第五話《恐怖の鬼ごっこ》
「暇だー!」
「じゃあ来なければいいのに」
俺は今バイトで寺の掃除をしている。貴重な収入源なので真面目にやっています。
「退屈だー!何かして遊ぼうよ」
俺は仕事の邪魔だから家にいろ!と言ったが箱娘は言う事を聞かず一緒に来てしまった。
「おい!掃除の邪魔だ!どっかで遊んでこいよ」
俺はホウキで箱娘のホッペをツンツンとつつく。
「可愛い女の子の顔にそんな事をしたら罰が当たるぞ」
自分で可愛いって言いやがったよ!
「あー、そうですか。じゃあ可愛い可愛いさん箱娘さん。邪魔でウザくてダルいのでどっかに行ってくれますか?」
……ポッ……
ホッペが赤くなり照れてしまった箱娘。
そこですか!今の会話は普通怒るでしょ!
「仕事が終わったら遊んでやるから」
「むー、仕方ない。それではちょっと散歩に行ってくる」
「はいはい。いってらっしゃい」
そう言うと箱娘はどこかに行ってしまった。
さて、掃除を開始しますか。
しかし俺が仕事で手入れをしているとはいえ相変わらず古くさい寺だな。周りには落ち葉が広がって掃除をしても全然追い付かない。寺の中は掃除の為、特別に入っている。中もそんなに広くはないし奥には仏像が一体あるだけ。広さは学校の倉庫くらいかな。まあ、やっぱり狭い寺だ。
「さて雑巾で床を拭いて……それが終わったら窓も……」
やべ!ちょー暑い!蒸し風呂みたいに暑いぞ。窓が閉めきっているからサウナ状態だ。だが俺は気合いを入れて仕事にとりかかる。
―――
――
―
《一時間後…》
俺は床に寝そべっていた。
「ふー、終わった。外は大体綺麗になったし、中もこれくらい掃除したら大丈夫だろ。さて、片付けて帰るか」
俺は立ち上がり寺を出ようとした時、外から悲鳴が聞こえてきた。
「た、助けてえええ!」
む!この声は!
「はぁはぁ、お!中原君助けてくれ!!」
駆け足で俺の前に来たこの人は……
「住職さん!どうしたんですか!」
頭を丸めているこの人は住職さん。年齢は四十代くらいのおっさんです。俺に小屋と仕事を与えてくれている優しい人物です。その住職さんが息を切らしながら俺に助けを求めて来た。
「はぁはぁ、黒いワンピースを着た少女に襲われているんだ。助けてくれ!!」
うん?黒いワンピース?嫌な予感が……
「お、ハゲ!ここにいたか!!」
ダッシュで住職に迫って来る黒い服の少女。やっぱりお前か!
「きゃははははは!さて捕まえるぞ!」
「ひぃぃぃ!中原君助けて!」
住職さんは俺の後ろに隠れて体をブルブル震わせていた。
「おい、箱娘!ストッ――――プ !!」
全速力で走っていた箱娘は俺の言葉に反応し急停止した。
「わあわあわあわあ!ふー、停止完了」
「お前何やってんの?住職さんがガタガタブルブルだぞ」
その問いに箱娘はポカーンとしていた。
「もう一度聞いてやる。何やってんだよ?」
さらに問いつめると箱娘はにっこりと笑ってこう答えた。
「えへへ、鬼ごっこ」
は?鬼ごっこ?そんな事で住職さんはこんなに怯えているのか?
