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SS:俺の将来(エヴラール)

 久し振りにジャンケンに勝つことができ、ミキ様を図書館まで送ることになった。モイーズ先輩はジャンケンにめっぽう弱いので敵ではないが、オディロン隊長が曲者で、いつも勝利をもぎ取っていくんだ。つくづく敵に回してはいけない人物だと思う。


 ミキ様と二人きりで並んで歩いていると、気分が浮き立つのが自分でもわかる。最近は少し自信が出てきたのか、儚げな様子は影を潜め、凛と前を向いて歩いているミキ様の姿に魅せられていた。

 この南の町にやって来て三か月ほどが経ち、生活もかなり落ち着いてきた。俺はミキ様の役に立っているし、少しは信頼されていると思っていたんだ。


「私ね、神官長を信じていなかったの。だって、帰還したことになっている元聖女なんて、面倒なだけじゃない。だから、この町まで送ると嘘をついて途中で捨てられるかもしれないと思っていた。そうなれば私なんて絶対に一人で生きていけないものね」

 ミキ様は家を出てすぐにそんなことを言い出した。彼女が人間不信気味になっていることは知っている。そうしたのは俺たちだとわかっているけれど、そこまで信じてもらえていなかったのかと衝撃だった。


「そんな! この世界を救ってくれたミキ様を見捨てるわけないじゃないですか! 万が一、神官長がそんなことを命じても、聖騎士は絶対に受けませんから。神殿を裏切ってもミキ様を一生守ります!」

 そう言うとミキ様は少し笑顔になった。

「だから、護衛にエヴラールを選んだのよ。だって、他の聖騎士なら、私を見殺しにするにしても、神官長の命令を無視するにしても、苦しむだろうと思うの。でも、違う世界から無理やり連れて来られて弱っている私に水をぶっかけるほど、悪意をぶつけることをためらわないエヴラールなら、別に苦しまないだろうから。それに、裏切られも辛いと思わなくても済むしね」

 その言葉が俺を抉る。過去の罪はいつまでも消えることはない。

「本当に悪かったと思っている。ミキ様がモイーズを誘ったと誤解して、とんでもないことをしてしまった」


「私がモイーズを誘ったのが本当だとして、魔王討伐を逃れる術が処女喪失だと知って、その選択をした女を責めるのね。女としての尊厳を捨ててまで選んだことでしょう? それさえ否定するのよね」

 ミキ様の声はあまりに平静で、責めるようには聞こえなかった。それは怒りより絶望の方が勝っているのだと思う。

 俺は本当に何ということを仕出かしてしまったのだろうか? 尊敬するモイーズ先輩を第一級罪人に堕としたミキ様が憎かった。カナコや仲間でミキ様の悪口を言い合っているうちに、俺はミキ様をとんでもない悪女だと思い込んでいたんだ。


「水をかけられて、本当に惨めだった。服が体に張りつき下着が透けて見えているし、通りかかる男性はじろじろ見ている気がするし、本当に不安で情けなかったのよ」

 俺は声も出せなかった。酷いことをしてしまったのだと今更ながらに思うが、詫びの言葉さえ出てこない。


「ねえ、もう終わりにしましょう。神官長は私を闇に葬るほどあくどい人ではないとわかったし、ここでの暮らしにも目途はついた。ここなら私一人で生きていけると思うの。それに、エヴラールが罪から解放されると、オディロンだってこの町から去ることができるでしょう?」

「嫌だ! 俺は一生ミキ様の側に仕えて罪を贖うんだ。第二級罪人を牢から出せば、被害者に扶養の義務が発生する。勝手に放り出すことはできない。それに、第二級罪人は解放を拒否する権利もある」

 どのように扱っても許される第一級罪人と違って、死刑方法が限定されている第二級罪人を牢から出す際は、様々な制限がつくのだ。だから、ミキ様の側にいるのは正当な権利である。

「それは聞いているわ。でも、解放を拒否するっておかしいでしょう? 私が死ねば死刑になるのよ」

 それが何だというのだろうか。ミキ様の命を守れなかったのなら、死んで当然だと思う。


「罪人でなくなっても側に置いてくれるのなら、今すぐ解放してもらうけれど」

 それの方がミキ様のためにできることが増える。罪人はかなり不自由な身だから。

「そこまでして、私にこだわらなくてもいいと思うの。私が辛い思いをしたことを知っていてもらいたかっただけよ。死刑や焼印が見合うような罪だと思っていないもの。だから、私のことは忘れて幸せになっていいの」

「嫌だ! ミキ様を忘れることなんてできない。俺はミキ様の罪人だから」

 ミキ様が俺を側に置いてくれるのは、俺に情がなかったからだ。俺が裏切っても辛い思いをしないとミキ様は言った。

 今日になってこんなことを言い出したのは、俺に情を持ち始めたのかもしれない。それは本当に嬉しい。

 でも、ミキ様に遠ざけられるのは嫌だ。

 俺にできるのは第二級罪人であることを根拠に、無理やり側にいることだけだ。


「とにかく、将来のこともちゃんと考えておいてね」

 そう言って、いつの間にか着いていた図書館へとミキ様は消えて行った。


 俺の将来は決まっている。モイーズ先輩や隊長がミキ様のもとを去ったとしても、俺だけは一生ミキ様の側にいる。それだけは揺るぎない。

 俺はミキ様を裏切ることなんてあり得ない。

 だから俺を許さないでほしい。情などいらない。俺は一生貴女の罪人だ。


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