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眠れる王女と、眠れぬ王子  作者: 八知 美鶴
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64話

「紙に書いてあることを、私に言って欲しいの。あっ、今ここでは読まないで!」

 紙を開いて読もうとしたムルガをルキアは引き留めた。

「今、ここで口にしてしまったら意味がないの。紙には質問と答えが書いてあるわ。もし、答えが違っていたら、手足を縛って私を部屋に閉じこめてちょうだい」

「なんですって!」

「お願い。これ以上はもう、何も言わないで。紙に書かれた言葉は……いわば私が私でいられるためのおまじないだと思ってちょうだい。それを言ってくれれば、私は元に戻ることができるかもしれないから」

 ムルガは訝しげな表情を浮べながら、もう一度紙に書かれた言葉を黙読する。

「本当に……これで大丈夫なんですか?」

 不安と疑問が混じり合った声音に、ルキアは懇願するように頷く。

「ええ。だからそれまではしばらく、黙っていて欲しいの。……アルクは病と闘いながら、国務をこなしているわ。健康体でも大変なのに、アルクは国のためにがんばっている。なのに私の病のことまで知ってしまったら、なんとかしようとする。そうなったらいくらアルクでも、負担が大きすぎて倒れてしまうわ。私は……彼に負担をかけたくないの。彼だってできるのだもの、私にも自分の病と闘ってみせるわ」

 最後は決意表明するように締めくくると、ムルガはしばらくルキアを見つめた。

 そして諦めたようなため息を深く漏らすと、ルキアに向かって苦笑する。

「まったく、どちらも強情ですこと。付き合うこちらが疲れてしまいますよ」

「ムルガ…」

「このことは一切喋りません。……ただし、ルキア様が限界だと察したときには陛下に報告しますからね。いくら一人で強情を張っても、倒れられては意味がありませんから」

「ありがとう! 感謝します、ムルガ」

 椅子から立ち上がると、ルキアはムルガを抱きしめた。

 何の反応もないことに安堵し、ルキアはムルガから離れた。

 意表を突かれたムルガの表情に今度こそ心から笑みを浮べると、ルキアは促した。

「さあ、アルクのために着替えを手伝ってください」

「あっ、ええ……。その前に侍女達にやるべき仕事を言付けてからでよろしいですか?」

「もちろんよ。またあとで会いましょう」

 ムルガを見送ったあと、机の上に置かれた紙をルキアは無造作に手に取った。

 そして小さく丸めると、暖炉の中に投げ入れた。

 あっという間に燃えて塵になった紙を確認し、ルキアは一人呟く。

「あなたはまだ、私の言葉しか聞こえないのね……」

 頭の中のことまでは、まだ探ることができないのだと、ムルガの会話でわかったのだ。

 だがこの状態がいつまで続くかわからず……少なくとも婚儀の時にはほとんど乗っ取られているだろう。

 職種はルキアの身体を乗っ取るために、精神をじわじわ追い詰めていくだろう。

 今はまだ陽が高く、彼女の力が及ばないだろうが。

 ルキアは漠然とだが、レイールが力を発揮するのは夜だと感じていた。

 その間はルキアの意識は封じられ、身体を乗っ取られるだろう。

 本来なら日の光など関係なく、ルキアの身体を自由に操れるはずだったのに、あの時カルが邪魔をしたせいで中途半端な状態になってしまったのだろう。

 恐らくもう一度温室へ行き、今度こそレイールの意識すべてをルキアに流し込もうとするだろう。

 それだけは絶対にさせるわけにはいかない。

 そんなことになったら、ルキアの意識は封じられるどころか、レイールの一部として取り込まれてしまう可能性が高い。

 そうならないためにも協力者は必要不可欠で、ムルガが担当になったとき、レイールの反応はなかった。

 ということは、数少ないレイールの情報の中で無関係の人間ということになる。


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