいや、あり得なくない?
セリーの婚約者は私!セリーはいずれイエロームーン家と、私を支える旦那様になる人なのよねぇ!?なのにココナとって……なにそれぇ!!
信じられない思いで、呆然と二人を見つめた……。
家に帰り、早速その出来事を報告し、セリウスに文句を言ってもらおうと思ったのだが、
「さすがセリウス君だ。やはり賢く、紳士なんだな」
と父が褒め称えたのだった!
「男子たるもの女性の誘いを無下にするなどもっての他。しかも相手はココナ嬢だろう?ルルカと同じ婚約者候補だ。幼いながらその事をちゃんとわきまえ、双方平等に扱えるなんて……なかなか頼もしいな!わはははは!」
「はぁ~~~~!?」
淑女としてあるまじき声がまろびでたのだった。
婚約者候補は私だけじゃなかった!!
その事もショックだったが、父の態度がさらにショックだった。
“男子たるもの”……それは、私たち女はそれに甘んじろという事なの?
淑女とは殿方のする事に反抗せず、寛容に浮気も許す……それは……なんだか…………。
「……お父様……では、私とセリウスの結婚は絶対ではないのですか?」
「そうだな。もちろん第一候補ではあるが、ブルースペード家の事情もあるだろう。まぁ、この国ではセレブリティの卒業パーティーで結婚相手を発表するのが慣わしだ。ルルカもセリウス君と正式な婚約を結べるように努力するのだぞ。彼は稀にみる優秀な婿候補なのだから」
「──はい……畏まりました……」
それは、小さな出来事だったかもしれない。
だが、薔薇色の未来を信じ邁進してきたルルカにとって、それまでの価値観がひっくり返ってしまうほどのショックだった。
世界がガラガラと音を立てて崩れていく気がしたのだ……。
*****
市場調査にかこつけて、セリウスと二人きりで町に出掛けたら、どんな気になるか?
ルルカは自分で確かめたかった。
「──ねぇ、セリウス、あっちにフルーツケーキが美味しいと評判のお店があったわ。行ってみない?」
甘いものがあまり好きでないセリウスを誘った。
「いいよ」
ハチミツみたいな甘い瞳が細められ、ニコッと笑った。
サラリと風に靡く青い髪は昔と変わらずきれいだった。
次回、別荘に集合~~




