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魔女の末裔、怪盗となり月夜に舞う  作者: ぽよみ30号
最後の神器

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まさか、満月鏡にこんな使い方があったなんて


「……あれ?ここ、どこだろう……」


輪生が目覚めると、そこは真っ白な空間。

上下左右何もない、だだっ広い場所。


「やあ」


「?」


女性の声がして振り向くと、そこにいるのは20代後半ほどの年齢と思われる容姿の、髪が長い女性。


そして特徴的なのは彼女が着ている十二単じゅうにひとえで、輪生はそれを見てひな祭りの雛人形を思い浮かべた。


そして彼女からはなんとなく、彗や春華……輪生が知る月詠家の女性に共通する顔立ちが感じられた。


「あの、あなたは……?」


輪生がおずおずと尋ねると、その女性は微笑みながら答えた。


「私は月詠菖蒲ツクヨミアヤメ。……まあ、責任者のようなものだね」


「責任者?」


「ああ。君が春華に洗脳されたのも、前に大西椿という男が夏波のせいで酷い目に遭ったのも、私の責任と言える。すまなかった」


「はぁ……」


輪生は夏波が連れていた「鬼坊」と呼ばれる男を思い出した。

寡黙な人だったが、幼い頃に少し遊んでくれたことを覚えている。


「私は月詠家のせいで被害を受けた人に、こうして謝ることにしているんだ。責任者としてね」


菖蒲は続ける。


「あ、ちなみに君にかけられた春華の洗脳の影響は、彗の魔法できちんと消えるよ。次に目覚めたときは春華のことも忘れている。私と会ったこともね。だから私は半ば自己満足で君に謝っている」


