戦闘開始
竜司、剛田、骨川、虎助の4人はビルの階段を登る。
竜司はビルの屋上にいると思われるこの騒動の犯人を叩きのめすために。
剛田、骨川は自分たちの竜司に「ついてこい」と言われたから。
虎助は安全な場所に行くために。
それぞれが目的を持って階段を登る。
「竜司さん……この先に何がおるんですか?」
骨川が小さな声で竜司に聞くと、竜司は「知らん」と答えたあと、「ただ──」と言葉を続ける。
「碌でもないモンなんは、間違いないわな。人間をあの植物の怪物に変えてくるような、普通ではない能力を持つモンや」
普通ではない能力を持つ者、そう聞いて骨川の脳内に一人の女の姿が浮かんだ。
「Witch Phantom様みたいな……!?」
「せや」
竜司と骨川の会話を剛田は神妙な顔をして聞いていたが、虎助は少し離れてついてきているため聞こえておらず、安心し切った顔で階段を登っている。
「Witch Phantom様みたいなもんと、その、ワシらみたいな普通の人間が戦うんですか……!?」
骨川は驚愕の表情を浮かべたが、竜司は「何驚いてんねん」と逆に少し驚いたような表情を浮かべた。
「これまでも戦ってきたやんけ。あの魔女たちと。二回も」
竜司は月詠夏波、月詠春華との戦いを思い出しながら言った。
「そ、それは……でも今回は状況が違います!下手したら殺される!大人しく警察か自衛隊に任せておいた方が!自衛隊にミサイルでも撃ち込んでもらって……」
骨川は8年前の恐ろしい魔女たちとの戦いを思い出しながら言った。
そして今回は彗もいない。
自分たちだけで戦うのは無謀であり、自分たちは逃げるべきだと考えた。
「骨川」
竜司は、骨川を名前で呼んだ。
「ワシらが逃げて、警察か自衛隊が来るまでの間……人間を植物の怪物に変える奴らは大人しくしてるんか?」
「…………」
この問いに対する答えはNOだ。
放っておけば奴らは今から、さらにあの種をばら撒くだろう。
「豪月組が逃げ出したら……下で暴れている、植物の怪物に変えられた一般人の皆さんはどうなる?」
「他の人を、襲うと思います……」
「せや。ワシらは普段、肩で風切ってえらそうに歩いてる。その代わりに、こういうときこそ一般人の皆さんを守らなアカン。それに──」
竜司は息を吸い、吐いた。
「──親父かて、同じ状況ならこうするはずや」
「ッ…………」
骨川は竜司の横顔に先代組長──豪月鳳翔の面影を感じた。
竜司は昔から、幼馴染である自分たちに対してさえも、父親の話をすることは少なかった。
だが彼はこの地域の人々の役に立つために信念を持って生きていた父親を尊敬しており、自分はそれを引き継ぐということを人生の目標にして生きてきた。
豪月組の組長となって組を引き継いだ今でも、そして──昨日最期の別れを済ませた今でも、竜司の心には常に鳳翔がいる。
「それに、ミサイルは発射済みや。自衛隊のやつとは違うけどな。そのうち奴らに着弾する」
「…………?」
骨川は意味が分からなかったが、そう言って小さく微笑む竜司の顔は、いつもの頼りになるリーダーの表情だ。
自分は、この人のこの笑顔にここまでついてきたのだ。
「ほら、ついたで。覚悟決めェ」
竜司はそう言って骨川と剛田、そして少し遅れて上がってきた虎助に向かって微笑み、ビルの屋上に出る扉に手をかけた。
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「あれ?警察じゃねーじゃん」
鳥峰陽介は、ビルの屋上に上がってきた男たち四人を見て驚いたような表情を浮かべた。
てっきり騒ぎを起こせば警察官が来て、そいつらを殺せば次に自衛隊がやってきて、自分の虎霊牙がどこまで人間の戦力に通用するかを試せると考えていた。
「警察が来るにはまだ早すぎる。この者たちは、私に撃ち込まれた種を素手で潰していた異常者たちだ」
詩音の言葉に陽介は「あー、あいつらか」と答え、「まあ関係ねえか」と笑った。
「警察の前に、殺す奴らが少し増えただけだ」
陽介はそう言ってから懐から動物の牙のようなものを一つ取り出し、それを強く握る。
虎霊牙は陽介の魔素に答え、橙色に強く輝いた。
「ッ…………!」
