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魔女の末裔、怪盗となり月夜に舞う  作者: ぽよみ30号
閑話休題2〜使いこなせ闇の魔法〜

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季節外れの新入部員

初心者マークを付けた白い軽自動車が、高速道路を走っている。


運転している宵と、助手席に無言で座っている彗、後部座席に無造作に置かれたダイヤ入りのリュック。


二人の空気は重かった。


「……危なかったな。最後」


宵がぽつりと呟くように沈黙を破ると、彗は「うん……」と小さな声とともに口を開いた。その表情は暗く、顔に影が見える。


「もし変態れいかにキスなんかしてたら、新しい同人誌が爆誕するところだった」


「いや変態そっちの話じゃねえよ」


宵は妹が違うことを考えていたことに驚き、ウィンカーを出して車線を変更しながら話を続けた。


「あの警官だよ。明らかに様子がおかしかったし、間違いなく春華の手先だ」


「は……春華の!?」


その名前が出て、彗の表情はようやく真剣なものとなった。


「なんで?そんなこと言ってたっけ?」


彗は兄の横顔を見つめた。


「ああ、絶対にそうだと断定できる発言があった」


宵はドリンクホルダーに置いてある缶コーヒーを手に取り、口に含んだ。


「あの警官……『鏡と刀を置いて手を上げろ』と言っただろ。だから間違いなく春華の手先だ」


「……なんで?」


彗は意味がわからず、言葉を続ける。


「銃を突きつけて『武器を捨てろー!』って言うのは普通じゃない?」


「そうだな。銃を向けて相手に武器を捨てさせるのは基本だ」


宵は「じゃあ、彗」と言って言葉を続けた。


「なんであの警官は怪盗の『鏡』が武器だと知っていたんだ?」


「あ……」


ここで彗は気が付いた。

どう見ても鏡は武器ではないし、そもそも怪盗じぶんが鏡を持っていることを知っているのも変だ。


「『刀を置いて手を上げろ』なら普通だ。新月刀はどう見ても武器だからな」


宵が飲んでいた缶コーヒーをドリンクホルダーに戻すと、カランという音が車内に響いた。


「しかし、満月鏡かがみはおかしい。普段は彗のウエストポーチの中に入っていて、誰も怪盗の変身や分身のタネが鏡だとは知らないはず。知っているのは……」


「春華だけ、だね……」


現在、月詠家の神器について知っているのは宵と彗、そして春華だけだ。


「おそらく、春華が警官の一人を三日月ノ玉で洗脳して命令したんだろう。だからあの警官を後で調べるために発信機を……と思ったが、今回は難しかったな」


宵は怪盗として活動する際は、もし現場に春華や春華の手先が現れたときのために彗に小型のGPSタグを持たせてある。


「なるほど……」


彗は納得し、そして少し嬉しく思った。


「一歩前進ってことだよね?」


そう。そもそも二人が怪盗をやっているのはこうして春華を誘き寄せるためでもある。


こうして魔法を見せながら目立っていれば、いずれ春華の方からこちらにアクションがあるはずだと考えて、三日月ノ玉に似たダイヤを盗んでいるのだ。


「ああ。その通りだ。だが俺たちは肝に銘じなければならない」


宵は、インターチェンジから高速道路を降りるために車線変更をした。


「俺たちは、敵に狙われている。もとより覚悟の上だがな」


「そうだよね……狙われてるんだよね、私たち。変態てきに」


「なんか、漢字がおかしくなかったか?」


「気のせいだよ」


──────────────────


翌日。望が丘高校2年A組。


「おはよう。スイ」


朝の教室で、珍しく彗よりも遅く教室に入ってきた玲香が彗に声をかけた。


「ああ、おはよー。変態れいか


「なんか、漢字がおかしくなかった?」


「気のせいだよ」


彗は玲香の額が青紫色に酷く腫れているのが前髪の隙間から見えたが、絶対に指摘しないと決めた。


「ああ、これ?気にしないで。昨日……ちょっと、ね♡」


「私、何も聞いてないよ」


「昨日、ちょっと愛のムチをいただいてね……♡」


「絶対に指摘しないって決めたのに勝手に語り始めた!」


「私、このアザが永遠に消えないように昨日から神様にお祈りしてるの♡」


「じゃあ私は早く治るようにお祈りしとくね」


「昨日の私はルミナス・ジェム博物館に行ってたんだけど……」


両手で頬を押さえて顔を赤らめながら詳細を話そうとする玲香を、彗は「その話はいいから!」と強引に止めた。


「それより、珍しく遅かったじゃん!どうしたの?」


彗は強引に話題を変えた。

これ以上昨晩の話をされると、最終的には興奮した彼女の部屋に連れて行かれそうな気がしたからだ。


「ああ、田中先生のところに行ってたの」


田中とは二人が所属する剣道部の顧問だ。


「え?なんで?」


「なんか、今日から入部する一年生がいるんだって。その子を放課後、武道場まで連れてってあげてくれってね」


「ふーん。もう10月なのにこんな時期から部活に入るんだ……」


「スイも一緒に行こうよ」


「いいよ」


そう約束したところで、始業のチャイムが鳴った。


──────────────────


放課後、彗と玲香は一年生の教室に入って行った。


「えっ……あの人……」

「中村先輩じゃない……?」

「うわ、ほんとだ……」

「実物は意外と小さいんだな……」


二人が教室に入ると、一年生たちはざわめき始めた。


「なんか噂されてるよ。玲香って有名人だったの?」


「いやあんただよ」


ざわつく後輩たちの様子を変に思った彗が玲香に話しかけると、玲香は冷めた目で彗を見ながら指摘した。


「え、私?なんで?」


