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内気少女といにしえの恋  作者: メイズ
城跡に立つ高校
13/76

美術部にて

 次の日、1年8組の教室で。

 

 

「座家く~ん、聞いたよ~! 昨日の放課後の事。行動派なんだね!」

 

 砂区 愛が、帰り支度をしていたリアスの席まで来た。なにやらニヤニヤしている。

 

 リアスに嫌な予感がよぎる。

 

「‥‥‥?」

 

「あたしが昨日、図書室にいるって教えてあげたからソッコー行ったんだ?」

 

「何の事だよ?」

 

「聞いたよ! 切取さんが付き合っているラブリー男子を奪ってお姫様だっこで連れ去ったんだってね? 聞いたよ!」

 

「なんだよ、変な噂広めんなよ!誰だよ、そんなこと言い出したヤツ!」

 

「えー、違うのー? BLではなかったのー?」

 

「はぁ? お前そういうのが好きなのか? オレのおかしな噂広めてんじゃねーよ! 今度はお前の噂を流してやっからな! 砂区は腐女子だってなー」

 

 楽しげに机の横に立つ砂区愛を、椅子に座ったままリアスは、斜めに見上げて目をすがめた。

 

 リアスは元より今日は機嫌が悪く気分がクサクサしていた。

 

「もう、座家くんって意地悪ねっ! 今度からなんにも教えてあげないよっ?」

 

 ぷりぷりしながら砂区は引き上げて行った。

 

 

 リアスの前の席で様子を見ていた中村ヒトミが座った椅子をゆらゆらさせながらリアスを振り替えった。

 

「そう、カリカリすんなよ。あいつ、切取ルイマ推しだからな。その話、興味津々なんだ」

 

 中村の広角が片方ニヤリと上がった。

 

「‥‥‥ふーん、それでかよ? じゃあ、オレは噂通りだとしたら感謝されるべきだよな。引き離したってことになってんだろ?」

 

「あはは、そうだな。ザッカリー。俺、2組の噂の美少年知ってるよ。砂区はそいつのこと言ってんだろ?」

 

「なんで? 中村、ミッくんを知ってんの?」

 

 二人は何の接点も無さそうだったので意外だった。

 

 

「先週さ、靴箱前の突き当たりの掲示板にさ、錦鯉研究会ってポスター貼ってる男子がいてさ、後ろで見てたら俺、勧誘されたんだ。なんでも部員が3人しかいないとか言ってさ、で、その男子を見たらお人形さんみたいにかわいいんだ。世の中にはこんな男子もいるんだなって感心しちまったよ。よかったら2組の土方まで言ってくれって言われてさ」

 

 思い出してくうを見つめてうっとりしている。

 

 

「あー、そういえば昨日、ミッくんが錦鯉研究会なんだの言ってたかも。ふーん、正式入部したんだ‥‥‥」

 

「あんな穢れのないキレイな顔みてたらさ、俺、入ってもいいかなって思ちゃった」

 

 中村は微笑みを浮かべ、指を組んで祈りの格好をしている。

 

「おいおい、ミッ君が穢れる。ヤメとけや」

 

「なんだよ~、やきもちかぁ?」

 

 ニヤニヤしながら返して来た。

 

「だから、違うっての!」

 

 

 ーーー何でこういう方向に向かうんだろう? こいつらおかしな妄想小説の読み過ぎなんじゃね? でも‥‥‥ミッくんにあの顔でニコりとされたら魅せられてしまうのも仕方ないかもな。

 

 

 リアスは苦笑いをしながら荷物を持って立ち上がった。

 

「じゃ、また明日。オレ、今日はバスケ部の助っ人なんだ。部内練習試合の数合わせでさ」

 

 廊下に出て体育館に向かいながら、昨日のことを思い出していた。

 

 

 

 ***************

 

 

 

「すげえー! なんだ、あれ、新しいトレーニングか?」

 

「やべぇ、猿の親子じゃん!」 

 

 ミチルをおぶってカバンも持って校内を駆け抜けるリアスを、すれ違う生徒達が、驚きと嘲笑で見ていた。

 

 一刻も早くミアの様子を確かめたいリアスは、そんな事には構ってはいない。

 

 

「よっしゃー、着いたぞ! ミッ君! ハァ、ハァ、ハァ‥‥‥」

 

 ミチルを背中から下ろし、リアスは大きく息をついだ。

 

 

「ご苦労様。ザッカリーったら、そこまで急がなくても‥‥‥ふふふっ。ザッカリーはたくましいなぁ‥‥‥。じゃ、ちょっとこのガラス窓から覗いてみ‥‥えっ」

 

「失礼します!」

 

 

 ミチルが止める間も無く、リアスは既に引戸をガラッと開けていた。

 

 中にいた美術部員が一斉にこちらを見た。窓際で、なぜか読書をしているミアが見えた。

 

 

「見学させてくださいっ!」

 

 リアスが大きな声で言って深く一礼した。

 

「いきなりまあ‥‥‥入部希望かしら? それともまたもや冷やかしなのっ?」

 

 癖のある髪をバレッタでアップにまとめ眉間にシワをよせた女性がリアスの前に立ちはだかった。

 

 明らかに気分を害している。彼女は美術部の顧問の今田こんだあおい先生だ。

 

 

 ーーーやばい‥‥ザッカリーったら!

