急展開
島田は、ミチルの顔を感慨深げに見つめた。
「君はお父上からどこまでのことを聞き及んでいるのかわからないが‥‥‥君のお父さんが黄泉の国へ落ちてしまったことは聞いたの?」
「三途の川から這い上がって、そこで那津姫様と霊鳥大鷲に出会った話とか、いろいろあった末、やっとのこと、霊を目視出来る先生の力添えでこの世に戻れたと言ってました」
「そうか‥‥、間違いなく君はあの土方馬白くんの‥‥‥」
「ちょっと、どういうことですか? 先生と土方のお父さんは知り合いなんですか? 霊を目視出来るって?‥‥‥その若い先生が島田先生だというのなら!」
ルイマは急展開な流れにドキドキしている。
「‥‥‥彼の父親の馬白くんは、僕が新任で赴任して来た年に入学して来た子ですよ。もう何十年も音信不通ですがね。それで、ミアさんのことだが、多分それは蓮津姫の仕業‥‥‥」
「おーい!ミッ君、キリルーいるかー?」
突然大きな男子の声が響いて来た。
「うわっ、この声は‥‥‥」
ルイマとミチルは顔を見合わせた。
「ザッカリーね。なんてタイミングが悪い人なのかしら?」
「いいですか? この話は秘密ですよ。続きは明日です。それとミアさんのことだが、僕が調べておこう。僕が思うに彼女にはそれほどの心配は要らないはずだ」
ルイマとミチルがバックヤードを出ると、目の前にリアスが立っていた。
「やっぱりここかぁ。見つけたぜ! さっすが砂区さん!」
「砂区さんって誰よ?」
ルイマがあからさまに迷惑そうな顔をリアスに向けた。
「おやおや、座家くん。図書室では静かにね」
島田が遅れてドアから出て来た。
「すみません。キリルたちが図書室にいるって聞いてさ、探しに来たんだ。へへ。また取材かよ? 今度はミッくんに助手を頼んだんだ? そんなとこだろうと思ってた」
ルイマとミチルが後ろを振り返って言った。
「島田先生、ありがとうございました。明日放課後、伺います」
「はい、待ってますよ」
3人は図書室を退出し図書室から離れて、渡り廊下の途中で立ち止まった。
「なんか用なの? ザッカリー」
ルイマがうざそうな目を向けた。
「なんだよー、冷たいなぁ。オレ図書室あんま好きじゃないのにわざわざ来たんだぜ!」
「まあ、あんたに本は似合わないかもね」
「ちっ、当たってるけど、そんなんじゃねぇよ」
「で、なんなのよ?」
「キリルがさ、ラブリーな男子と図書室にこもってこそこそ話してるって噂が流れて来たからさ、きっとミッ君のことだと思って見に来たんだ。暇だったし」
「ふ~ん。私のこと見て噂してるなんて本当に暇なのね。定期テスト勉強はしているの? それに、ザッカリーがここまで来るなんて、どうせミアが美術部のモデルになったことでしょ?」
「何それ?」
「あら? 砂区さんとやらには聞いてないの? まあ、いいわ。私、やることがあるから行くわね。土方、明日もお願いね」
「あ、うん。錦鯉研究会はその後で行けるかな? でもこっちが優先だな。じゃ、また明日」
ルイマはさっさとその場を去って行った。
ルイマの後ろ姿が消えると、ミチルはさっきからずっと気になっていたことをリアスに告げた。
「ザッカリー、ミアちゃんが美術部で絵のモデルをしているんだって。僕もついさっき聞いたばっかりでさ。一緒に見に行こうよ。僕、心配なんだ」
「まじんこ? 早く行こうぜ。美術部、管理棟1階だな。でもなんでまた? 真夏多さんらしくないよな? そういうの」
普通教室棟2Fの渡り通路脇にある図書室からは、特別教室が集まる管理棟まで渡り廊下を突き抜け、廊下を右に進み階段を降りて奥の角まで行かなければならない。
リアスはミチルの腕を引っ張りながら早足になってミチルに言った。
「うん‥‥そうだね。だから心配なんだ。」
「ミッ君、ま、まさかとは思うけど、スッゴいエロポーズとか、セクシー衣装とか、強要されてんじゃないだろうな? 真夏多さん、おかしな無茶ぶりとかされてねーよな?」
「ま、まさかだよ!」
「もしもの時は止めるんだ! いいな! 急ごう! いいからミッ君オレの背中に乗れ!」
「えっ?」
「早く!」
「うわっ!」
リアスはミチルを背負って、疾風の如く廊下を走り抜け、ダダダっと階段を駆け下りた。