「前も言ったけど、うちの高校は勉強も部活も並だからね。インターハイなんか出る人は珍しいんだよ」


二人は剣道部の新入部員を探すが、彗を見るための人だかりが出来てしまってなかなか探せない。


「みんなごめんね、『月城ツキシロくん』いる?」


玲香がそう言うと人だかりは割れ、割れた先には一人の男子生徒が着席していた。


その男子は玲香に気がつき、慌てて立ち上がった。


「先輩、すみません。迎えにきてくれたんですね?」


その「月城」と呼ばれた男子は丸顔で顔つきは幼く、背が低かった。


彼はおっとりとした雰囲気で、彗は「あんまり強そうじゃないなあ」と失礼なことを考えていた。


「うん。武道場行こっか」


玲香がそう言って教室の外に向かって歩き出すと、彼は彗の存在に気が付いた。


「え、な、中村先輩……!?」


「そうだけど」


彗が答えると彼の顔はパアァと明るくなり、興奮気味に席からガタガタと立ち上がり、素早く近づいてきた。


「ぼ、僕、月城輪生ツキシロリンセイって言います!中村先輩の大ファンなんです!」


「……そ、そうなの?」


彗は少し嫌そうな顔をした。

普通は自分の「ファン」という者が現れれば嬉しそうな顔をするものだが、彗は「ファン」の厄介さを身に沁みて思い知らされている。主に玲香から。


「中学は全国2位!去年と今年はインターハイベスト16!先輩の試合、いっぱい見ました!あの、サインとかはいただけますか?」


「ちょっとちょっと」


興奮する輪生を止めるように玲香が二人の間に入った。


「ファンだからって急にそんなに馴れ馴れしくしちゃダメだよ。ちゃんと節度を守らないと!」


「……!?!?!?!?」


彗は信じられないものを見る目で玲香を見た。

この女に「節度」という概念があれば、自分は電流を浴びせられながら撮影されることも、妙な同人誌が誕生することもなかっただろう。


「そ、そうですよね。ごめんなさい。興奮してしまって……」


「うん、わかればいいのよ。ほら、武道場行こ」


謝る輪生を連れて玲香は教室を出たが、彗はまだ納得できなかった。

やはり昨日はデコピンなんかではなく、ビンタでもしてやった方がよかったのだろうか。


もちろん、新月刀の魔法を使った状態で。


──────────────────


顧問の田中から新入部員として輪生が紹介され、その日の稽古が始まった。


「ふわー、やるねぇ輪生くん」


呑気に呟く彗の言う通り、月城輪生の実力は目を見張るものであった。


男子にしては小柄な体格だがその剣捌きは力強く、彗以外の部員はことごとく彼に敗れていった。


望が丘高校剣道部は稽古の終盤に、好きな相手に一本勝負を申し込んでどんどん勝負をする稽古をやるが、輪生は次々と部員に勝負を持ちかけては勝利していった。


そして主将である玲香もあっさりと彼に負けてしまった。


「ちょっと主将、何してんの」


彗が玲香に笑いかけると、玲香は面を取りながら情けない顔を見せた。


「ムリ、あの子超強いぃ……主将の威厳がぁ……」


「そんなの、最初からあったっけ?」


彗がケラケラと笑っていると、玲香と勝負を終えた輪生が彗のすぐ隣に正座していた。


「うぉうっ!?」


彼の突然の出現に彗が飛び上がって驚くと、輪生は深々と彗に頭を下げた。


「中村先輩、一本勝負お願いします」


「……いいけど」


彗がそう返事をすると、場の空気がピリッと痺れたことを輪生は感じた。


周囲を見ると、全部員が自分たちを注目している。


少し重くなった空気の中でそれを気にせず平然と立っているのは、この中村水ナカムラスイ先輩だけだ。


「あ、せっかくだし私が審判するよ」


玲香はそう言って審判を申し出た。

他の部員はそれぞれがやっていた一本勝負をやめて彗と輪生の勝負の観戦に回ったため、試合場は二人の貸切となった。


(……中村先輩、いったいどれぐらい強いんだろう)


輪生は楽しみにしていた。

中村水は試合場の反対側で、試合前の準備運動として防具をつけたままその場で飛び上がり、空中で三回転してから着地するのを繰り返している。


その動きだけで只者ではないことがわかる。とても剣道の準備運動には見えない。

体操だけでオリンピックに出られそうな動きだ。

どんな運動神経を持って生まれればあんな動きができるのだろうか。


「じゃあ始めるよ。二人とも試合場入って」


「は、はい!」


「ふーい」


玲香が二人を呼ぶと、輪生は緊張した様子で、彗は自然体そのものという声で返事をし、試合場の中に入って蹲踞そんきょをして構えた。


全部員と顧問の田中は、「いったいどちらが強いのだろうか」と言わんばかりに二人の勝負を楽しみに見つめている。


審判の玲香は大きく息を吸い、号令をかけた。


「始めっ!!」




☽ あとがき ☾


昨晩のルミナス・ジェム美術館で彗に発砲した警察官は、とても優しくて真面目な青年でした。


怪盗対策の警備として招集された彼ですが、警備中に博物館の外で一人の初老の女性が蹲っているのを見つけました。


彼は警備の仕事中でしたがその女性を放っては置けず、彼女の元へと駆け寄り介抱をしようとしました。


しかし彼が駆け寄った瞬間──、初老の女性が持っていたバッグの中から黒緑色の光が漏れたと思えば、彼女は言いました。


「怪盗は悪。鏡と刀を奪え。大人しく渡さなければ殺せ。どんな手を使ってでも」


その言葉はどれも彼にとっては突拍子もないものばかりでしたが、何故か彼はそれらの言葉を「真実」として受け入れてしまいました。


──三日月ノ玉の魔法は……優しくて素直な人にほど、よく効くそうです。


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