 

 ミチルはすかさずリアスの前にさっと割り込んだ。

 

 

「今田先生。突然すみません。僕たち入部希望では無いのですが、ここの教室前に展示してある美術部部員の作品がとても素晴らしいので、どのように製作されているのか見たくなってしまって‥‥」

 

 ミチルが今田の顔を見ながら顔を赤らめて遠慮がちに言うと、今田の表情がふっと緩んだ。

 

「まあ、そうだったの。仕方ないわね。特別よ。でも、みんな集中して描いているの。静にね」

 

「はい、ありがとうございます。僕たち静かに見学します」

 

 ミチルがにニコッと微笑んだ。今田の不機嫌は見事に収まってしまったようだ。

 

「そうしてちょうだい。先週からなぜか部外者がうろうろ何人も来るようになって、困っていたのよ」

 

 

 今田先生は、部長に連絡事項を告げると、職員室に戻ると言って美術室を出て行った。

 

 

 ミチルはリアスの袖をつんつんと引っ張っってから耳許でそっと言った。

 

「ザッカリー、今のポテトMとアイスティーで手を打つよ」

 

「さすが、天使のスマイルっ、助かった! よし、帰りに行こうぜ」

 

 目的のミアは、通常の制服姿にて窓際の椅子に座り、ただ読書しているだけだった。何事も無かったように、こちらに目を向けることも無く。

 

 その回りを椅子に座った生徒が10人ほど取り囲んで、ミアの姿を寡黙に移し取っていた。

 

 ミアの様子を確認したふたりは目配せをして美術室を後にした。

 

 その後暫くしてから、ルイマに協力するためにできた4人のSNSグループにミアからメッセージが届いた。

 

「どうしたの? 私を見に来たの? びっくりしたー」

 


 ミチルがミアのことを聞いて心配で見に行ったことを送信すると、すぐに返信が来た。

 

 それによると‥‥‥

 

 先週から絵のモデルをする事になった。ただ、本を読んでいて良いということになった。白いワンピースを用意されていたけど断った。みんな親切で問題は無い。私がモデルをしていることは部員は口外禁止になっているけど、だんだん広まっているみたい。心配させてごめんなさい。私は大丈夫。

 

‥‥‥と、いう内容だった。

 

 

 

 日良豆駅前の店でリアスとミチルはポテトをほおばっていた。

 

「オレたち取り越し苦労だったなぁ。ミッくん」

 

「うん‥‥良かったね。制服姿で座って本読んでただけで‥‥‥」

 

「どうしたんだよ、ミッくん。安心したのに沈んだ顔して」

 

「ううん、なんだか知らない内にミアちゃんが遠くに行ってしまうような気がしたんだ。知らない間に状況が変わっていて‥‥‥」

 

「おいおい、友だちだからってなんだってシェアするわけじゃないだろ。すべてを知らせ合うわけじゃない。他人なんだからさ。それでもオレらは友だちだぜ。あ、オレは真夏多さんとは未だ友だちとは言えないけどな‥‥‥」

 

 

 目前でコーラを飲むリアスを見るミチルに、もやもやと焦燥感がわき上がって来た。

 

 おんぶされて運ばれたことがきっかけで、自然とリアスと自分を男として比較していた。

 

 ‥‥‥どれもザッカリーには負けている、と思った。

 

 ミアに対する捉え方すら。そしてフィジカル的にも。

 

 それは自身でも思わぬ言葉となった。

 

 

「‥‥うん、知ってるよ。ザッカリーは "友だち" じゃなくて彼氏になりたいんだよね」

 

 

 リアスは、飲んでいたコーラを吹き出しそうになって、やっとでこらえて飲み込んだ。

 

「なっ、なに言ってんだよっっ! 急に!」

 

「隠さなくてもいいさ。僕、中学の時から知ってるよ」

 

 今まで言わなかった言葉が淡々と出た。

 

「オレ‥‥‥気持ち駄々漏れだったかもな。オレは‥‥‥なんというか‥‥アイドルに憧れているようなそんな感覚でいたんだ。でもさ、最近少し近づけて、オレでも もしかしたらって思って来てて。‥‥‥好きだ。初めて見た時から‥‥‥」

 

 

「‥‥‥僕、ザッカリーが好きだよ」

 

ミチルはリアスの目をまっすぐに見ていた。

 

「えっ?!」

 

 

そして、目を伏せて言った。

 

「でも、ミアちゃんは渡さない。今日はご馳走さま!」

 

 ミチルは立ち上がると、ニコッと微笑んでから、またね、と手を振って帰って行った。

 

 

 ひとり残されたリアスは小さな声でつぶやいた。

 

「なんだよ? 急にキレやがって。オレだってミッくんが好きだ。真夏多さんのことは別にして」

 

 

 リアスは、ミチルのミアへの想いは、ただの幼なじみとしてでは無いことを知った。

 

 

 

 *************

 

 

「おーい、座家、遅っせーぞ! 荷物そっちに置いて。タオルとドリンクはそっちな!」

 

バスケ部の声でリアスは我に返った。

 

「ういーっす!」 

 

 

 

 

 

 

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