「は、はぁ……」


菖蒲の言っていることはよく分からなかった。

『責任者』と名乗っているが、春華より若く見えるこの人は、いったい春華や彗の何にあたる人なんだろうか。


「あ、あの……菖蒲、さん」


「なんだい」


「なぜ、あなたが『責任者』なんですか?」


輪生は率直な疑問をぶつけた。

そして彼女からの返答は輪生を驚かせた。



「そりゃそうだよ。だって、あの三種の神器は──」



菖蒲は十二単の袖で口元を隠し、「ふふっ」と自嘲気味な苦笑いを浮かべた。



「──私が作ったんだから」



彼女の言葉を聞いた輪生は目を見開き、驚いた。



「じ、神器を!?菖蒲さん……あなたは一体、何者なんですか!?」


「だから責任者だと言っているだろう。なんだっけ、最近できたあの言葉……『製造者責任』だっけ?それだよ」


輪生は訳が分からない。

会話がずっと噛み合っていない。

そしてこの自分のペースだけで延々と話をする感じは、どこか彗に似ている気がする。


「菖蒲さん、もっと教えてください!あなたのことを!」


「わあ、最近の男の子は積極的だなぁ。言っとくが……私は君よりかなり年上だぞ?」


「………」


ニヤリと笑う菖蒲を、輪生は無言で見つめた。

今はくだらない冗談は聞きたくない。


「わ、分かったよ。そう睨むんじゃない。じゃあ……そうだな。神器を作ったときの話をしようかな」



─────────────────



私は生まれつき体が弱くてね。家族の中ではいつも邪魔者扱いだったよ。


「え?ナレーション風に語るんですか?」


うん。その方が聞きやすいと思ってね。


「……わかりました。続けてください」


体が弱かった私は、しょっちゅう血を吐いて倒れていて、いつ死んでもおかしくないような状態で生きていた。


実家はかなりいいとこの公家くげだったんだが、奴らは体が弱く利用価値がない女の私を捨てるように、下級貴族の「月詠家」に嫁に出した。


「くげ?」


今でいう官僚とか政治家みたいな連中さ。


月詠家は医者の一族でね。

死にかけの娘だが医者ならちょうどいいだろう、って実家の連中は嫌味に笑っていたよ。


だが、私を嫁にもらってくれた旦那は良い男でね。

今にも死にそうな私を必死に治そうとしてくれたんだ。


でもどうしても駄目で、何の薬も効かなかった。


ある月が出ていない晩……私は最悪に体調が悪かった。

その日は朝から目眩で倒れ、昼は血を吐き続け、夜にはいよいよ死を覚悟した。


でも「死にたくない。強い体が欲しい」って思うと、体から突然黄色い湯気が湧いた。


体を包んでゆらゆらと揺れるその湯気が何なのか、最初は分からなかった。


だが私は直感的に、その湯気を使えば何とかなるような気がして、近くにあった枕とか、湯呑みとかにその湯気を込めてみたんだ。


でも駄目。枕は湯気が漏れ出て安定しない。湯呑みはすぐ割れた。


私が旦那に「頑丈なものを持ってきてくれ。この湯気をぶち込むから」と言うと、旦那は意味がわからなかっただろうに、それでも「じゃあこれを」と一振りの刀を持ってきてくれた。


私は最後の思いを込めて、黄色い湯気をその刀に押し込んだ。「強い体が欲しい」って願いを込めてね。


すると刀は湯気を取り込んで安定し、私の体を強くしてくれるようになったんだ。


「まさか……!」


お、察しがいい子だね。

その通りだよ。私はその刀に「新月刀」と名前を付けたんだ。


さてさて、見事生き残った月詠菖蒲は子供を産んだ。


嬉しかったねぇあのときは。

このまま死ぬと思っていた女が、なんと子供まで産めた。感無量ってやつさ。


産まれたのは二人の女の子。

長女にはかすみ。次女にはすずと名付けた。


しかし一つ大問題が。


娘たちも体から湯気が出るんだ。

かすみからは紫色、鈴からは私と同じ黄色の湯気。


そしてその子たちは、それまでは私しか扱えなかった新月刀を使うことができた。


「あ、あの……さっきから『湯気』って呼んでいるそれって……」


ああ。君たちが「魔力」って呼んでるものだね。

私は自分のこれを死ぬまで「黄色い湯気」って呼んでたけど、何代目からかは「月光色の魔力」なんて小洒落た呼ばれ方をするようになったなあ。


……まあそんなことで、自分が助かるために作った神器だが、娘たちも湯気を使ってそれを扱える。


最初は喜んださ。

新月刀は患者の治療にも便利だったからね。

これで月詠家は安泰だー、なんて旦那と浮かれてた。



でもある日──霞が新月刀を盗んだ。



そして山賊たちと手を組み、彼らを新月刀の力で強化して、みやこを襲い始めた。


まあ、今と似たような状況さ。

春華や夏波がやったこととおんなじ。


「………」


私は焦ったね。

何せ神器はあれ一つだし、新月刀がなければ私は虚弱体質のただの女。


でもそこで鈴が、私の目を見ながら言った。

「お母さん、もう一つ神器を作ろう。お姉ちゃんを止めるために」って。


私はそれを了承し、前と同じく旦那に「とびきり頑丈なものを持ってきてくれ」と頼んだ。


すると旦那はどこで手に入れたか分からない金剛石を持ってきてくれた。


「金剛石?」


いまはダイヤモンドとか呼ばれてるね。

私はそれに「娘が言うことを聞きますように」と強い思いを込めて……完成したよ。


そして最初の神器を作ったときと同じく月を見上げ、名前を付けた。


「三日月ノ玉……ですね?」


その通り。そして鈴に「霞を頼む」と三日月ノ玉を持たせた。


戦いはすぐ終わった……というより、一瞬で終わった。


鈴が三日月ノ玉に湯気を入れて、「全員、止まれ」って一言でおしまい。山賊どもは投獄。神器も元通り。


捕らえた霞は「二度としない。許してくれ」と泣くものだから、月詠家に幽閉することにした。


「よかったですね」


何を言っている。

私はここでとんでもない間違いを犯していたのさ。


「え?」


君も被害者だろう。よく考えろ。

非常事態だったとはいえ、「他人が何でも言うことを聞く道具」を生み出したんだぞ?


