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オーメソⅡアンビル  作者: tetu
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第一話:出発の朝

第二部はこちらにに連載しようかと思います。よろしくお願いします。

 エルノイア王立高等学術院入学式当日、朝イチからアレムはハイテンションだった。


 「可~愛い~アンビルは何でも似合うな~ママの事思い出しちゃったよ~」


 昨晩のダメージは感じられない。ある意味人間離れしているが、いつもの事なのでアンビルは特に気にしない。昨晩、魔法打ち上げ大会の時の魔法を上手く誤魔化すように懇願と言う名の命令をした。


 「ありがとうございます、お父様。お母様に似ていると言われるのが一番嬉しいです。」


 ほぼ記憶はないが、母が美しかったのは記憶に残っている。うっすら優しかった事も。


 「準備は出来ております。そろそろ参りましょう。」


 アレムは着物のような服を着ており、グレーの髪もきちんとセットし、視線は鋭いが男前だ。


 一方アンビルは制服着用以外はいつも通りだ。くりくりしたおおきな瞳につんと高い鼻、肌は透き通るように白く、小ぶりな唇は桜色でみずみずしい。


 そして髪は漆黒のような黒髪で、今日もいつも通りキューティクルの輪が花冠か天使の輪のごとく見てとれる。


 制服は伝統的なジャケットとシャツ、スカートである。男子はズボン、上は同じらしい。


 王都のアーレム商会に隣接する倉庫へ足を運ぶ。入学式開始まではまだ時間があるが、当然というか、いつも通りというか、アーレム商会従業員達による入学壮行会が開かれるという。


 勿論アンビルは遠慮したが、本日からのアンビルお嬢様エルノイア王立高等学術院入学記念セールに差し障りが出ると言われれば断る訳にもいかない。


 そもそも入学壮行って何なのかしら、と思ったが仕方なく父アレムと参加する。


 これから長々と壮行会をする方がよっぽどセールというか、店の営業時間などに差し障りそうだが言っても無駄なので言わない。


 大人しく壇上にある派手に飾られた椅子に腰かけて終わりを待つ。


 最初にクンドーから開会宣言と軽い挨拶があった。


 次にアレムが挨拶し話し始める。


 「あの小さかったアンビルがこんなに大きく立派になって、父親として喜ばしく思う。」


 実はアレムの講話などは従業員達から人気がある。親バカのアレムは必ずアンビルの幼い頃のエピソードなどを紹介するため食い付きがいいのだ。


 それを知ってか知らずか話を続ける。


 「・・・でもお父様、その時はアンビルが身代わりになりますから、どうか王様にお願いしてきて下さい。」舌っ足らずな口調で話すアレム、もはや名人芸だ。


 グスッグスッ、ズズズーとすすり泣く者が続出するアレムの十八番、アンビルの直訴身代わりエピソードである。王への直訴を訴えた際のアンビルとのやりとりで、従業員達は何度聞いても涙するアンビルお嬢様人気No.1エピソードだ。今日この話をするとは、さすがは王国一の商会の代表アレム、昨晩死にかけたとは思えない。


 「もうお父様ったら、小さい時のお話は恥ずかしいからやめて下さい。」少しだけ拗ねた声を出すアンビル。パパと呼んでないので怒ってはいないが、何度も聞いている話でいつも恥ずかしい。


 話し終え、凄い拍手が送られる。送られたのは幼い頃と今壇上にいるアンビルにであるが、当然アレムは知らない。まんざらでも無い様子だが、左手は肩から上にあげられない。まだ痛むからだ。


 続いて各部署からの報告に移る。


 「被服部と致しましては、毎日お着替えをお届けし、お洗濯物を回収させて頂きます。」


 「洗濯は寮で自分でやりますので大丈夫です。」


 「なっ!そんな・・・」被服部全員リストラされたような落ち込みようだ。


 「食品部と致しましては、毎日のお菓子や果物などをお届けに上がります。」


 「売店がありますので大丈夫ですよ。」


 「なっ!まさか・・・」食品部門全員腐った果実をみつけたような表情をする。


 他にもアーレム商会各部の提案が全て一蹴されてしまう。勿論アンビルに悪気はない。と、言うよりも全寮制の学校なので当たり前である。


 約2時間ばかりで入学壮行会も滞りなく終了し、いよいよ出発となった。恒例の従業員達の手による人の手のアーチをくぐり抜け馬車へと向かう。


 皆、辛いけど我慢している、泣き笑いのような表情で声をかけてくるが、対応に困るので返事はがんばりますに統一する。ようやく馬車へとたどり着き、従業員たちの万歳をバックに出発した。泣いている者もいるようだが意味が分からないので見なかった事にしておく。


 御者はいつものロラン、アンビルお付きのメイドのティファラも同乗していた。


 褐色の金髪伊達眼鏡メイドのティファラはお茶を手渡しながら予定を告げる。


 「入学式は予定通り執り行われます。お嬢様は本日から入寮して寮で生活する事となります。お荷物は私が部屋へ運んでおきます。帰りは旦那様をお待ちしておりますので、よろしくお願い致します。」


 「分かりました。ありがとうティファラ、寂しくなります。」


 「勿体ないお言葉ありがとうございます。」


 「ロランも体には気をつけて下さいね。」


 小窓を開けて御者台へ声をかける。


 「ありがとうございます、お嬢様。ロランは心配などしておりません。お迎えにこれる日を楽しみにしております。」


 「ありがとうロラン。私がんばります。」


 「大丈夫で御座いますよ、お嬢様。」


 和やかなムードで進む馬車だったが、窓の外を見ていたアレムが泣き出した。


 「アンビル~本当に本当に大丈夫なのか~い。パパ心配で心配で困っちゃうよ~」


 めそめそと泣きながら告げるアレム。初めて親元を離れるアンビルが心配なのだろうが、そこに威厳はない。


 「お父様、心配なさらないで。遠くへ行く訳ではありませんので。会おうと思えばいつでも会えますし、お手紙も書きますので。」


 「アンビル~立派になって~ママにも見せてあげたいよ~」


 「まあ。お母様なら泣いたり致しませんわ、きっと。お父様もしっかりして下さい。それこそお母様に笑われてしまいますよ。」


 「アンビル~シエス~アンビル~ママ~肩~」


 アレムぐずぐずであるがアンビルは優しく見守り微笑んでいる。


 もう、お父様ったら。


 などと考えているようだが、アレムの肩はアレムでなければ入院して絶対安静にしなければいけないほどの状態、痛みだった。


 天使の微笑みで見守る加害者アンビルはまさに悪魔の所業であるが、さすがは親子、両名とも何とも思っていない。


 車内は和やかなムードでエルノイア王立高等学術院へ到着する。


 「では行って参ります。」


 受付へアレムと二人で歩いていく。アレムはいつの間にか威厳を取り戻していたが、肩は痛んだ。


 「がんばってくるんだぞ、アンビル。」


 「はい、お父様。行って参ります。」


 一礼して一人歩いていく。迷いの無い立派な後ろ姿を見届け「肩痛~い、湿布貼っとこ。」アレムは王国中から尊敬される人物であるが本人はひどく軽い。

なんとかシリーズ管理出来たと思います。ここまでは連載済です。アクセスして頂いて申し訳ないのでもう一話投稿します。

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