来宮誠と炭酸な飲料
大原白兎はつい一ヶ月ほど前、五月の始め頃にこの学園に来た転入生だ。ちなみに余談だが、俺の同室者の腐男子くんは、彼のことを王道転入生と呼ぶ。
彼は理事長の甥っ子であり、理事長を筆頭に家族の中でも随分と甘やかされて育ったと聞いている。俺は実際に話したことはないが、人伝に聞く彼のイメージは、
「自己中心的ですよ、あれは!」
「人の話聞かねえな、あいつは」
「自分が愛されて当然の存在だと思っているフシがありますね、彼は」
と、散々なものであった。ちなみに上から、チカ、中在家委員長、志津先輩の感想である。
更に彼は、家族だけでなく生徒会役員やクラスの人気者たちなど、幾人ものイケメンを籠絡し、自分の取り巻きとしてきた。具体的には、当時副会長だった佐瀬、書記の袖浦、双子庶務の君野兄弟、バスケ部のエースくんや一匹狼で有名な不良くんなどだ。
ここにいる会計のヴァンピール・淡井も取り巻きのひとりであったが、本人の口ぶりからするに、どうやら大原白兎に惚れているわけではなかったらしい。
そしてその大原白兎、そんなにモテるのならさぞかし絶世の美形なのだろうと思いきや、普段は不潔なモジャモジャ頭にビン底メガネという昭和な出で立ちをしている。通称、歩く黒マリモだ。
それはもちろんカツラであることは確定なのだが、なんでもそれらの変装グッズを外すと、金髪碧眼の美少年になるらしい。生徒会連中はその姿を見て大原白兎に惚れたのだろうと考えている。
しかし、淡井はコーラのキャップを小君良い音を立てて開けながら、それを否定した。
「うーん、たぶんそれは違うと思うよぉ」
「は、何が違うって?つうかそれ俺のコーラだろ、おい」
「だからぁ、佐瀬ちゃんがウサギちゃんにラブコール中なのは、何も見た目の問題だけじゃないと思うなぁって話」
「おいお前口つけて飲みやがったな」
「ウサギちゃんは確かに可愛いけど、見目のいい子なんていっぱいいるからねー。ウサギちゃんには何か秘密があるってウチは踏んでるなー。あのお高ぁーくとまってた佐瀬ちゃんが仲良くしてる子だもん」
「聞いてんのかエセ吸血鬼」
「ぷはっ、ごちそうさまー。はい返すね」
「要らねえよ。お前と間接キスとかありえねえから」
今更返却されたコーラを突き返して、新しいものを買った。こいつに限らず、他人とのペットボトルの共有は断固として拒否する。ソフトキスですら嫌悪感が先走ってしまう俺なのだから、できるはずもないだろう。
そうこうしている間も、中庭で繰り広げられる大原白兎と光岡涼の大口論はますますヒートアップしていく。
「あんたが来てから佐瀬様はおかしくなった!全部あんたのせいでしょ!」
「なんでそんなこと言うんだよ!オレは紫織と友達になっただけなのにそれの何が悪いんだ!?」
「友達?ふざけないでよ!佐瀬様だけじゃなく他の役員やクラスメイトにも色目使ってるビッチのくせに!」
「び、ビッチ……!?そういうふうに決めつけるのはいけないんだぞ!」
今にも掴みあっての取っ組み合いが始まりそうな気配のふたり。
……これはまずい。誰が見ているとも知れない中庭でこれ以上問題を大きくするのは避けたい。
「おい淡井、これやるよ」
そう言うがいなや、返事も聞かずに緑茶と新しいコーラを淡井に押し付けた。
「え、えー?ちょっとまこっちゃん、何するつもり……」
「行ってくるわ」
出入り口まで遠回りする時間も惜しい。半開きだった中庭に面する窓をガラリと開き、アルミサッシのレールに足をかけ、そのまま窓枠を飛び越えた。
ヴァンピール・淡井くんのいうウサギちゃんは王道転入生くんのことです。
白兎=ウサギっていうね。




