第十五神 花火の下でキス
夏の風物詩と言われて頭に思い浮かべるもの。
まあ、個人差はあるだろうが俺はそうめんやかき氷、
アイスに夏祭り――――そして、愛する者との花火を見ながらのキス!
「ハァ……俺もキスしたい」
「いきなりお前は何をぬかしてんだ」
学校のお昼休み、俺――――――紅神夜は居候の一人であるタケミカヅチとともに、
教室で昼飯を食べていた。
いつもなら雪輝カップルと一緒に食べているんだがミーナさんが今日は、
学食で食べるということで雪輝もそっちに行ってしまい、食べる奴がいなくなって困っているところへタケミカヅチが昼食を誘ってくれ、一緒に食べている。
「いやな、もう少ししたらこの街名物の神夏祭があるんだよ」
「神夏祭? この街はよく、“神”という字が頭につくな」
「まあ、神を奉っているところが多いし、そう言う宗教団体もあるからな」
おそらく、この日本という国で最も神を崇めているところはどこですかと、
尋ねられたら間違いなく、俺はこの街を挙げるだろう。
随所に神を奉ってるし、神はいるんだとか言う宗教団体もあるし、
大学に行けば神話について研究する学科もあるくらいだしな。
「それでさ。その神夏祭で告白したり、
されたものは必ず成就するという噂があってだな~」
「それはトラソルテオトルの愛欲の加護が働いてるな」
「ト、トラソ」
「トラソルテオトル。アステカ神話に伝わる大地と愛欲の女神だ」
うぅ……人間の男と話していたら結構盛り上がるのに本物の、
神様と話していてもまったく、盛り上がるどころか冷めてしまう。
まあ、神に噂なんか話したら論破されるのは目に見えてることだけどさ。
「ハァ……俺も彼女欲しいな~」
「ふん! 恋人などなぜ、必要とするのかが分からん」
「そう言う、お前には想い人とか言ないのかよ」
そう尋ねた瞬間、タケミカヅチの顔が一気にボンッ! という音が、
聞こえるんじゃないかと思うくらいの勢いで、真っ赤に染まった。
「そ、そ、そそそそんな奴いるわけがないだろ!
そそそそそそ、そう言うお前はどうなんだ!」
こんなに分かりやすい反応を示してくれたのはお前が、
初めてだよ……俺の好きな人ね~。
よく考えたらこの十七年間、俺、誰にも恋したことないな。
「いや、いないな」
「まったく。あたしはもう、行く! 今日もいつもの時間に来い!」
そう言ってタケミカヅチは顔を真っ赤にしたまま教室から出て行った。
「何がそんなに恥ずかしいのか」
タケミカヅチの不可解な反応に俺は首を傾げて、授業の始まりを
告げるチャイムが鳴るまで机に突っ伏して眠った。
放課後、俺は貴重なアルバイトの休暇をタケミカヅチの鍛錬に費やしていた。
「もっと、腰を入れろ! 逃げ腰だぞ!」
「んなこと言わないでくれ!」
すでに、鍛錬というか実践演習になっている。
向こうが持っているのはただの刀、対して俺が握っているのはトラロックを、
激戦の末にようやく倒した……まあ、倒したとは言えないけど、
その際に使用した鎖で繋がれた二本で一本の刀を使っている……でも、
俺はただの刀に圧倒されていた。
タケミカヅチを斬る勢いで刀を振っても、
スレスレで避けられ刃を何度首筋に当てられたことか。
「こんの!」
俺が思いっきり、タケミカヅチに刀を叩きつけようと振りかぶった瞬間、
俺の喉元に切っ先が添えられた。
「これが戦いだったらお前は、喉を斬り裂かれて即死だ」
「……負けました」
俺の一言で本日、十回目の実践演習が終了した。
「まったく、貴様は隙だらけにも程がある。実践だったら十回以上は死んでるぞ」
タケミカヅチ曰く、俺は刀を振るう速度が遅いし何より、
逃げ腰になりながら刀を振るい続けているらしい。
「にしても呪いってすごいよな。全然、人がこねぇよ」
今、公園の周りに張られている結界は第十三番、人払い。
一番から十番までは純粋な攻撃系だけだが、それ以降は補助系の
呪いも混じっているらしく以前、タケミカヅチが俺に使った
十二番の気消なんかと同じ補助系の呪いらしい。
「神の力ならばこんなこと造作もない。あたしが出来る呪いは少ないが、
アマテラスやウズメなんかは三十番以上の呪いも使うからな」
「ウズメって誰だ?」
「アメノウズメ。芸能の女神だ」
芸能の女神……だから、呪いが得意ってことか……納得。
「ウズメに関しては四十番以上の呪いも容易に扱うらしいぞ」
俺は頭の中で、まだ会ったことのないウズメという女神を想像してみた。
……芸能の神だから……妙な面を被ってて……白髪の髪で、
杖のようなものをふりふり回して呪いを使う……魔法少女か!
