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魔女の末裔、怪盗となり月夜に舞う  作者: ぽよみ30号
月下には人狼と魔女

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216/222

背中に何かついてますよ

「私は──Witch Phantomと戦いましたが……引き分けました……」



陽奈は、そう言った瞬間に目から涙が溢れるのを感じた。



「戦いが長引いて、互いに魔素マナが尽きて……私も変身を維持できなくなり……Witch Phantomもその場から逃走しました……」



自分は嘘をついている。


魔族同盟が不利に、そして月詠家が有利になる嘘を。


自分の家族を……そして、この場にいる全員とその家族を裏切る嘘を、平然と並べている。


考え方としては月詠家の方が正しいと自分は確信している。


だが、それでも心は悲鳴をあげた。



「ごめんなさい…………」



つい、心から溢れた言葉が口から漏れる。


自分の正義を貫く苦しさと辛さを、陽奈は身を持って知った。



「「「「……………………」」」」



大勢の人間が自分を見ている。


疑っているのだろうか。

それとも、もうバレてしまったのだろうか。


この場で殺されてしまうのだろうか。


今からでも本当の事を言えば、助かるだろうか。



──だからさ、綺麗な世界なんてどこにもないんだよ。でもこの汚い世界の中で、自分が大切なものを守るために頑張る気持ちが、『強さ』なんじゃないかって……私は思ってる



だが、彗の言葉が陽奈の心を支えた。


陽奈は涙を流しながらも、そのまま口をつぐんだ。



「……いったい、どういうことだ?」



「ッ!!!」



花哭家当主──花哭廻明はななきかいめいの言葉に、陽奈はビクンと体を震わせた。



「我が息子の話によれば……息子はあなたへの助太刀を申し出たが、あなたは『不要だ』と一蹴したとか……」



廻明は「それならば」と続ける。



「なぜ『引き分け』などと、情けない結果をぬけぬけと報告できるのか?なあ?鳥峰家の皆様方」



廻明の嫌味ったらしい口調に大山はぴくりと腕を震わせたあとに耐えたが、陽介は耐えなかった。



「何言ってやがる!どこが『ぬけぬけと』だ!!陽奈は泣いてんじゃねえか!!こんなに反省している女をネチネチと責め立てるのが花哭家てめえらのやり方なのか!?」



「あ、お兄ちゃん、ちがっ……!」



陽奈は「この涙は違う」と伝えたかったが、口を閉じた。

「じゃあ何の涙だ」と聞かれても答えられないことに気がついたからだ。



「ぐっ…………」



廻明は嫌そうな顔をしたあとに、黙った。


「感情論的な話をするな」と責めても良かったが、周囲の顔を見る限り、負けたわけでもないのに号泣しながら「引き分け」の報告をする陽奈に同情する方向の者が多い。



「すみませんな、皆様方……」



そして、これを機を見た大山が口を開いた。



「我らが鳥峰家は魔族同盟の最高戦力。つまり、勝利を約束しなければならない存在。にも関わらず『引き分け』という不甲斐ない結果となり、娘も涙が止まらないようで……」



「ッ…………」



廻明は悔しそうに大山を睨みつけた。


娘の涙、息子の援護、そして場の空気を利用し、自分たちの格を下げずにこの場を乗り切った。


経験豊富な大山の老獪なやり口によって、廻明は攻め手を失った。



「あ、あの、鳥峰家の陽奈さんの『引き分け』については、もういいのではないでしょうか?」



別の家の当主から意見が上がり、この場の流れは決した。



「ぐっ……!」



ここでこれ以上食い下がったら、格が下がるのは花哭家の方だ。


花哭家として、それは避けなければならない。



「それより、今後の作戦を議論した方が有意義なのでは……」



『……そうだな。陽奈、ご苦労だった』



総帥の声により、鳥峰家に咎は与えられずにこの場は収まった。



「「…………」」



大山と陽介は、心の中で小さく息をついた。


自分たちは娘を、妹を守り切ることができたのだ。



「…………」



そんな二人を見て、陽奈は針を心に刺されたような痛みを感じた。



(でも、これでもう……)



後戻りは出来ない。


「強い魔族」への道は完全に閉ざされた。


自分は月詠家の味方として、魔族も人間も含めた、真の「強い人間」を目指すしかなくなったのだ。


魔族も人間も含めた「強い人間」──それは月詠彗の姿であり、陽奈の理想。


自分はもう、そこに進むしかない。


それがどれほどいばらの道であろうとも。



(この会議では……あと、もう一仕事しないと……!)



陽奈は取り急ぎ嘘の報告がバレずに安心したが、まだ終わりではない。


宵に、この会議でやってほしいと言われた仕事はもう一つある。



─────────────────



「陽奈、席に戻れ」



兄に呼ばれ、会議室の中央に立たされていた陽奈はゆっくりと歩き、兄の隣に作られた自分の席を目指す。


その際に、いくつかの他の魔族の背後を歩いて通る。


そして、花哭家の背後を通ったときに陽奈は口を開いた。



「……あれ?詩音さん、背中に何かついてますよ」



「ん?」



詩音は陽奈にそう言われながら、背中に手を触れられる感触があった。


詩音が振り向くと、床にヒラリと1枚のカードが落ちる。


詩音はそのカードを拾い、手に取る。



「…………!?」



それを拾った詩音は驚愕した。

何故ならそのカードには「予告状」と書かれており──



「なッ………!?」



差出人の名前は──怪盗Witch Phantom。

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