第九話《疑問の少女達》
「改めましてこんにちはデスワー!私は長い長い旅をしてやっとここにたどり着いたのデスワー」
白雪は深くお辞儀をしながら笑顔であいさつをする。
しかし、本当に綺麗な少女だな。全てが白色に統一されているから天使に見えてきたよ。
「でも本当に久しぶりだね。こうやって会うのは五十年ぶりくらいかしら」
箱娘は少し嬉しそうに妹である白雪に喋りかける。
「ねぇ箱娘、あの方のお名前はデスワー?」
「あ!このプヨプヨお腹は中原勇って言うの!私を箱から解放してくれた恩人だよ」
「プヨプヨは余計だ!……あ、中原です。よろしくな」
「よろしくデスワー」
自己紹介をし終えて白雪はいきなり表情を変える。
「ねぇ箱娘。中原さんは私達の正体を知っているの?デスワー」
その問いに箱娘は何も言わずただ黙ったままであった。
「そう……。中原さんにはまだ何もお話をしていないのねデスワー」
「……」
箱娘は無言で首を縦に振った。
「箱娘の顔を見れば分かりますデスワー。中原さんには心を許しているのねデスワー。だったら真実を喋ったほうがいいのでは?デスワー」
「それは……でも喋ったら……私はまた……一人になる」
「過去の事は忘れましょうデスワー。私も箱娘と同じ体験をしましたデスワー」
その場の空気が一気に重くなったのが分かる。俺は白雪に目を合わせその会話に割り込む。
「えーと、白雪ちゃん。俺は箱娘が話をしたくなったらでいいよ。まぁ、箱が箱娘に変身する場面を何回も見てるから普通の事ではもう驚かないと思うけどな。それに変身とか格好いいじゃんよ!」
白雪は俺の言葉を聞き、静かに口を開いた。
「中原さん……私はとても嬉しいデスワー。どのみち私達の正体が分かる時がやってきますデスワー。あ、あと私もここに住みますデスワー」
……ん?今の最後の言葉……俺の聞き間違いかな?
「え?最後の言葉の意味が分からないんだけど?」
「あら?聞き取れなかったのですか?デスワー。私をここに住ませてと言ったのよデスワー」
聞き間違いじゃなかったああああ!!
「私は賛成!白雪と一緒に住む――!!白雪と一緒に遊ぶ――!!プヨプヨに拒否権はないのだよ!」
箱娘は勝手に舞い上がりながら大喜びをしていた。
「あのー、白雪ちゃん。この家狭いよ」
「問題ないデスワー♪」
「周りには何もないよ」
「自然LOVEデスワー♪」
「まだ俺達初対面だし」
「もう親友デスワー♪」
……く!全然引いてくれないぞ!
「中原、もう諦めなさい!姉である私が断言しよう。白雪は言ったら引かないタイプなのだ!」
いや、言われなくてももう知ってますよ!
そして何でお前は自信満々に胸を張って言っているんですか!
「さあ、久しぶりの再開だからとても寂しかったでしょう!姉の胸に飛び込んで来なさい!」
「それでは中原さん。これからよろしくお願いしますデスワー」
「無視!姉の言葉は無視なの!」
いや、お前らやっぱり姉妹だよ。人の話を聞かないところなんかそっくりだもん。
そしてなんか……もっと我が家がうるさくなりそうな感じがしてきた!
「あ!私は夜になっても箱にはなりませんのでデスワー。だからずっと一日中、中原さんと一緒デスワー」
「え?あ、そうっすか!てっきり白い箱にでも変身するかと思ったんだけど」
「私は……この体のまま一日を過ごしたいのデスワー。でもそれは命の選択なのデスワー」
「命?」
「あ、なんでもないデスワー。それより私はお腹がペコペコなんですデスワー。何か食べ物が欲しいデスワー」
その言葉を聞いた箱娘はニヤリと笑いながら台所からカップヌードルを一つ持ってきた。
「ふふふ、私オススメのシーフードヌードルを白雪に食べさせてあげよう。この美味っぷりときたら凄いんだから!」
しかし、その姿を見ていた白雪はなぜかため息を吐いていた。
「もう、インスタントラーメンは飽きましたデスワー。長い旅の中、何度お世話になった事かデスワー。違う食べ物がいいデスワー」
そう言うと白雪はいつの間にかカレーライスを食べていた。
いつの間に!