「住職さん。一体何があったんですか?」
「実は……私が散歩をしていると」
住職さんはこれまでの経緯を震えながら語り始めた。
そう、悲劇の始まりは三十分前にさかのぼる。
「うーん。今日も素晴らしい天気だ。こんな日は散歩でリフレッシュが一番だな」
住職さんの自宅は寺のすぐ近くで良く散歩をするのが日課らしい。
「やっぱり自然が一番だな。何度見ても飽きないこの景色は最高だ」
ブラブラと散歩をしていると木の下で箱娘が寝転がっていたそうだ。
「あれ?見かけない娘だな。君!どこの娘かな」
住職さんは箱娘に近づき話かけたが応答はない。
「ねぇ、君。お父さんやお母さんは?」
箱娘は草むらをゴロゴロしながら住職さんの足にしがみつく。
「暇だ!退屈だ!横暴だー!」
住職さんは苦笑いをしながら話を続ける。
「はは!私で良かったら何かして遊ぼうか?」
「本当か!」
目を輝かせながら箱娘はスクッと立ち上がる。
「うーん、何して遊びたい?」
「体を動かす遊び!」
「じゃあ、二人しかいないけど鬼ごっこでもしますか?」
「する!する!じゃあハゲは逃げてね!私は鬼をするから」
「ハゲって……最近の子どもって……正直だな……ってギャアアアア」
いきなり箱娘は住職さんの腹に飛び膝蹴りをお見舞いした。
「ちょっと!……いきなり何を……ってグハアアア!!」
今度は華麗にジャンプをし住職さんの頭にハイキックをぶち当てる。
「死ぬ!……この娘……私を……た、助けてくれえええ!!」
「あはははははは!!待て待てー!!」
……そして今に至る。
「おい、箱娘!お前鬼ごっこの意味分かってるのか?」
こいつ絶対に分かってない。だってもう意味が分からないんだもん。
「知ってるよ。鬼が人間を抹殺するまで追いかけるんでしょ」
「違う!究極に違いますけどおおおおお!!」
アホか!それはもう鬼ごっこではないぞ!ただの殺人ゲームだよ!
「中原君。この娘は知り合いなのかい?」
まだ体を震わせている住職さん。よっぽど恐かったんだな。マジでごめんなさい。
「えーと……その……妹です」
やべー!嘘をついてしまった。だって言葉が見つからないんだもん。
「そうか……妹さんか……元気がよくて……なにより……ガク……」
住職さんはそのまま気絶してしまった!
「住職さあああああん!気を確かに!」
「おいハゲ、続きをやるぞ!鬼ごっこをやるぞ!」
もうお前は黙ってろ!お願いだから黙ってろ!
俺は住職さんを抱えて寺の中に運び寝かした。
「うーん、やめてくれえええ!うーん、助けてくれ!!」
夢の中でも箱娘に追われている。マジで本当にすみません。
「ちぇ!つまんなーい」
箱娘は床でゴロゴロしながら不満を言っていた。こいつ反省してないな。
「おい、箱娘!こっちに来い!」
俺は箱娘を床に正座させて反省させる。
「住職さんが起きたらちゃんと謝るんだぞ」
「嫌だ!」
「謝るんだぞ」
「嫌だ」
「謝れ!」
「嫌だ……嫌だ……嫌だ」
マジでちょっとカチーンときちゃったよ俺。
「大丈夫だよ中原君。もう許してあげてください」
住職さんの意識が回復しゆっくりと起き上がる。
「住職さん!マジでごめんなさい」
俺は深く頭を下げる。それはもう……深く頭を下げた。
「いや、本当に大丈夫ですよ。頭を上げて中原君」
なんて優しい人だろう。神ですか!マジで神ですよ!
「しかし元気の塊のような妹ですね。そういえばまだ名前を聞いてなかったね」
あ、そういえば妹設定だったけ!
「はい!箱娘です。……さっきはごめんなさい」
お!ちゃんと謝ったじゃねーか。少し見直したぞ箱娘。
「箱娘ちゃんですか。宜しくね」
名前は!名前は突っ込まないんですか!
「ごめんなさい。私……本当に……ごめんなさい」
少し涙目になる箱娘に住職さんは笑顔で話かける。
「これも何かの縁だね。もし良かったらわたしの家で昼食を食べようか?」
その言葉に箱娘の目はギラギラに変わっていた。
「美味!美味な食べ物なのか!」
喜怒哀楽が激しい奴だなこいつは。
そういえばもう昼か。腹が減るはずだ。
「ありがとうございます。じゃあ甘えてもいいですか?」
「うん!もちろん。中原君にはお世話になっているからね。おかげで寺もピカピカだよ」
「とんでもないです。こちらこそ住む場所や仕事も与えてもらって本当にありがとうございます」
そして住職さんの家で昼食をいただいている。
箱娘は……食べまくっていた。少しは遠慮しろよ。
「美味!この白い四角は美味だな」
いや餅だから。
「白い四角からビヨーンって伸びたぞ」
だから餅だから。
「ハフハフ!美味!白い四角、美味!」
もういいや。
俺達三人は七輪で餅を焼いている。ほとんどを箱娘が食べているが……
「おい!箱娘。喉に詰まらせるなよ」
「美味!美味!美味!」
「ははは!箱娘ちゃんは面白いねー」
箱娘は満足そうに笑っている。