趣味じゃない
先ほどまでよりスピードは明らかに落ちている。
剣士や剣豪といったスキルは持っていると、各種武技を使えるようになる以外にも二つのメリットがある。
まず一つ、剣を使った攻撃をする際に威力が少し上がる。
持っているのが一番初歩の剣術スキルだけだと実際に効果を実感しづらいけれど、剣術・剣士・そして剣豪と三つもスキルを持っていれば、流石に目に見えて威力の向上が実感できる。
そしてもう一つ、こっちの方が個人的にありがたいのが、剣を振る時にアシストのようなものがかかることだ。
特に意識をしたりすることがなくても、なんとなくこう振るのが正解なんだろうな、みたいなことが、直感でわかるようのである。
スキルの力をフルに使い、俺は今の自分にできる最適な方法で剣を振っていく。
「ほう、剣も振れるもいっぱし以上に振れるのか。威力もなかなか……」
「恐縮……ですっ!」
剣術・剣士・剣豪という本来であれば複合しない三つのスキルを併用することで、俺の剣技のレベルはかなり高いものになっているはずだ。
おまけにホルダーを攻撃力特化の構成に変えて、攻撃力をAまで変えてるっていうのに。
「――全然、攻撃が通らないッ! なんていう馬鹿力ですかっ!」
「いや、マルト卿もなかなかなものだ」
握って岩を砕けるレベルまで攻撃力を上げているというのに、レオニスさんはこちらの攻撃をなんでもなさそうな顔をして捌いてくる。
こっちに返ってくる手応えはめちゃくちゃに重い。
多分だけどあっちの方が攻撃力が上なんだ。
見れないけどレオニスさんの攻撃力のステータスはSに届いているだろう。
俺は腕のしびれを感じながらも剣を振る。
純粋に剣技で対応をするつもりだからか、レオニスさんが剣の振り方を変える。
先ほどはどっしりと構えて迎え撃つだけだったけれど、今度はしっかりと受け流したり、カウンターを放ってくる戦法も使ってくるようになる。
流水のように攻撃を受け流され、鋭い切り返しで危うく攻撃をもらいかけ、手加減されているのがわかるのにこっちは攻撃を受けるだけで精一杯だった。
そろそろ腕試しも十分だと思ったからか、レオニスさんの目がキラリと光る。
そして剣の鋭さが一気に上がった。
すくい上げるような一撃を耐えるために思わず重心をずらしたところで、そのまま流れるように逆手を打擲される。
なんとか剣を取り落とさないように気張るが、その意識の隙間を縫う形で思い切り頭を剣で叩かれた。
「――痛~っ! ま、参りました……」
流石にこらえきれずに集中を切らしたところで、木剣の切っ先が鼻先に突き出される。
純粋な剣術だけだと手も足も出なかった……。
魔法を使えばこれほどの人を相手にしても戦えるんだから、やっぱり魔法の力様々だ。
「はあっ、はあっ、はあっ……」
「マルトさんっ!」
思いっきり息を吸い込んで肺に酸素を送りつけていると、とたたっとこちらに走り寄ってくるエレオノーラ様の姿が見えた。
彼女は近づいてくると、手に持っていたタオルをこちらに渡してくれた。
「どうぞっ!」
「ありがとう」
遠慮なくタオルで拭かせてもらうと、一気に身体がひんやりとした。
運動で火照った身体に、濡れタオルは流石に気持ちが良すぎる。
エレオノーラの心遣いが沁みるね、これは。
痛みを感じる箇所があったので確認すると、打撲や擦り傷、自分が使った魔術で出来た火傷や切り傷なんかがいくつかできていた。
光魔術を使ってしっかりと治していると、目の前に影が出来る。
「実力は確認させてもらった。たしかに魔族を討てるだけの実力がある……その若さでとなると、末恐ろしいとすら感じてしまうな」
最初に会った時は少し剣呑としていたが、今のレオニスさんはどこかすっきりしたような顔をしている。
剣を交えたことで気が紛れたのか、なんだかさっぱりした様子だ。
心持ち顔つきも柔和になっているような気がする。
レオニスさんはこちらにやってくると――そのまま勢いよく頭を下げた。
見事に綺麗な直角のお辞儀だ。
動作が素早すぎて、言葉を差し挟むだけの隙間がまったくなかった。
「肝心なことを言い忘れていた。本来であれば腕試しの前に言わなければいけないことだ。マルト卿――陛下達を守ってくれて、ありがとう。貴殿がいなかったら王城はどうなっていたか……考えるだにぞっとするよ」
「いえいえ、王城にいることができたのはただの偶然です。それに僕だけではかなり危ないところでした。あの魔族――ディスパイルを倒すことができたのは、荒鷲騎士団の皆様のご尽力あってのことです」
「思っていたより謙虚な人柄をしているのだな……」
一体レオニスさんの目には俺がどんな風に映ってたんだろうか。
ちょっと冷静になって考えてみよう。
王城に入ってエレオノーラを中にいた寄生虫を倒すことで治し。
そのまま乱入してきたディスパイルをなんとかするために魔法をぶっ放して王城を半壊させながらなんとか倒すことに成功して、そのまま騎士爵をもらう……うん、自分で言ってても意味がわからない活躍をしてるね!