それ俺のカレーライスなんだけど!!
箱娘はその言葉を聞いた瞬間、不機嫌そうにシーフードヌードルを食べていらしゃった!
そしてお前はいつの間にお湯を入れたんだ!凄い早業だな!
「ズルズル……こんなに美味なのに!ズルズル……こんなに美味なのに!」
「モグモグ……ふー、スパイシーデスワー。モグモグ……久しぶりにご飯を食べましたデスワー」
カップヌードルをすする箱娘と、カレーライスを頬張る白雪。絵的には可愛い少女が食事をしている姿なのだが……なんだろう、この会話は?
「ズルズル……美味!ズルズル……美味!ズルズル……美味!」
「モグモグ……デスワー。モグモグ……デスワー。モグモグ……デスワー」
何を対抗してるの!
「美味!美味!美味!美味!美味!」
「デスワー。デスワー。デスワー。デスワー」
もう意味が分からないぞ!
「美味美味美味美味美味……っ!ゴホゴホ!!」
麺をすすりながら喋るからだ!口からいっぱい出てるぞ箱娘!
「デスワー。……ってぎゃあああああ!!箱娘の汚物が私の服にぃぃぃぃぃぃ!!」
わあ、白雪の白いワンピースが箱娘のヌードル攻撃で汚れてしまったな!白色だから余計に目立つぞ。
「ふ、勝った」
箱娘は誇らしく言っているが何に勝ったの?
「負けた……デスワー」
だから何に負けたの!
「白雪ちゃん、ジャージだったらあるけど貸そうか?」
「中原さん、ありがとうデスワー。でも、このワンピースは脱いだらいけないのデスワー」
ティッシュで汚れたワンピースを拭きながら白雪は意味がよく分からない事を言った。
「どういう意味?」
「意味は分からなくて大丈夫デスワー。そのうち分かりますデスワー。箱娘も見られるのが嫌だったら人がいない場所で服を脱ぎなさいデスワー」
「むー、分かってるよ。最近、中原にハダカを見られたけどセーフだったよ。中原はスケベなのだ」
いやいや、お前が悪いだろ!あれに関しては俺は悪くないぞ。
「箱娘……あなたバカなの?デスワー。ワンピースを脱ぐ時は、周りに注意しないとダメだって昔から言ってるのにデスワー」
「いやー、カップラーメンを見つけるのに必死でお風呂からあがっても全然気が付かなかったよ」
「お風呂……そういえば全然お風呂には入ってませんデスワー。お風呂なんか私達には似合わないデスワー」
白雪はスッと立ち上がりいきなり箱娘に抱きついた。
「でも……やっぱり箱娘と……一緒にお風呂に入りたいデスワー」
少し涙目になっている白雪。
やっぱり箱娘の事が好きなんだな。
「昼風呂もアリだね!」
「私も入りますデスワー!」
絶対に覗くなよ!みたいな目で俺を見る箱娘。いやいや、覗かねーよ!
俺は外に散歩でも行ってくるわ!
「白雪!お湯にダイブだぜ!」
「はい!デスワー」
中原
「白雪ちゃん、ずっと気になっていたんだけど語尾の『デスワー』って何で言ってるの?」
白雪
「そんなの決まってますデスワー」
中原
「え?何で?」
白雪
「そんなの……キャラを際立たせる為に決まってますデスワー」
中原
「……なるほど」
箱娘
「じゃあ私もキャラを変えて語尾に『ニャアー』とかつけようかな」
中原、白雪
「気持ち悪い」
「気持ち悪いデスワー」
箱娘
「………ニャアアアアアアア!!」