いや、呪い少女か! うん! 美人さんなら俺、何でも許しちゃうもんね!
「……んちゅっ」
「何か言ったか? タケミカヅチ」
「いや、何も言ってないぞ」
気のせいか……なんか、一瞬エロティックな音が聞こえてきたような……。
「んん!」
俺の耳にエロティックな音の次には言ってきたのは高校生の男子には、
クリティカルヒットしそうな女性の喘ぎ声が聞こえてきた。
まさか、この公園の中で……いやいや! この公園には、
人払いが張られてるんだし公園の中に入ってくる奴はいないでしょ。
「な、なあ。人払いはまだ張ってるよな?」
「ああ、張ってるがあたしのは人を近づけないだけで音は聞こえてくるぞ」
「ちょっと、付いてきてくれ」
俺はタケミカヅチの手を取り、エロティックな音が聞こえてきた方へと、
なるべく音をたてないように向かった。
「おい、神夜。いったい」
「シーッ」
俺はジェスチャーを使ってタケミカヅチに静かにするように伝えた直後、
また俺の耳にエロティックな水音がピチャピチャと聞こえてきた。
「こっちか……うぉぉ」
音が聞こえていたのは公園のすぐ近くにあるマンションのゴミ捨て場だった。
そこで若いカップルがエロエロに絡み合いながら深いキスをしていた。
うひょぉ~! 動画以外でディープキスを見たのは初めてだ!
うぅ、だがここは二人の愛の巣だ。俺みたいな他人が立ち入ってはいけない。
「タケミカヅチ、かえ……いない」
「おい、キスをするなら家でやれ」
―――――――後ろからの声!
まさかと思い、俺はカップルが愛し合っていた方向を見ると、
そこには平気な顔をしたタケミカヅチがカップルに話しかけていた!
なにしとんじゃぁぁぁぁぁ!
「何してんだよ! すみません! すぐに」
そこまで言いかけて俺は不審に思った。
どんなにタケミカヅチが話しかけようが、二人はまるで俺達が、
存在していないかのようにキスをし続けていた。
「……なんか、おかしくないか?」
「ああ……あいつらの目を見てみろ」
キスをし続けているカップルの目をよく見てみると光が灯っていなかった。
「取り敢えず、手荒だが仕方がない。第三番、雷光電」
タケミカヅチが地面を指で触れながらそう呟くとバチバチッと、
地面を通ってカップルたちに電流が走って、二人の意識を強制的にオフにした。
「やはり……こいつら意識が無かったんだ」
タケミカヅチは一目見ただけで分かったようだが俺にはさっぱり分からず、
なんのこっちゃ? という状態だ。
「神夜……」
「なんだよ」
「この地区にまた新しい神がいるぞ」
俺はその話を聞いて、深く―――――日本海のようにずっと深いため息をついた。
こんばんわ~。いかがでしたか?
感想なんかくれたら嬉しいです。それでは~




