77話
「さて……と」
懐から携帯用の燭台に火を灯すと、カルは周囲を照らしながら慎重に歩き始めた。
荒削りの壁は狭く、中腰で歩く程度の高さだった。
空気はかび臭く、長い間誰も通ってないことがわかる。
天井は低く、中腰でなければ進めず、しかも人一人分の幅しかない。
口元に布を当てながら、カルは用心深く歩を進める。
「ずいぶん先が長いわね……」
どこまで続いているのわからないのはもちろんだが、万が一行き止まりだった場合、もう一度あの部屋に戻らなくてはならない。
できることならどこかに繋がっていることを願いながら、ゆっくりと先に進んでいく。
が、行き止まりにぶつかり、愕然とする。
「……嘘でしょう」
今、あの部屋に戻るのはまずい。
だからといってこんな場所で餓死するのはご免である。
カルはこれも仕掛けの一部ではないかと、燭台で壁を照らしながら手探りでさがす。
と、天井の一部が妙に出っ張っている部分に気づいた。
カルは力一杯押すと、壁が少しだけ動いた。
だがそれ以上いくら押しても壁が開く気配がなく、カルは仕方なく開きかけた壁を強く押した。
と、壁はくるりと回り、カルは危うく下に落ちそうになってしまった。
「あ…あぶなかった……」
なんとか身体を起し、燭台で辺りを照らすと、やや広い空間にでた。
左右に道が分かれており、天井は高く壁も滑らかでがっしりとしている。
どうやらカルが出てきた場所は抜け道だったらしく、床まで一メートルほどの段差があった。
「…ずいぶん古いけど……もしかしてセリアもここを通ったのかしら?」
恐らく緊急時に使う通路なのだろうと考え、カルは用心しながら左右を確認する。
「ここ最近……誰かが使ったあとはないわね…」
だが用心にこしたことはないと、カルは慎重に通路に降り立つ。
そして壁をもう一度回転させると、ガチッとはまる音と同時にもどる。
すると、そこには最初から扉などなかったかのように、壁の一部になる。
念のためもう一度押してみたが今度はびくともせず、仕掛けも探してみたが見つからなかった。
どうやら一方通行らしく、一度閉めたら開けられない構造になっているらしい。
「とりあえずここまでこれたけど、問題はここから先ね…」
どちらに進めばいいのか悩むカルだが、右側通路奥から微かに光ったような気がした。
「?」
気になって燭台を向けてみるが、暗い闇が広がっているだけだった。
錯覚かと思い燭台を遠ざけると、また右奥から微かに光が見えた。
「どういうこと…?」
もう一度燭台を向けてみると、光は消えてしまう。
「もしかして」…」
燭台を吹き消すと、やはり右側の通路側だけ、淡い光が見える。
まるで、カルの目指す先はこちらだとばかりに。
「まさかセリアが呼んでいるの……?」
否定しかけて、カルは頭を振る。
レイールが現れたというのなら、セリアが現れてもおかしくはない。
ただ……目的が何なのかは未だにわからないが。
だがレイールに乗っ取られた姫様を助けるためならば、ご先祖の亡霊と対峙するくらいたいしたことではない。
むしろその亡霊から姫様を助ける手がかりを聞き出してみせる。
そう意気込み、カルは通路を歩き出した。