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【コミカライズ決定】【連載版】王太子でも聖女でも悪女でもなく、一番の策士が『剣術バカ(嘘)』の私の婚約者の件  作者: 千秋 颯@6/18「一途に溺愛されて~」アンソロ発売!
第四章 日常を崩す影

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第54話 絶縁の噂

 剣術大会二日目。

 私は大会の観戦はせず、研究棟近くで過ごしていた。


 本来ならば護衛を何名か借りたいところではあるけれど、大会初日からグザヴィエ殿下の刺客が現れたとなれば、ラガルド殿下絡みかも定かではない案件に護衛を割く事は出来ない。

 私は家の護衛数名を周囲に配置させ、研究棟周りの警戒をしていた。


 前日、ヴィーと別れる前に研究棟を回ったお陰で、シャルル様が言っていたものと思われる魔法陣は見つけてある。

 私は改めてそれを確認しに行こうと、研究棟の裏側にある茂みへと入っていった。


(特に昨日と変化はないわね)


 茂みの中に隠すようにして刻まれている、複雑な魔法陣を観察しながら昨日の出来事を振り返る。

 そんな折だった。


「まさか、今日もおつかいに来た……なんて言わないよな?」


 すぐ耳元から低い声がする。

 弾かれるように振り返ると、薄紫の髪が視界に入り込んだ。

 私に顔を寄せ、中腰だったシャルル様は私と目が合うとにこりと微笑む。


「どーも。昨日ぶりだね」

「しゃ、シャルル様……っ」

「今は剣術大会の最中だろう? どうしてここに……と、問うのは野暮だろうな」


 見透かすかのように細められた目が私に向けられていた。


「その……昨日の話が気掛かりで」

「君が気にする事じゃないさ。これは研究棟の問題だ。それに……下手にうろちょろされると、それはそれでややこしくなる。現に、魔法陣付近で不審な人影を見たからオレはこうしてやって来たのだからね」

「う……っ、も、申し訳ありません」


 私はヴィーのように隠密行動が向いている訳でもない。

 シャルル様の主張は正しいし、不慣れな人間が現場を張っている私の姿に第三者が気付けば、仮に何かを企てようとしていたとしても警戒し、想定外の策に移られるかもしれない。

 現場から少し離れた場所で様子を窺い、異変に気付いたら距離を詰める……といった方法の方が有効だったかもしれない、と私は反省した。


「まあ、あの話を聞けば気になるのも当然だったかもしれないな。それはそうとして……ただのご令嬢がわざわざ行動を起こすには動機が足りないような気もするけれど」


 シャルル様の物言いから察するに、彼は私が研究棟の侵入を目論んでいる人物や、それらと通ずる者であるとは考えていないようだ。

 しかしだからこそ、私の行いが怪訝に見えているのだろう。


 シャルル様は不審人物がやってくるかもしれない現場に、令嬢である私がやって来た理由を話すよう促していた。

 ここで下手に誤魔化しても意味はない。寧ろシャルル様の不信感をあおるだけだろう。


(そもそも、彼は本当に研究棟の危険を回避しようと考えて動いているのだから、今回の件で警戒する必要はない)


 私はそう結論付けると、シャルル様へ向き直った。


「私はグザヴィエ王太子殿下の婚約者であるジュリエンヌ様の友です。そして婚約者であるヴィクトルは、グザヴィエ王太子従きの騎士。また我がリヴァロル侯爵家もグザヴィエ殿下が立太子される前から殿下の後ろ盾となり続けていた家門です」


 全てを語った訳ではない。

 簡潔に、自分の立場だけを明かしただけ。

 しかし、シャルル様にとってはそれで充分だったのだろう。


「……なるほど。君は、或いは君達はオレが提示した問題が王太子殿下と対立する派閥によるものではないかと考えている訳だ」


 私は肯定も否定もせず、シャルル様を見つめ返す。

 彼は私の表情を観察し、それから深く息を吐いた。


「オレの家が王太子殿下と対立的な立場にある事は理解しているかな」

「はい」

「その上で話している、と。ならオレの立場も分かっている訳だ」



***



「そういや、シャルル様だけどさ」


 昨日、馬車へ向かう私達が並んで歩いていた時。

 ヴィーはふと話を切り出した。


「確か今は家と絶縁状態っぽいって話だった気がするな」

「ああ……そういえば」


 社交界で飛び交う数多くの噂の中に、そんな話があった気がする。

 確か元々、父であるフォンタニエ伯爵との折り合いが悪くはあったが、研究員となった事を理由に家を出た……といったものだった気がする。


「すげーよなぁ。家の後ろ盾なしで研究員として認められてるんだろ。俺には絶対無理だな」

「ヴィーはそもそも、勉強できないものね。論外よ」

「なんだよ!」


(ヴィーが敢えてこの話題を出したという事は、ただの噂ではなく……ある程度信憑性のある話なのでしょうね)


 シャルル様を警戒する必要はない、と。

 私はそんなメッセージとしてこの言葉を受け取ったのだった。



***



「はい」


 投げられた問いに頷けば、シャルル様は満足そうに笑みを深めた。


「なるほどな」


 それから彼は視線を研究棟の方へと向ける。


「ご令嬢が一日立ちっぱなしで現場を見張るなんて、現実的ではないだろう? 体力的にも、集中力的にも切り詰めた状態では万が一の時に何もできない。よければ、お茶のいっぱいくらいでも振る舞うが、どうかな」


 どうせ、他に人はつけているのだろう。

 そう言うように、彼は周囲を見回した。


 私はこの誘いを、情報共有の誘いとして受け取った。

 もしかしたら彼から新たな話が聞けるかもしれない。


「よろこんで」


 私は頷きを返し、シャルル様とともに研究棟へと向かうのだった。

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