表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「高卒のくせに」と私を見下したエリート兄が、遺産を食いつぶしてゴミ屋敷の住人に転落した結果  作者: 品川太朗


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/10

第10話(最終話):『静かな夜空』

兄は施設へ、母は遠くの街へ、実家は更地へ。

全ての「ゴミ」は片付きました。


季節は巡り、遥の元には本当の平穏が訪れています。

どうぞ、最後まで温かい気持ちで見届けてください。

 季節が一つ、変わった。

 実家があった場所は今、さらさらとした土が広がるだけの更地になっている。

 不動産屋からの報告によれば、土地はすぐに買い手がつき、売却益で兄の借金も綺麗に完済できたという。

 残ったわずかなお金を持って、母は遠く離れた北関東の小さなアパートへと越していった。

 私の「警告」が効いているのか、あれから一度も連絡はない。

 兄の方はと言えば――更生施設から定期報告が届いていた。

 『入所当初は暴れていたが、現在は観念して農作業に従事している。逃亡の恐れなし』

 添付されていた写真には、丸刈りにされ、げっそりと痩せて真っ黒に日焼けした男が、泥まみれで大根を引き抜いている姿が写っていた。

 その目は死んだ魚のようで、かつての傲慢な光は微塵もない。

 私はそのメールをゴミ箱に入れ、完全に削除した。

 これで、本当にすべてが終わったのだ。

 ◇

「ママ、おやすみなさーい!」

「はーい、おやすみ。いい夢見てね」

 寝室の明かりを消し、ドアをそっと閉める。

 静寂が訪れたリビングには、温かいルイボスティーの香りが漂っていた。

 ソファでは、夫の健人が読みかけの本を閉じ、眼鏡を外して目を細めている。

「結、すぐに寝た?」

「うん。今日は公園でたくさん遊んだから、ぐっすり」

 私は健人の隣に腰を下ろした。彼が自然に腕を回し、私の肩を抱き寄せる。

 その体温と、一定のリズムで刻まれる心音が、何よりも心地よい。

「……ねえ、健人くん」

「ん?」

「ありがとう。健人くんがいなかったら、私、きっとまだ過去に囚われたままだった」

 もし彼がいなければ、私は「家族だから」という呪いに縛られ、母を見捨てられず、兄に搾取され続けていただろう。

 私の背中を押し、一緒に泥をかぶり、戦ってくれた彼がいたからこそ、私は自分の人生を取り戻すことができた。

「お礼を言うのは僕の方だよ」

 健人は優しく私の髪を梳いた。

「遥が勇気を出して決断してくれたから、僕たちはこの平穏を守れたんだ。……君は強い人だよ。僕の自慢の奥さんだ」

 その言葉が、胸の奥にじわりと染み渡る。

 「高卒」「出来損ない」「養分」。

 かつて私に向けられていた呪いの言葉たちは、もうどこにもない。

 ここにあるのは、私を一人の人間として愛し、尊重してくれる家族だけだ。

「……風、当たってくるね」

「うん。湯冷めしないようにね」

 私はマグカップを手に、ベランダへと出た。

 夜風は少し冷たかったけれど、火照った頬にはちょうどよかった。

 手すりにもたれかかり、空を見上げる。

 今日の夜空は、雲ひとつなく晴れ渡っていた。

 街の明かりにも負けないくらい、星が瞬いている。

 大きく、息を吸い込む。

 肺の隅々まで、澄んだ空気が満たしていく。

 重たい鎖はもうない。

 誰かの顔色を伺う必要もない。

 明日の朝は、また大好きな家族とご飯を食べ、笑い合い、未来の話をするのだ。

 私の人生は、ここからが本番だ。

 高卒だろうが何だろうが関係ない。私は今、世界で一番幸せな自信がある。

「……綺麗」

 ぽつりと呟いた言葉は、夜空の星に向けたものか、それとも自分の未来に向けたものか。

 私は空になったカップを置き、夜空に向かって小さく、けれど晴れやかに微笑んだ。

「さようなら。そして――こんにちは、私の新しい人生」

 室内の光が漏れる窓の向こうで、愛する夫が私を呼ぶ声がした。

 私は軽やかな足取りで、光の中へと帰っていった。

(了)

最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

皆様の応援のおかげで、無事に完結まで書き切ることができました。


遥と健人、そして結ちゃんがこれからも幸せに暮らしていけるよう、私も願っています。


もし、この物語を読んで

「スカッとした!」

「面白かった!」

「ざまぁ展開が最高だった!」

と思っていただけましたら、


ページ下部(スマホ版)にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】に評価していただけると、大変励みになります!

(ブックマーク登録もしていただけると嬉しいです!)


感想もお待ちしております。


--------------------------------------------------

【著者の別作品のご案内】


本作のような「因果応報」「スカッと」「ざまぁ」展開がお好きな方に、特におすすめの作品です!


◆「モラハラ・家庭内の逆転劇」がお好きな方はこちら

夫や実母を見返す爽快感をお約束します。


『「お前は役立たずのクズだ」とモラハラ夫に罵られていた私、決意の離婚。~私がいなければ、あなたはプレゼン資料も作れない無能でしたね?~』

https://ncode.syosetu.com/n1678lj/


『(長男)が専業主夫になりました。~「稼ぎも家事も妻以下」とウチの最強実母に論破された男の末路~』

https://ncode.syosetu.com/n3568lj/


◆「許せない悪役への徹底的な制裁」がお好きな方はこちら

自業自得な破滅へ突き進む様を、たっぷりと描いています。


『「アレルギーなんて甘えだ」と娘にパンを強要した新担任。アナフィラキシーで搬送された病院で、医師に「それは殺人未遂です」と完全論破され、破滅するまで』

https://ncode.syosetu.com/n9684lj/


『「たかが忌引きだろ」と父の死を侮辱したパワハラ上司が、半年後に自らの行いで家族を失い再起不能になった件』

https://ncode.syosetu.com/n6079lj/


◆「一味違う舞台・設定」を楽しみたい方はこちら


『優しい妹の飼育箱 ~毒親の檻から逃げ出した私は、より快適な牢獄で暮らす~』

https://ncode.syosetu.com/n9056lj/


『D&I要件で不適格となった天才脚本家は、白人男性の汚名を着ながら、影で$500万ドルの傑作を書き上げる。』

https://ncode.syosetu.com/n4258lj/


「打算結婚の誤算。~俺は『親の財産目当て』という嘘を、死ぬまで突き通すことにした~」

https://ncode.syosetu.com/n3315ll/


『俺の腕なら事故らないから保険は解約しろ』と言って生活費を奪う夫。言いつけ通り更新をやめて3年後、雨の日に高級外車に突っ込んだ夫に事実を告げた結果

https://ncode.syosetu.com/n2572ll/


--------------------------------------------------


これからも、皆様に楽しんでいただける物語を書いていきます。

また別の作品でお会いしましょう!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