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17話 --- ギャップの名手

「ねえお母さん。明日、学校おわったらうちにユキちゃん来るから」


10時過ぎに帰宅したお母さんのため、キッチンで野菜スープを温め直していた。


職業柄の所為もあって美容にうるさいお母さんは遅い勤務から帰ってきた日はスープなど汁物しか摂らない。今晩もお母さんのリクエストで作っておいたのは、手羽元を使ったコラーゲンスープだ。キノコや旬のカブ、根菜もたっぷり入ったそれにアクセントとして柚子の皮を散らしてある。


「はい、どうぞ」

「あら、今日もおいしそう。初実、いつもありがとうね」

「ううん。お母さんもお疲れ様」


お母さんは両手を合わせて「いただきます」というと、きれいな背筋のままスープを口に運ぶ。ランニングが趣味で食べるものにも気を遣う徹底した自己管理のためか、背が高くてスレンダーなお母さんは年齢以上に若々しいエネルギーに溢れている。


雅くん同様、性格の強さがそのまま顔に出ている負けん気の強いひとで、社交的で積極的なところもわたしとは全然似ていない。けれどいつもエネルギッシュできらきらしたお母さんは同じ女としてひそかに憧れだったりする。


「ユキちゃん来るの久し振りね。よかった、明日お母さんオフだから帰り車で送って行ってあげられるわよ」

「じゃあユキちゃんにお夕飯食べていってもらうね!明日は冷凍で漬けておいた鶏肉をてりやきにして、

今日刻んで塩麹まぶしておいたキャベツはコールスローにして、あとは今晩砂抜きするあさりで野菜たっぷりスープ、作ればOKだよね?」


献立を聞いたお母さんが、スープを飲んでいた手を止めて目を細める。


「……我が娘ながらほんと初実の『主婦力』には脱帽ね」

「もお。どうせ褒めてくれるなら『主婦』じゃなくて『女子力』って言ってもらいたいんだけど!あ、食後のデザートだけはお母さん担当ね。なにかフルーツがいいな、葡萄とか林檎とか。買っておいてね!」


いくらかお母さんが後ろめたそうな顔をしたことに気付いてしまったから、わざと明るく言い返すと、お母さんがふっと表情を緩ませた。


「はいはい。それにしたってすごいわね。さすが家庭部で毎日のように料理裁縫しているだけあるわ。うちの家庭の味って、私じゃなくて『初実の味』よね」

「そうかなぁ?わたしお母さんの料理だって好きだよ?ねえ、また今度お母さんのパイナップルチキン、作ってよ。わたしあれだいすき!」

「そんな簡単なものでよかったら、いつでも作るわよ」


そう言いながら、ひとくちひとくちを大事にするようにお母さんがスープを口に運んでくれるから、なんだかくすぐったい気分になってくる。


パパがいなくなってしまってからフルで働きだしたお母さんとアルバイト漬けになった雅くんのために、自分も何か出来ることはないかと思ってはじめたのが料理だった。ふたりの役に立ちたいという気持ちばかりが空回りして、ちっともうまく出来ずにお母さんの膝の上で泣いてばかりだったあの頃は、『誰かのために料理をすること』が、こんなにも充実した気持ちをわたしにあたえてくれるしあわせな趣味になるとは思ってもみなかった。



「……そうだ!お母さんにちょっと相談があるのっ」



言いながら自分の部屋に駆けていって、ハンガーに掛けておいた服をいくつか手に持ってリビングにとってかえす。


「ねえ、お母さんお母さん。これ変かな?」


わたしのワードローブにあるものの中ではいちばんマシかなと思った、スカートとTシャツを自分の体に押し当てて訊いてみる。


「それ?べつにいつもの初実らしくていいんじゃないの?」

「わたしらしくとかじゃなくて!……おかしくない?ちょっと子供っぽいかな。こっちのワンピースのほうがかわいい?」


逡巡するわたしの顔を見て、お母さんがにやっと笑った。


「急に着るものなんか気にしちゃって、何かあったの?」

「えっ」

「初実。もしかしてデート?」

「……ま、まさかちがうちがうちがうちがう。そんなんじゃないよっ」


焦るわたしを前に、お母さんは何かもの言いたげににやにやした後でちょっと真面目な顔になる。


「ワンピースはたしかに清楚っぽくていいけど、それはすこし色が暗いわね。女の子はもっと明るい色着ないと見栄えしないわ」

「ねえ、お母さん。じゃあこっちは?これおかしい?」

「まだそっちのほうがかわいいんじゃない?」

「ほんとに?………ね、お父さん。この服変じゃない?」


リビングのソファで論文らしき書類に目を落としていたお父さんが顔を上げて「ん?」と視線を送ってくる。わたしを視界に入れると、お父さんのやさしく垂れ下がった目尻に皺が出来た。