「あっ……!」


そう。あの玉は危険すぎた。


霞は座敷牢に入れてあったんだが、私に似て顔立ちが綺麗だったからね。

牢番を誘惑し、三日月ノ玉を自分のところまで持って来させた。


霞はさとい子だったよ。

新月刀が破られたあの負けいくさの最中に、自分が勝つことではなく、どうすれば自分が生き残って三日月ノ玉を手に入れられるかだけを考えていたんだ。


「あ……ああ……!」


ご想像の通りさ。

月詠家の者はみーんな霞に洗脳された。

新月刀ももちろん奪われた。


そんな中……鈴だけが異常にいち早く気付き、私を連れて外に逃げ出してくれた。


私たちは町外れのボロ小屋の中に二人っきり。


慌てて逃げてきたから、持ってきたのは近くにあった化粧箱だけ。


ボロ小屋の壊れた天井から覗いている綺麗な満月が憎かったなぁ。あの夜は。


……さあ少年。

二度も自分が作った神器で反乱を起こされた間抜けな女は、どうしたと思う?


「まさか、もう一つ……!」


その通り。


鈴と二人であれやこれや考えたが、結局はこうするしかない。


手元にあった化粧箱の中で一番頑丈だった鏡を手に取り、私は三度目の願いを込めた。


最初は「三日月ノ玉に勝てるものを!」と願いを込めたがうまくいかなかった。願いに具体性が足りなかったんだろうね。


次に「人の考えを変えられるものを!」と願おうとしたが、鈴に止められた。

これは第二の三日月ノ玉を生み出すだけだからね。


次の神器は、武器としては使えないものにしたい。


そして悩んだ私は「その者の本来の姿を現すものを」と願いを込めた。


もちろんここでの「本来の姿」というのは、三日月ノ玉の魔法を受ける前の状態という意味だ。


こうして「満月鏡」が完成し、私は以前と同様に鈴にそれを託した。


鈴は月詠家に忍び込み、黄色い湯気を満月鏡に込め、洗脳された人に向けて使った。


するとたちまち彼らは「本来の姿」を取り戻していった。


満月鏡は三日月ノ玉の解除装置として作ったんだから、それは当然だね。


そして鈴は、霞が油断してほっぽかしてあった新月刀を奪った。


霞は以前、新月刀を持っていても三日月ノ玉にあっさり負けている。

だからあの子にとってもはや新月刀は重要なものじゃなかったのさ。


そして鈴は二つの神器を手に、再び霞と相まみえた。


一回目のようにすぐに決着はつかなかった。


霞は周囲の人間を操り、鈴を殺させようとした。

鈴は満月鏡で彼らの洗脳を解きながら、新月刀で強くした体で素早く動いて立ち回った。


霞は鈴にも直接洗脳をかけようとしたが、鈴は完全に自分が洗脳にかかる前に満月鏡でそれを解除した。


魔法の応酬が続いた。

……私は、自分が作った神器で娘たちに殺し合いをさせてしまったんだ。


しかし最後には鈴が勝った。

鈴は泣きながら……しかし月詠家の未来のために、新月刀であねの首を刎ねたんだ。


霞は無敵だと思っていた三日月ノ玉の洗脳だが、それ専用の「解除装置」を作られたんじゃあ負けて当然だね。


「あ!あの!でも……満月鏡は……そんな神器じゃ……」


……ああ、そうか。

君はそう思うよな。

うん、当然だ。

君にとっての満月鏡は「変身する」神器か。


そうだよ。

この話にはおまけがある。

最後にこの話をしておしまいにしようか。



あの騒動のあとに鈴は結婚、出産した。


私の孫たちにも湯気は遺伝して、私はただの婆さんとして楽しく老後を送っていた。


そして孫たちは娘たちと同様、私が作った神器を扱うことができた。


だから私は孫たちが霞のようにならないために、神器の正しい使い方を教えて過ごしていた。


しかし満月鏡を持った孫娘の一人が、その子の姉に向かって「お姉ちゃんは本当は猫だから、猫になれ!」と訳の分からないことを言ったのさ。


子供らしい発想だね。


でもびっくり、なんとその子は本当に猫の姿になってしまった。


そう。私が「本来の姿にする」なんて曖昧な願いで作ってしまった満月鏡は、使用者が「本来の姿」と定義したものに変身させる道具になっていたんだ。





それを見た私は天を見上げ、呟いたよ。



「まさか、満月鏡にこんな使い方があったなんて……」



ってね。

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