第三話:An vil = De gel
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体術と剣術の授業は体育館で行われる。一学年合同であり、順番に連続して授業がある。今日はまず体術の授業からだ。
「この学年の体術を担当するネストだ。よろしく。早速、授業に入るぞ。」
ムッキムキの男性教師だった。いかにも強そう。
「実戦に於いて役立つ、敵を倒す為の技術だけに、真剣にやらんと怪我をするから覚悟して臨むように。」『はいっ!』
全員、運動用の服に着替えている。黒い柔道着のような服だが、生地は薄い。
体術の授業は突き、蹴りなどの型からだった。
そのうち乱取りと称して一対一の対戦などして、一年の最後には勝ち抜き戦もやるらしい。
まだ今は型なので無難にこなすアンビルであった。
「この学年の剣術を担当するユーリスだ。よろしく。早速、授業に入るぞ。」
またもムッキムキの男性教師だった。いかにも強そう。
剣術の授業も型を中心に打ち込みなどして、あとあと乱取りと称して一対一の対戦などして、一年の最後には勝ち抜き戦もやるらしい。
体術も剣術も授業方針は似たり寄ったりみたいで、今は型なので無難にこなすアンビルであった。
魔法学の授業はアンビルにとって鬼門であった。どれだけ聞いても理解出来ないと言うか、実感出来ないのだ。
基本的な事は頭では分かるのだが、実感がないので信じる事が出来ないのだ。
魔法の基本は、魔力量と魔法行使力で扱える魔法とその威力、規模が決まる。どれだけ莫大な魔力を持っていても魔法行使力がなければ宝の持ち腐れなのである。魔法行使力がないと高位の魔法が使えなかったりするのである。
下手をするとファイヤーウォール10回分の魔力を持っているのにファイヤーウォールが使えず、ファイヤーボール500発なら可能とか、逆に魔力量が少なく魔法行使力が高いと、高位の魔法を強力に1発しか撃てないなんて事になりかねない。
よく蛇口の大きさと水の量に例えられる。大きな蛇口(魔法)だと大量の水(魔力)が必要となり、小さな蛇口(魔法)だと少量の水(魔力)で済み、消費も少なくなり、長く使える。
魔法行使力はこの蛇口を魔法(呪文)で形成、調整をする力となり、魔法の威力や回数にも密接に影響するのだ。
が、アンビルは元々魔力量とか魔法行使力とかイメージしたことすらなく、ただ呪文を唱え、ただ魔法を使っていたのだ。
何故か?天使の転生体であるアンビルには呪文も魔法も必要なく、本当は考えただけで魔法のような現象を起こす事が可能なのだ。
考えてみて欲しい、天使が長々呪文の詠唱を行うだろうか。彼らは何かの力を借りる事無く意志の力で現象を起こすのだ。
どちらかと言えば能力に近いだろうか。彼らも呪文を唱える事はあるが、自分の持つ能力以外の現象を求める場合くらいで、滅多に使用しない。
反対に悪魔は魔力と呪文を多用する。意志の力で現象も起こせるが、存在自体邪悪なため予想外の事象が起きやすく、あまり役に立たないのである。
それよりもはっきりと決まった効果、現象を起こせる魔法は使い勝手が良いのだ。
魔力量、魔法行使力とも人間など象と蟻ほども規模が違い精密性を求める時以外は呪文詠唱など必要とせず、基本無詠唱だ。
要はアンビルは何となくその魔法が解れば呪文なしで考えるだけで魔法 (のようなもの)が使用出来るし、魔法も内容が解っていれば考えるだけの無詠唱で行使が可能なのだ。
魔力量に関しても地獄最強の大悪魔アーモン・デゼルの転生体でもあるアンビルである、とんでもないとしか言いようがない。人間の最強魔法使いが百人束でかかって来ても負ける要素はゼロなのだ。
なんたるチート、人類の敵レベルであるが、勿論本人は何も知らないし気付かないので人類も安心だ。
そんな訳で、魔法学は鬼門であり、不得意であった。象に蟻の触覚の働きなど理解も出来なければ必要もないのと同じようなものであろう。
出来ないからこそ魔法学を懸命に勉強しようとする素直なアンビルであった。
「は~初日から飛ばすわね~」
「そうですね、体術、剣術と連続すると疲れますね。」
「私は鍛えたいので願ったりだが。」
三人で晩御飯を食べながら愚痴を言いあう。アンビルは集団生活など初めてで、授業以外の時間がすごく楽しかった。
だが、早速その平穏を脅かす者が近付いて来た。
「ここ、いいかい?」
既に食器を置いて座りながらマルーンが言う。
「紳士なら座る前に尋ねるべきだろう。」
「まあまあ、学生なんだから堅いこと言いっこ無しで。」
「どうぞマルーンさん。空いてる席ですし、どこに座るのも自由と思いますから。」
「ありがとうアンビルちゃん。」
「あー、昨日の聞きたい話ってやつ?何よ、バストなら結構あるわよ。」
「ミルノさん!何を言ってるんですか!」
「無論そんな事じゃないさ、アンビルちゃんが使った魔法についてだよ。」
「あー、魔法打ち上げ大会の時の?あれはアンビルじゃなくてアーレム商会の魔法使いが魔法具を使ってたそうよ。ねえ、アンビル?」
「ウエストの細さには定評があるのに。」
「いったい誰が評価しているのだ、アンビル殿。」
「アーレム商会の女性陣ですけど。」
「何言ってるんだい、僕はバストにもウエストにも興味ないよ。」
「マルーンさんはヒップに興味があるんですか。私ちょっと自信ないです。」
「全然違うよ、魔法だよ、試験の時使ったっていうファイヤーボールについてだよ。自信があったら何する気なんだい。」
「ああっ、魔法ですね。試験の時の。あのファイヤーボールは失敗でした。」
「そこなんだよ、詠唱から出来てなかったらしいね。」
「そうなんです、魔法詠唱はいっつもかみかみで失敗するんです。」
「だから変なんだよ。普通、詠唱に失敗したら不発に終わるんだ。似たような魔法が発動するなんてあり得ないはずなんだよ。」
「そうですか?結構色々出ますよ。」
「色々って、そんな訳ないはずだ。詠唱に失敗しても魔法が使えるって事は、拡大解釈すると無詠唱で魔法が使えてもおかしくないんだよ。」
「よく解りません。無詠唱で魔法を使った事はないですし、出来るんならそれこそ失敗しないと思います。」
「そうか、なるほど。興味深い意見だね。わざわざ失敗するバカはいないか。」
いる。そしてドキドキしてる。兵器アンビルなんて御免です。
「そんな事に興味があるなんて、さっすが首席卒業者は違うねーでも、分かったでしょう。無詠唱なんて高度な技術はまだ私達には早すぎるのよ。」
ナイスミルノさん、後でとっておきのお菓子をご馳走します。
「そうか、そうだね。すまない、凄く引っかかってたんだ。少し考えてみるよ。」
「では、私達もお風呂へ参りましょう。おやすみなさい、マルーンさん。」
「おやすみ、皆さん。」
と言ったきり、マルーンは考え込んでいる。アンビルは、深く考えちゃダメー、兵器はイヤー、と不安に駆られていた。
結局、魔法実技になれば化けの皮が剥がれるであろう兵器アンビルであるが、既に忘れて三人で美味しくお菓子を食べていた。
ありがとうございました。