「うん。それかわいいよ、初実ちゃん」

「……もう、お父さん!お父さんはさっきから何見てもかわいいしか言ってくれないじゃない!」


適当に答えないでよ、と責めたら「やれやれ。年頃の娘ってのは難しいもんだなぁ」と、お父さんこと久賀さんはなぜかちょっとうれしそうに頭を掻く。それから急に寂しそうに表情を翳らせた。


「……いやだなぁ。今から初実ちゃんをお嫁に出すときのことを考えそうになるよ」

「もう芳くんたら、今からそんな心配してるの?」


ダイニングで食後のお茶を啜っていたお母さんが、冷めた目つきでお父さんを見た。


「だってさ、ちょこちょこ動き回ってたあんなに小ちゃかった初実ちゃんが、もうこんな年頃らしいことで悩んでる女の子になっちゃったんだよ?……きっとその日が来るなんてあっという間なんだ。こんなに可愛くてこの歳で料理裁縫に掃除、なんでも万能なんだから。お嫁に貰いたがる男なんていくらでもいるはずだよ」


ほんとうにちょっと切なそうな顔になってしまったお父さんに、さっぱりした性格のお母さんが「そんな悲壮な顔しないの。嫁き遅れる悲劇を味わうより、さっさと嫁いださびしさ噛み締めるほうがずっとマシじゃない」と呆れた顔をする。


お父さんはいっそうかなしげな顔をして「前から思ってたけど、君ってほんとに何につけても合理主義だよね」と不満そうにいい、「建築学の先生なのに昭和文学に傾倒してて家中すぐに本だらけにしちゃうロマンチストさんから見たら、きっとそう見えるんでしょうね?」とにっこり笑顔でお母さんがやり返す。いつものことながら放っておくと面倒なことになりそうだったので、あわててふたりの間に割って入った。


「大丈夫だよお父さん、変な心配しなくても。だってわたし、全然モテないもん!このままじゃお嫁にいけるかどうかもあやしいくらいだよ」


お父さんを安心させるためってわけでもないけど、いちおう告げておいた。


「……土曜日に一緒にお出掛けするのもただの『お友達』だし。というか、わたしなんかは意識するのもおこがましいようなすごい相手だから、ほんと全然デートとかじゃないの!」

「あらそんなステキな男の子なの?」


わたしの話に、お父さんではなくお母さんが食いついてきた。


「そうだよ。小田切くんっていって、すっごくかっこいい男の子だよ」

「あなたの学校の小田切くんって、あの議員の小田切さんのとこの?すっごく頭が良くて礼儀正しい子だって評判の息子さんのことよね?」

「そうそう!その人!かっこいいだけじゃなくて、すっごくやさしいんだよ!だから女の子にすごくモテて熱烈なファンが学校にもたくさんいるの」

「まあ。じゃあライバルがいっぱいいてたいへんね」

「……だから違うってば!ただの『友達』だよっ」

「はいはい、むきにならないの」


わたしが力いっぱい否定すると、わたしをからかっていたお母さんが、急に何か遠い記憶に思いを馳せるように目を細めた。


「……なんだか広海くんみたいな子ね、ファンがたくさんいるなんて」


お母さんの口からその名前が出てくるなんて思わなくて何も答えられずにいると、わたしより先にお母さんが口を開いた。


「でもやるわね、初実。いつからそんなステキなボーイフレンドが出来たのよ?」


『広海くん』繋がりで知り合った男の子だとはまさか思わないんだろうなと思いつつ、えへへ、と誤魔化すように笑う。


「それはヒミツ」

「まあ生意気。……でも本当に彼氏じゃないの?」

「そんなわけないじゃん。『お友達』だから気軽に声掛けてもらえたの!でもユキちゃんにも言われたけど、あんまり変な恰好して行って一緒にいる小田切くんに恥かかせちゃうといけないから、せめて隣に並んでもおかしくない程度の恰好で行きたいな、と思って」

「それは一大事ね。でも日頃からちゃんとおしゃれに気遣ってたらこうならないのよ?だからお母さんと買い物に行ったとき、キッチン雑貨ばかり見てないでたまにはお洋服も選びなさいって言ってるのよ」


