第十三神 戦う真の目的
「ぶほっ!」
俺が意識を取り戻したときはまだ、周りに水が満ちていて呼吸ができなかった。
ふと、自分の手に視線をやると両手にさっき、
受け取った鎖で繋がれている刀が握られていた。
んじゃ、反撃と行きますか!
俺が、刀を下から上に振り上げた瞬間、俺を包み込んでいた水が
一気に辺りに散り、数分ぶりに地面に足を着いた。
「ハァ! ハァ! ゲハッ! し、死ぬかと思った!」
「神夜!」
おぉ……数分ぶりのタケミカヅチの声だ……あいつの声を、
聞いたら生きてるって実感が湧いてきたわ。
嬉しさ反面、俺をひどく睨みつけている二人ほどいた。
いやね……トラロックが俺を睨みつけているのはわかるさ。
だって、殺したと思った相手がまだ生きてたんだから……でも、
なんでアマテラスが俺を睨んでるわけ?
むしろここは泣いて喜ぶ場面じゃないのかな?
「タケミカヅチ! これ返すわ!」
「お、おま! 人の剣を投げるな!」
俺はタケミカヅチから借りていた剣を放り投げて返すと、彼女は怒りながらも、
放り投げられた剣をキャッチした。
「なんで……なんであんたは生きてる!」
「さあ? ……俺に聞かないでくれよ」
「それにその刀は何だ! いったい、どこからそんなものを取り出した!」
いったいどこから……どう答えればいいんだ? 腹の中? 体の中?
「ん~? どう言って良いかは分からないけど……これでお前を倒す」
「そう……その減らず口を二度と叩けないようにハサミで切ってやる!」
そう怒鳴り散らしてトラロックは俺の視界から一瞬、消えた。
さっきまでは見えなかったこの動き―――――でも、今は見える!
「なっ!」
俺が右手に持っている刀を切っ先を地面に向けると、そこにちょうど、
トラロックのハサミが当たって、金属音が鳴り響いた。
「刀は二つあるんだぜ!」
俺はもう一本の刀を全力で振り下ろすが相手ももう一方のハサミで、
振り下ろした刀を防いだ。
「お前の動き、見えるぜ!」
「偶然、刀に当たっただけでしょうが!」
「試してみるか?」
そう言うと、トラロックはいったん俺から距離を置いてまた視界から一瞬消えた。
今度は……上か!
上を見上げると空からカニのような姿をしているトラロックが甲羅で、
俺を押しつぶそうとしているのが見えたので、俺はそれを避け、通過ざまに
刀をあてて甲羅を斬り裂こうとするが案外、
硬くて火花が散っただけで斬れなかった。
「偶然じゃなかったっていうわけね! だったら!」
トラロックがハサミを俺に向けた瞬間、閉じていたハサミが開いて
そこから何かが飛んできて、俺の頬を薄く切り裂いた。
「っ! 高圧水流か!」
後ろを振り返ると地面には真っ直ぐに何かで切断した跡が残っていた。
「正解。でも、敵に背中を向けるのは禁則よ」
「ぬぉっ!」
俺は慌ててその場から離れると、俺がいた場所に高圧水流が、
放たれて地面を斬り裂いた。
「そらそらそら!」
連続で放たれてくる高圧水流に俺はいったん、攻撃の手を緩めて回避に専念した。
「避けてばかりじゃ勝てないわよ!」
「だったら、高圧水流やめてくれよ!」
トラロックは笑みを浮かべて、片っぽのハサミから高圧水流を連続で、
放ったままもう片方のハサミで俺を斬り裂くべく、こっちに走ってきた。
「そらぁ!」
もう、避けるのは終わりだ!
「行くぜ!」
真正面から突っ込んでいき、飛んでくる高圧水流を刀で防いだり、
斬り裂いたりしながらトラロックに近づいていく。
「はぁ!」
「うらぁ!」
ハサミと刀がぶつかり合い、目の前で火花と金属音が辺りにブチまかれた。
「ぐうぅぅぅ!」
目的……戦う目的……。
「よっ!」
「うおっ!」
トラロックが別の方向へ急に方向転換したものだから俺は今まで体重を、
かけていたものが無くなり、何もないところに前のめりになった。
「死ねぇ!」
「ちっ!」
放たれてくる高圧水流を刀で切り裂こうと刀を振るい、
高圧水流とぶつかった瞬間。
「う、ウソだろ!」
ポキィィン! と良い音を響かせながら一本の刀の刀身が持ち手だけに、
なるように綺麗に折れてしまった。
「もう一本!」
また、放たれてきた高圧水流に刀が直撃した瞬間、先ほど聞こえてきた音が、
もう一度、俺の耳に入ってきて地面に二つの折れた刀の刀身が突き刺さった。
「最初はビックリしたけどすごく脆い刀ね。水流を数回、ぶつけただけなのに、
折れちゃうなんて」
俺の手にあるのは刀身が折れ、鎖で繋がれた刀。
刀が……こんなのであいつを斬れるわけが……そう言えば……。
俺はふと、あの金髪イケメンが言っていたことを思い出した。
『こいつの使用目的とお前の目的は異なっている。
お前の目的が確固たるものになった時、この刀はお前に真の力を齎す』
……俺の……戦う目的……。
ふと、視界にアマテラスの姿が入った。
…………そうか……決めた……俺の戦う目的は……。
「死ね! 人間!」
「神夜! ボサッとするな! 避けろ!」
今までで最高威力の高圧水流が地面を抉りながら俺に向かってくる。
「アマテラスの為に適を倒すことだ!」
俺の戦う目的が確固たるものとなった瞬間、刀全体から光が溢れてきて、
その光は高圧水流を打ち消した。
「な!」
徐々に刀の至る所に付着していた赤黒い物が消えていき、地面に落ちていた刀身が完全に砕け散って塵になった直後に、刀の持ち手からあふれ出している光が、
集まっていき新たな刀身となり、刀の真の姿が露わになった。
「これが……真の力」
今、持っている刀からものすごい力が俺に流れてくるのが分かる。
持ち手の部分は金色に輝いており、二本の刀を繋いでいる鎖は一切の曇りが無く、俺の姿が写るほど白くて綺麗だった。
「アハ……アハハハハハ! そういうことね!