その光を見て、竜司は思い出す。
赤黒い色に刀を輝かせていた魔女、黒緑色にダイヤモンドを輝かせていた魔女、そして月光色に鏡を輝かせていた魔女。
この男もあの魔女たちと同じように、道具を輝かせて魔法を使うのだろうか。
「……グルルルルルルルアアァッッッッッ!!!!」
彼を包んだ橙色の光が消えると、低い地鳴りのような唸り声と共に、虎と人間が混ざったような姿の生き物がそこに立っていた。
鋭利な爪と、獲物の肉を噛みちぎる獰猛な牙が口から覗いている。
「さぁ……やろうぜぇ!!!少しは楽しませてくれよ!?人間!!すぐ死んじまったら面白くねえからなぁ!!!」
「いいぞー!よーすけくんやっちゃえー!!」
竜司は、人虎となった男の背後に、派手な服装をした女がいるのを見つけた。
先ほど下からビルを見上げたときに目が合った女で、手には生花で使うような剪定鋏を持っており、鋏は緑色に輝いている。
そしてその緑に輝いている鋏からは、薔薇のような、棘が生えた荊が少しずつ伸びている。
そしてもう一人、燕尾服を着て手に拳銃のようなものを持っている男がいる。
(あの鋏とか銃も、神器か……?彗チャンの鏡とか刀と同じ……)
「ど、どわあああああああああああああああああああああああ!?!?なんや、こいつ!虎!?人間!?」
竜司が思考を回していると、背後から虎助の叫び声が聞こえた。
「あ、兄貴!まさか上にはこんなバケモンがおるなんて!!はよ逃げようや!!」
「まあまて、虎助。お前も名前に『虎』が入ってるんやから話せば分かるかもしれん」
「いやそんなわけあるかぁ!!『グルルルァ』とか言うてるし、今にも殺しに来そうやんけ!!トラッピーとは訳が違うんやぞ!!」
トラッピーとは、彼ら──というよりこの地域の人間のほとんどが贔屓にしているプロ野球チームの、虎をモチーフにしたマスコットキャラクターである。
「そろそろいいか?俺たちは関西に漫才聞きに来たんじゃねえんだ。この異能で人間をどれだけ殺せるか試しに来てんだ」
「そうだよー。ま、あーしら今はお巡りさんとかを待ってる状況だからゆっくり相手してあげてもいーけど。おじさん、いー感じのイケおじで私の好みだし」
「いえ、姉上。多くの人間を殺して我々魔族同盟の恐怖を植え付ける目的もあるので、早めに『処理』してしまうのが得策かと」
三人は口々にそう言い、竜司はそれを見て笑った。
「ここは繁華街や。1日頑張った人間が、酒と共に『夜』を楽しむ場所。お前らみたいなんはお呼びと違うねん。はよ舞踏会と動物園と平成に帰れ」
「は?詩音の舞踏会、よーすけくんの動物園は分かるけど、最後の『平成』ってなに?」
「ねーちゃんみたいなギャルはとっくに絶滅してんねん。タイムマシンではよ自分の時代に帰れ、って言うたんや」
「カッチーン。まあおじさんには最新のファッションが分かんないってことね?はいオッケーオッケー。おじさんはここで死亡決定でーす。死因は人虎の爪に引き裂かれて出血多量でーす」
「いや俺がやんのかよ。自分でやるのかと思った──」
陽介がそう言って驚いて美蘭の方に振り向いた瞬間、竜司は服の下に隠していた短刀を抜き、人虎に斬りかかった。
ギィン!!
「あっぶねえなぁ……!いきなり来んなよな。ま、いいけどよ。そんじゃあな、ヤクザのおっさん」
陽介は竜司に別れを済ませ、鋭く尖った爪がついた手を振りかぶった。
「骨川!剛田!虎助!!」
竜司がそう叫ぶと、骨川と剛田は素早く人虎の左右に走り、拳銃を向けて引き金を引いた。
パァン、パァン!!
「ッ……!あっぶねえなぁ……」
左右から撃たれた弾を、陽介はしゃがんで躱した。
当たれば痛い弾だが、反応速度が高まっている人虎の姿であれば、避けるのは容易い。
「ん?」
陽介は不思議に思った。
ドスで斬りかかってきた男が、突然真横に飛ぶように動いたからだ。
自分は攻撃をしていないのに、この男は何かを「避けた」。
陽介はそう思ってドスを持った男を目で追ったが、その背後から突如として姿を現した、この男の弟と思われる男を見て目を見開いた。
「なッ……!」
兄の背後に隠れていたその男は、至近距離でこちらに拳銃を向けていたのだ。