それからあれでもないこれでもないと言い合いながらお母さんと手持ちの服を吟味していると。妙に切なげな顔したお父さんに、「初実ちゃん。どんなにステキに見えたって、そのオダギリくんとやらも所詮は血の気の多い若い男なんだからね。油断しすぎちゃだめだよ?」と言われ。その後お父さんはお母さんに「年頃の娘に余計なことをいうな」とばかりに派手にど突かれたのだった。





* * * * 




------------緊張するなぁ。



待ち合わせの梅ヶ枝駅上り方面ホーム、前から三両目の位置にいた。時間よりだいぶ早く来てしまったのでまだ小田切くんの姿はない。


ホームに電車が流れ込んでくるたびに、膝上でふわりと舞い上がりそうになるスカートの裾がなんだかとても心許ない。滅多に穿かないミニ丈で、しかも制服のスカートよりもずっと短い。だからなんだか落ち着かなくて、ただでさえ小田切くんがいつくるかなと気になってしょうがないのに余計にそわそわしてしまう。




昨日ユキちゃんに念入りにチェックしてもらったこの恰好はユキちゃんいわく『超王道甘めガーリースタイル』だそうだ。


トップスは丸襟にくるみボタンのブラウスに、秋っぽいコーラルピンクのざっくりしたショート丈ニット。ボトムにはオフホワイトのチュールスカートを穿き、バッグはポシェット型のショルダーバッグを斜め掛けしている。


スカートとニットは昨日オフだったお母さんが「いつも家事をしてくれているお礼」だと言って、わたしが学校に行っている間デパートで買ってきてくれた。これに自前のカットソーやバッグを次々に組み合わせていって、ユキちゃんがいちばん「かわいい」と言ったのが、今着ているブラウスとショルダーバッグだった。


これにユキちゃんが持参してくれた薄手のかわいい花柄の靴下に透け感のある靴下を重ね穿きして、以前ユキちゃんとお出掛けしたときに買った、ヒールがあるけど歩きやすいウェッジソールのストラップ付きパンプスと、遠足で行ったTDLでユキちゃんとお揃いで買ったティンカーベルのペンダントを合わせた。


髪の毛はユキちゃんがカタログから選んだものを、今朝悪戦苦闘しながらセットしていると見兼ねたおかあさんがぱぱっときれいにセットしてくれた。サイドを編みこんでゆるいアップスタイル風にして、仕上げにきらきらしたお花のピンをつけた。


いつも自分で選んで服を着ると流行とは縁遠いダサい恰好になってしまうけど、今日はユキちゃんとお母さんの見立てのお陰でちゃんといまどき風な、ユキちゃんが言っていたような『女の子っぽい』仕上がりになっていた。



それに今日はちょっぴりメイクもしていた。テカリ防止のパウダーをはたいて、昨日ユキちゃんが眉毛を整えてくれて、そのときおそわったとおりにちょっとだけアイブロウで書き足してある。それだけで、ぼんやりとしたわたしの顔立ちがいくらかはっきりと見えて驚いた。あとはコスメ好きのエリナ部長に教えてもらった、ドラッグストアで買える「安いのに持ちと発色が優秀」というプチプラのグロスを塗った。


エリナ部長にもユキちゃんにもわたしはあまりメイクをがっちりしないほうがいい顔だといわれたのでごくごくナチュラルなメイクだ。朝、いちおうお母さんにもチェックしてもらったけど。



----------ほんとに変じゃないかな。



余計なことを考えてしまう時間があるからこそ、小田切くんを待つ間なんだかだんだん不安になってきてしまう。人生初メイクで、しかも忍ちゃんや高大以外の男の子とふたりでお出掛けするのもはじめてなのだ。とりあえず顔だけでももういちどチェックしておこうかなとバッグからミラーを取り出そうとしたそのとき。肩をつんつん、とつつかれて思わず悲鳴をあげそうになる。


そして振り返ったら、今度は堪えきれずに悲鳴みたいな声を上げてしまった。



「おっおッ!?…………おッ、おだ、おだっ……!?」

「おはよう上野さん」



そう爽やかに挨拶してくれたその声は、よく通る小田切くんの声だった。けれどそれが目の前に佇むひとの姿と一致しなくて、思わず凝視していた。



---------誰なの、このイケメン………。



まるでファッションビルの広告塔から抜け出てきたような男の子がわたしの目の前に立っていた。


VネックのプリントTシャツにシルエットのきれいなロングのニットカーディガン、それに細身のダメージジーンズというイマっぽい恰好をした、どえらい男前。


全体的に黒でまとめているスタイリッシュな服装に、ハードなデザインのバックルとかリングとかブーツを入れてアレンジしている。ともすればそのスタッズやクロスなどのロックテイストの小物は多用するとかえってダサく見えてしまうこともあるけれど、小田切くんはちゃんとポイントを絞って取り入れていた。やりすぎでも野暮ったく見えるわけでもなく、ちゃんと「さりげなくおしゃれ」に見える落とし所を心得た、上級者の着こなしだ。センスがよくなければこんな絶妙なバランスでまとめることなんて出来ないだろう。