あんたは珍しい神獣を宿した人間ってことなのね! 神獣ならぬ珍獣ってわけだ!
これは面白いわ! 今から私にやられるのが惜しいけどさぁ!」
トラロックが高圧水流を放とうとした瞬間、俺は高速で移動して、
まっすぐ刀を振り下ろし彼女の右のハサミを斬り裂くと、
元の彼女の腕があらわになった。
「なっ!」
トラロックは驚きを露わにしつつ、俺から距離を取った。
「つっ!」
地面に着地した瞬間、右足が攣ってしまった。
……さっきの速度に耐えきれていないってことか……。
「く、砕かれた……わ、私のハサミが……人間に」
「もう一本逝っとくか」
「―――――っっ!」
トラロックは俺の発言を聞いた瞬間、後ろを向いていかにも
頑丈そうな甲羅で俺の攻撃を防ごうとした。
しかし、俺が振り下ろした刀は止まることなく甲羅を斬り裂き、
守るものが何もなくなった彼女の背中を思いっきり、蹴り飛ばしてやった。
す、すげぇ……これがこの刀の真の力……。
「甲羅まで……砕かれるなんて……」
「終わりだ。お前の武器はもう、ハサミしか残ってない。
左右のハサミで耐久力が違うわけはない……終わりだ」
「…………アハ♪……アハハハハハハハハハハハハハハ!」
突然、トラロックは狂ったかのように笑い始めた。
その笑い声は夜の学校に、不気味に反響した。
「こんなところで終わるわけがないでしょうが!」
残っているハサミから高圧水流を放つが、
俺は片腕で飛んできたそれを斬り裂いた。
「つっ!」
か、体が堪えれてない! ……右足だけじゃなくて右腕まで攣りやがった!
「こんなところで……こんなところで終ったらこのサバイバルに、
参加した意味がなくなる!」
サバイバルに……参加した意味がなくなる?
「どういう意味だよ」
「あんたに言っても仕方がないんだけどね……神の世界は、
序列ってもんがあるのよ。絶対的な縦社会…………その序列の中で、
トラロックっていう名前は下から数えた方が早いどころか、
最下層に位置してるのよ。そりゃねえ、雨と稲妻の神だなんて、
序列が低いに決まってるじゃない」
「なんでだよ。雨は恵みの雨とかって言うじゃねぇか」
俺がそう言うとトラロックは悲しそうな表情と呆れたような表情を足して、
二で割ったような表情をして俺の方を見た。
「雨の神よりも……水の神の方が序列は高いわ。水が無ければ
……大気中の水分が無いと雨は降らない……こう言えば分かるかしら?」
雨よりも水……雨は大気中の水蒸気が気温が下がったり、上昇気流なんかで、
運ばれたりすることで凝結し雲ができ、雲の中で雨粒が成長して、
地上に降ってくる……水蒸気が無ければ雲が生まれることはなく、
雲が無ければ雨粒が成長することもない。
だから、雨の神よりも水の神の方が序列は上になる……納得できた。
「このサバイバルに参加して、アマテラスでもタケミカヅチでも良い!
名前が知られている神を倒せば、序列も見直される! そのために、
私はここに来たのに……人間なんかに負ければさらに序列は下がる!
だから、こんなところで負けてられないのよぉぉぉぉぉぉ!」
トラロックは目に涙をためた状態で叫び散らし、俺に向かって走ってきた。
……そうか……お前は他の神に自分の力を見せるために……。
俺はあいつが振り下ろしてきた相手のハサミを刀で受け止めた。
「俺だってな! 負けられねぇんだよ! 理由はてめえよりも、
かなりちっちゃいもんだけどよぉ! アマテラスも! タケミカヅチも!
俺みたいな人間の為に剣術や呪いを教えてくれたんだ!
アマテラスには命を救われた! だったら、俺は戦いで、
勝つことがあいつに対する礼なんだよ! 恩を仇で返すわけにはいかないんだ!」
俺とトラロックは同時に、お互いから距離を取り、そして――――――――。
「トラロック!」
「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
ハサミから放たれてきたのは高圧水流ではなく、
青色をした力の塊のようなものだった!
「ぐおおぉぉぉぉ!」
俺は刀を放たれてきた力の塊にぶつけ、少しづつ――――少しづつ切り裂き、
あいつに近づいていく!
す、すげえ神の力だ……。
「どらあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
俺が気合いにこもった叫び声を吐き出しながら刀を振り下ろすと、
力の塊が一刀両断され、目の前のトラロックの姿を捕らえた!
「ふん!」
俺は鎖に繋がれた片方の刀を槍を投げる感覚でトラロックのハサミめがけて投げ、それをトラロックがハサミでたたき落とそうとした直後に、
刀がハサミに突き刺さり、砕け散った!
「そ、そんな!」
「終わりだ!」
俺は止めに刀を振り下ろそうとした瞬間!
「ダメ!」
「なっ! ちょ!」
突然、俺とトラロックの間に妹ちゃんが割り込んできた!
俺は慌てて、刀を振り下ろすのをどうにかして中断した。
こんにちわ~……昨日のアクセス数が晩の七時から十一時までゼロ人でした……
こんなことあるんですね(泣)




