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眠れる王女と、眠れぬ王子  作者: 八知 美鶴
65/102

65話

 ただし会話はどうやらレイールも聞いていることがわかり、今後はもっと慎重に言葉を選ばなければならないだろう。

「よかった……これで暴走しなくてすむ…」

 少なくともムルガの前では。

 あとは、アルクとそして母、レクシュ……。

 この二人に会ったときの自分の感情が、いや正確にはレイールの感情がどうなるのか不安で仕方ない。

 特にアルクは、レイールが愛したアスターの子孫。

 愛憎の感情はカルの時、もしくはそれ以上かもしれない。

 そうなったとき、自分が押さえられるかどうかわからないのだ。

 手荒な真似はしないはずだが、何を言うのかと考えると、やはりアルクに会うのは止めた方がよかっただろうか。

「…弱気になっては駄目よ。まだ……彼女は私の心を読むことまではできていない。だから…そうなる前に…やらなくては」

 そして私がレイールに対抗できる鍵を握っているのは……母だけ。

 カルに頼んだものを、すべて揃えてあればいいのだけれど……。

 ルキアは窓から降り注ぐ日差しを浴びながら、自分の身体を優しく抱きしめた。

「アルクは私が守ってみせる。そして必ず……あなたを私から引き離す方法を探すわ」


 支度を整えたルキアは部屋でアルクが来るのを待っていたが、ムルガが急務が入り、アルクとの面会が延期されたと伝えられ、ルキアは内心ホッとする。

 その代わり、アガパンサス商会から面会の申し出があり、ルキアはすぐに会うことを承諾した。

 カルに頼んだ者が揃ったのだと思い、期待を込めて待っていたが、入ってきた人物を見るなり表情が強ばる。

「……テッサン」

「お久しぶりでございます、ルキア様。お元気そうで何よりです」

 恭しく頭を下げ、両手に抱えていた箱をルキアの前に差し出す。

「ご指定された品をお持ちしました。どうぞご確認下さい」

「え、ええ……」

 ゆっくりと蓋を開けると、仕切りごとにさまざまな大きさの白い包み紙が箱に入っていた。

「何ですか……これは」

 ムルガに訝しげな視線を投げかけられ、ルキアは軽く笑った。

「薬です。春眠病のための」

「……」

「こちらに来る時も持参してはいたのですけど、いくつか不足してしまったので、アガパンサス商会に薬を届けてもらうよう手紙を出したのです」

「そうですか…」

「ええ。それと試してみたい薬もあるので、ついでにアガパンサス商会に頼んでいくつか取り寄せてもらったんです。試しに飲んでみたいので、水を持ってきていただけないかしら」

「た、試し飲みですか!」

「そんなに驚くことではないんですよ、ムルガ。今までずっとそうやって薬の調合をしてきたんですから」

「ご、ご自分でですか? そ、そんなこと……薬師の仕事じゃあないんですか?」

「ええ、最初の頃はね。だけど毎回症状が違うから、その都度、薬師に相談して調合してもらっては時間がかかるので、私自身が覚えた方が早いと思って。以来、薬は自分で調合しているの。その方が事細かく調整ができるから」

「そう、ですか……すぐにお水をご用意いたします」

 動揺したものの、すぐに平静を取り戻すと、ムルガは一礼して部屋を退出した。

 それを確認するや否や、ルキアは厳しい視線をテッサンに向ける。

「どういうつもりなの、テッサン。何故、お母さまではなくあなたが来たの!」

「あの方は別件で、今は他の方とお会いになっています。なので代わりに、私が参りました。品物はすべて、ルキア様がご指定されたものが揃っておりますので、何の問題もないかと」

「そういう問題ではないのよっ、テッサン! 私はッ…」

 勢い込んで口を開いたルキアに、テッサンは腕を掴むと真剣な声で囁いた。

「あの方からからの伝言です。『三日後、あなたが無事ならば会いましょう』だそうです」

「え…」

 呆然とするルキアからテッサンが離れると同時に、ムルガが戻ってきた。


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