おまけに今日はトレードマークの黒縁眼鏡をかけていなくて、いつも乱れなくぴっしり整えられた黒髪は、今日はふんわりとセットされ、前髪も横に流してあって凛々しくて端正な顔立ちがいっそうよく見えている。



---------かっこよすぎだ。



てっきり品行方正な優等生の小田切くんのことだから、私服もアイロンがきちんと当てられたシャツとか制服みたいなスラックスとか、そんなお坊ちゃん風の上品な感じのものを着ているのだろうと勝手に想像していたのに。こんなモデルさんみたいなクールでスタイリッシュな姿で来るなんて思ってもみなかった。


これが小田切くんじゃなかったら、「気のない女子とのお出掛けに、そんなすてきな恰好できちゃいけませんよ!」と叱り飛ばしてやりたいくらいだ。ほんとかっこよすぎ。



わたし今日やりすぎたかなと思っていたけれど、ちゃんとおしゃれしてきてよかった。ただでさえ顔がアレなんだから、これくらいわかりやすく着飾ってこないと、はずかしくてこの小田切くんの隣にはいられない。というかこの恰好ですら、小田切くんと並んで歩くことがくるしく思えてくる。



「上野さん?どうしたんだ?」

「………ごめんなさい、ちょっと無理」



真顔で覗き込んでくる小田切くんに、降参するくらいのつもりで両手で顔を覆って背中を向けることしかできなかった。


「無理?どうしたんだ、体調でも」

「………小田切くん、恰好良すぎだよ。正直直視できません」


わたしの正面に回りこんだ小田切くんが、見たこともないくらい幼い顔になった。そのぽかん、とした無防備な表情の後。真っ赤になっているであろうわたしの顔を見て、妙にくすぐったそうに苦笑した。


「俺なんかより広海のほうがずっと容姿に恵まれていると思うが?……上野さんは本当に面白いよな。広海とは全然普通に接しているのに」


そういって、すこしだけ照れたような笑みを浮かべる。



----------だっていくら恰好よくたって、高大は「異性」とは意識しえない、意識してはいけないひとだもん……。



「褒めてもらえて光栄だが、こっちを向いてもらえないか、上野さん」

「……こんなこといわれても気持ちわるいだけだと思うけど。わたし男子にもイケメンにも免疫ないから、ほんと今しんどいんですが。そのうえ小田切くん、学校にいるときとのこのギャップ、ほとんど反則技だとおもいます……」


ちょっと恨みがましい気持ちでどうにか顔を上げると、小田切くんはたぶん無自覚に、わたしの鼻の粘膜を直撃するようないたずらな目をする。


「そんなに驚いてもらえて本望だ。こういう服は自分が好きで着ているけれど。……半分は上野さんみたいな反応を見ることがたのしみでしていることだから」


そこでにっ、ととびきりの笑顔をされる。


わあ。このひと、ほんとはいじわるなんじゃないか。わたしを悩殺する気か。鼻血、吹き出そう………。



「でも上野さんもすごい破壊力だよ。……上野さんの場合、ギャップじゃなくてイメージぴったりだな」


そういって小田切くんが目を細めてわたしを見てくる。なんだか嫌な予感が。


「上野さんみたいな女の子らしい子には、そういう可愛らしい格好がよく似合うよ。広海も見たらきっと驚くだろな。制服とはまた違ってすごく新鮮だ」


ひえ。やっぱこのひと、『天然口説きモード』に入ってるよッ。


「かか過分なお褒めをいただきこうえいです、おせじでも恐れおおいですっ」


わたしの言葉に小田切くんはすこしだけむっとした顔で「俺は世辞なんかは言わん」と言った後。


「学校のときみたいに素顔のままでも十分魅力的だと思っていたけれど。メイクをするとまた雰囲気が変わるんだな。すごくセンスがいい。自然で可愛い」



----------かかかかわいいってなんだよ!無責任に言わないでよ!



