最終話《黒い箱の少女はあなたを待っていました》
月は八月になってしまった。白雪がこの世から消えてしまい俺は仕事を休ませてもらっている。俺の暗い顔を見た住職さんは『何かあったら力になるから』と言ってそれ以上は何も言わなかった。
小屋の近くを流れている小川、その側に白雪のお墓がある。お墓といっても立派な墓ではない。箱娘が握りしめていた白雪の白い砂を瓶にいれ、地中に埋めている。簡易的な墓石は小川の石。白雪が持っていた白い傘は地面に立てている。
箱娘は残りの白い砂を小さい瓶にいれ、常に持ち歩いていた。
「また、ここにいるのか」
「うん。ここにいないと、白雪が一人になっちゃうから」
白雪の墓の前にずっといる箱娘。
あれから箱娘が笑っている姿を一回も見ていない。
その顔はいつも悲しく。
その顔はいつも寂しく。
その顔はいつも暗い顔をしていた。
俺は、白雪ちゃんとは七月の期間に少し出会っただけだが、箱娘は妹を失ったんだ。
その辛さは痛いほど分かる。
俺は箱娘にかける言葉が見つからない。
「ねえ、中原」
「どうした?」
「白雪が死んだ時、私は思い出したの」
最近、あまり口を開かなかった箱娘が静かに話はじめた。
「私は過去に人をたくさん殺したの」
「……」
俺は黙ってその話に耳を傾ける。
「人ではなく人形として生まれた私達は人々に迫害され、暴力をうけ、精神が壊れそうだった。そして、私はその行為に限界を感じ、我を忘れて人を殺してしまった。でも、気がついたら中原が目の前にいたの」
「あの時、押し入れで会ったのが出会いだったな」
「『人々を殺した』という記憶がなくなっていた。でも、それは白雪が私の為に記憶を消してくれたと気がついたよ。白雪は全部自分で重荷を背負っていたんだ」
「白雪ちゃんは箱娘の事が大好きだったんだな」
箱娘は白雪の墓を悲しく見つめている。暖かい夏の風が箱娘の髪を撫で下ろす。
「私は……バカな姉だ。白雪に……何もしていない。私だけが生きている、私だけが忘れている、私だけが……最低だ……」
箱娘の目から涙が溢れてくる。
俺はそんな箱娘の顔を見たくなかった。なぜなら、白雪はそれを望んではいないと思ったからだ。
「笑えよ箱娘。泣いてると白雪ちゃんも安心して天国に行けないぞ。白雪ちゃんをもう悲しませるなよ」
俺のその言葉に箱娘は泣きながら、少し笑った。
「ふふ、中原に会えて……本当によかったです」
やっと笑った。俺と白雪はその顔が見たかったんだよ。
「お!やっぱり笑ってる顔のほうが何倍も可愛いぜ!」
「ふふふふ。本当?じゃあ私、笑うよ」
「ああ、いっぱい笑って、いっぱい怒って、時にはいっぱい泣け」
「む―――、中原は注文が多いな」
箱娘は少し照れながら俺に歩み寄ってきた。
その顔は……もう大丈夫な顔になっている。
「ねえ、中原」
俺を見上げながら満面な笑顔で箱娘は言った。
「こんな私だけど、中原の隣にいていいですか?」
何をいまさら言ってるんだ?
そんなの答えは決まってるだろ!
「当たり前だ。俺も箱娘の隣にずっといるからな。途中でいなくなったりするんじゃねーぞ」
その答えを聞いた箱娘は俺にゆっくりと抱きついてくる。
それは……満面な笑みで。
それは……喜びの顔で。
それは……とっても、幸せな表情で。
「白雪。これからも私達はここにいるからね。一人じゃないから、一緒に笑っていこう」
俺と箱娘は一緒に空を見上げた。
木々が風で揺れる音。
近くの小川が流れる音。
それは……とっても美しい音色のよう。
この音を白雪も空から聞いてごらん。
きっと、いつでも笑ってられるから。
「気持ちいいね中原」
「そうだな。よし、家に戻るか」
「うん。あ、そうだ。これだけ中原に言っておきたいんだ」
そう言うと、箱娘はクルリと回転しながら俺を見た。
「黒い箱の少女はあなたを待っていました」
そう言うと箱娘は、また俺に抱きついてきた。
―――
――
―
そう、これはたった少しの夏の間に出会った……二人の少女の物語でした。
私は中原と会えて幸せです。
こんなにも心が落ち着くなんて。
こんなにも心が安らぐなんて。
こんなにも心が救われるなんて。
ねえ、白雪。今度もし、会う時があるのだとしたら、私はあなたの幸せを願います。
いっぱい笑いましょう。いっぱい泣きましょう。いっぱい怒りましょう。
そうやって、一緒に遊ぶことが私の最後の願いです。
『黒い箱の少女はあなたを待つ』終
『黒い箱の少女はあなたを待つ』完結しました。
まだまだ、書きたいことはあったんですが、これで一応、最終話です。
もしかしたら、続編を書くかもしれないのでその時は暇潰しに見て下さいね!
では、読んでいただきありがとうございました。




