第三話《夢の中の少女》
あの奇妙な少女、箱娘と出会ってすでに三日が経った。
それで分かった事がいくつかある。
①見かけは少女、中身は腹黒。
②ワガママで、毒舌、しかも腹黒。
③カップラーメンが好き、だが腹黒。
④そして、もう一つ。それは夜になると箱に戻ってしまう事。
あと、少しで太陽が沈み夜になる。
そしてその時間になると箱娘はいつも何か切ない表情をする。
「また……夜になるんだね」
箱娘は小屋の外から星空を眺めていた。黒いワンピースが風によって揺らめき、長い髪が風によって踊る。
「ああ、私は……いつになったら夜が好きになるんだろう」
上を向き呟くその姿を俺は小屋の窓から見ている。
「おい、箱娘。もうすぐ日が沈むぞ」
「この時間は嫌。また暗い……暗い眠りの時間だから」
箱娘は小屋の中に入り押し入れの中に入る。
そして彼女の体が黒く光りはじめた。
そう、彼女は黒い箱に姿を変える。
「また……明日の朝会いましょうね。中原」
「了解。朝にはカップラーメン激辛味を置いておこう」
その俺の言葉に箱娘は少し安心したように微笑んだ。
黒い光りは彼女の周りを包み込み、そしてゆっくりと光りが消える。
「また……箱に戻ったな。おやすみ箱娘」
この光景を見るたびになぜか心が苦しくなる。理由は分からないが痛くなるんだ。
彼女が夜になると箱に戻る理由はまだ知らない。
それは多分、いつか彼女から話をしてくれるだろう。
「さて、俺は風呂にでも入るか」
―――
――
―
俺は風呂上がりにいつも外に出る。夜になるとこの辺りは暗く周りを見渡しても何も見えない。
しかし、これがこの場所の少し良いところ。
星は綺麗で、風に吹かれる木々の音が俺は好きだ。近くの小さい小川の流れる音も俺は好きだ。
だが、人は嫌いだ。本当に昔から嫌いだった。理由は過去に色々あったから。まぁ、そんな事はもうどうでもいい。
でも彼女、箱娘は別に嫌いではない。まだ三日目なので何とも言えないがまぁ、本当に嫌いではないな。
「しかし、まさかこんな漫画みたいな出来事に遭遇するとは……まさか、夢だったりして」
お約束のホッペをつねってみる。だが、もちろん痛い。やっぱり現実かこの出来事は。
「さて、俺も寝るか」
ジャージ姿の俺は布団の中に入り、そして目を閉じた。
不思議な不思議な、それは不思議な夢を見た。
そこは血だらけの風景で、周りには人がたくさん真っ赤に染まって倒れている。
奥には少女が立っていた。だが、誰かは分からない。顔の部分だけが黒く真っ暗であった。
あなたは誰?
返答はない。
あなたはなぜここに?
また返答はない。
あなたは泣いてるの?
少女は頷く。
そして夢の中にいる俺に何か言おうとした瞬間に世界がグニャリと曲がり崩れ去った。
暗闇が広がり、俺は宙に浮いていた。ここがどこかは分からない。だって夢の世界だから。
俺はひたすら叫んだ。誰もいないはずなのになぜか叫んだんだ。
だって、怖いんだもん。なんかこの場所は嫌な感じがする。
だからもう一回叫ぶ事に……ん?なんかお腹が痛いぞ?凄く痛いぞ!いや、めっちゃ痛いぞ!何かに踏みつけられている感じだ!!
た、たすけて―――!!
痛い痛い痛い痛い痛い!!
「いたたたたたた!!」
あまりの痛さに俺は夢から覚めた。朝日が俺の顔に注いでいる。
そしてお腹が痛い原因を発見した。
「起きろ!朝だぞ中原。腹が減って死にそう」
そこには俺の腹の上に立っている箱娘の姿があった。
「いや、重いし痛いんだけど」
「なかなか起きないからジャンプをしてみた。思ったより高く跳ねたから驚いたぞ。さすがプヨプヨお腹」
こいつ……俺の腹をなんだと思っているんだ。トランポリンですか!
「どいてくれます?思ったより体重が重たい箱『デブ』さん」
―――
――
―
「あー、やっぱり朝から食べるカップラーメンは最高ね♪」
「ぞうでずぅね」
俺が箱娘にデブと言った瞬間、殺気がこもった回し蹴りを顔面にくらい宙を一回転した。もう……なんか……ごめんなさい。
「ズルズル……うーん、ズルズル……朝から激辛のラーメンも……ズルズル……ふー、美味!!」
美味しくいただくその光景はとてもいい。
ただし朝から顔面にキックはないだろ。まぁ、俺が悪いのだが。
「今度……デブとか言ったら永久に死を与えるからね。そもそも私は太っていませんよーだ」
舌をべー、と出し俺に不満をぶちまける。
「はいはい了解しましたよ。美人でビューティフルな箱娘さん」
「あ……あり……がと……う」
え!何赤くなってんの?言ったこっちが恥ずかしいだろうが!
そしてこの時、夢の事はもうすでに頭にはなかった。