「唇もニットも、上野さんにピンク色がよく似合ってる」



うわぁ。うれしくなりかけてるわたし、めちゃくちゃキモッ!こういうときこそ渋谷くんがいてくれたらいいのに。あの無神経な笑顔で『さすが賢ちゃんブス専だね!』とか失礼極まりないことを陽気で言って、この場の空気ぶちこわしてくれればいいのに。


……頼むから勘違いするなよわたし。小田切くんはごくナチュラルに女の子褒めちゃえるひとなんだってば!でもいっそ勘違いだとわかってて今一瞬だけでもあえて勘違いしてみるのも幸せそうだ。そんな誘惑にかられそうになるくらい、イケメンからの褒め言葉は快楽に近い情動を引き起こされる。脳内麻薬だ。いけない、そろそろシャットアウトしないとほんとに脳みそメタメタの中毒症者にされてしまう。



「スカートも制服だと膝にかかるくらいの丈にしてたから、てっきり短いのが嫌いなのかと思っていたが。……すごくいいと思う」


言いながら小田切くんの視線がわたしの足元に落ちる。自分でこういうの穿いてきておいてあれだけど、自分の脚をまじまじと男の子に見られるのは恥ずかしい。ちゃんと昨日お風呂でお手入れもしてきたけど、それでもこの大根足なんて、見ないでほしい。



----------やっぱ無理だ。わたし小田切くんと一緒になんて出掛けられない。



折角誘ってもらったけど。わたしの器量や度量では小田切くんレベルの男の子のお供なんて務まるわけない。どうやって「ごめんなさい」と切り出そうかと悩んでいると、小田切くんがカーデのポケットからきれいに折りたたんだ紙を取り出して広げた。


そこには箇条書きでなにかがびっしり書き込まれていた。わたしの視線に気付くと、小田切くんはその紙をわたしに見せてくれた。


「イサが好みそうなものが置いてあるショップを思いつく限り書いてきた。俺の頭にはインプット済みだから、よかったらどうぞ」


手渡されたそれには店名、住所と電話番号、さらにはお店の特徴やURLまでがびっしりと記載されていた。しかも手書きで。


「これ、わざわざ……?」

「わざわざっていうほどのものじゃないよ」


私の問いに、小田切くんはやさしい笑みを浮かべる。


小田切くんは「たいしたことじゃない」って言ってくれたけど。ペンで色分けされマーカーで印付けられたこの一覧表は、けっこうな手間をかけてしたためられたのが分かる。上から下まで文字だらけなのに、とても見やすく工夫されていた。しかも一文字一文字乱れなく、最後まで流麗な文字で丁寧に綴られている。……頭のいい小田切くんのノートも、きっとこんなふうにきれいに纏められているんだろうなと想像できる。



「小田切くん、ほんとのほんとにありがとう。……これだけでも十分うれしい」

「これくらいのこと、そんなに気にしなくてもいいよ」



そんなにかしこまらないでくれとばかりに、小田切くんは指先のきれいな手でわたしの頭をぽんぽんやさしく叩いてくれる。なにこのやさしい感触。



------------どうしよう、本当に勘違いしたくなってしまう。



「……小田切くんが几帳面なのって、勉強とかだけじゃなかったんだね……」


不思議そうな顔をする小田切くんに、うれしさでじわじわ温まった胸から自然と言葉がのぼってくる。


「わたし。……なんで渋谷くんとか高大くんが、小田切くんと一緒にいたがるかすごくよく分かるよ。几帳面、っていうか……小田切くんのやさしさって、すごく丁寧だから。だからみんな、心地いいんだろうね」


わたしが勇気を振り絞って伝えると、小田切くんはなんともいえない奇妙な表情になった。弱ったような、困ったような。それからなぜかすごく残念そうに深く溜息を吐いた。


「……俺も往生際の悪い男だな。ここへきて、やっぱり呼ばなきゃよかったなんて思うのだから」

「小田切くん……?」


いったい何を言っているのだろうと疑問に思っていると。



「賢人。悪い、待たせたか?」



小田切くんの背後で、誰かが小田切くんに呼びかけながら顔を出した。その人を見て、思わず素っ頓狂な声をあげてしまう。


「こ、こうだい……!」

「うい………上野?!」


顔を見合わせて驚く高大とわたしに、小田切くんは申し訳ないと言って苦笑した。



「上野さん。今日は俺とふたりきりだと気詰まりかもしれないと思って、広海を呼んでおいたんだ」





こんなへたれラブコメですが、お読みくださってありがとうございますm(__)m


ふたりきりのデートじゃなくてすみません。

広海がオチ扱いでますます気の毒なひとになってしまいました、、。

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