正直こんな人物がいたら、怪しむのは当然だ。
レオニスさんが警戒していたのも、別におかしなことでもなんでもない。
「鼻っ柱を折ってやろうと思って誘ってみたが……これは思わぬ拾いものだったかもしれぬな」
立ち上がると、近づいてきたレオニスさんに手を差し出される。
「きょ、恐縮です」
おそるおそる握ってみると、レオニスさんの手は本当に人の手なのかと怪しんでしまうくらいにガチガチに硬かった。
まるで岩と握手でもしてるみたいだ。岩と握手ができるわけないけど。
「私は剣閃を見れば、およその人となりがわかる。マルト卿の剣はまっすぐで、努力をしてきたものの刃筋だ。良くも悪くも擦れていなくて単純すぎるのが玉に瑕といったところか。魔法を使って距離を取られれば私でも苦戦しそうなほどだ。このまま精進を続ければ確実に、一角の人物になることができるだろう」
「あ、ありがとうございます」
手も足も出ずにあがいていただけなのに、なぜかレオニスさんからの好感度が爆上がりしていた。
というか剣を見れば人となりがわかるって……俺の剣技ってそんなわかりやすいのかな?
自分で言うのもなんだけど、別に俺の性根ってそれほどまっすぐではないと思うんだけど……。
「すごかったです、マルトさん!」
「そうかな?」
「はい、あれだけの魔法を使えるなら今すぐにでも宮廷魔導師になれると思います!」
なぜかエレオノーラからの評価も上がっていた。
それに続く形で観戦していた衛兵達からもすごい勢いでそうだそうだという歓声が上がる。
俺からしたら埋められない差をなんとかするために魔法の乱打で誤魔化したりステータスを弄った状態の力でぶつかってみただけなんだけど……なぜか周りからの評価がぐっと上がってしまった。
善戦すらできてなかったんだけど、レオニスさん相手にここまで食らいついたってだけですごいと思われたようだ。
俺としてはまだまだ改善点の見えてくる戦いだったので納得いっていないんだけど……これが周囲と自分との評価のギャップってやつだろうか?
「あれだけ剣が使えるなら、宮廷魔導師でなくとも王立騎士団の方でもやっていけると思いますよ。魔法の使える騎士団員は貴重だし、間違いなく重宝されるだろう。もしあれなら口利きもしますが」
とレオニスさんからも勧誘を受けてしまった。
宮廷魔導師に騎士団員か……このアトキン王国での社会的なステータスで見るなら多分かなりの大大大大大出世になるんだと思うけど、正直なところまったく引かれない。
冒険者としての生活に慣れちゃった今から堅苦しい宮仕えなんてできないし。
それに宮仕えになって行動が制限されればレベル上げや邪神の使徒捜しをするのも難しくなるし。
丁重にお断りさせてもらうことにしよう。
「そういえばマルトさんは……いえ、なんでもありません」
俺の知っている語彙でなるべく丁寧にお断りの言葉を告げると、なぜかエレオノーラがニコニコと笑い出す。
そしてそのまま流れるような動作で近づいてくると、耳元でそっと
「女神様の使命について、私は存じておりますので……何かあればご連絡致します」
と囁いてくる。
俺一人で探ったところで、その情報量には限界がある。
時期女王がほぼ確定しているエレオノーラから情報を得ることができるのは本当に助かる。
「ありがとう、本当に助かるよ」
ぺこりと頭を下げると、むっとした顔のレオニスさんが近づいてくる。
「しかし姫様との距離が近すぎるのはいただけませんな……」
「すみません!」
ガバッと勢いよく立ち上がって距離を取ると、なぜかエレオノーラが眉をひそめる。
そしてそれを見てレオニスさんが更に顔をしかめ……何、これが四面楚歌ってやつ?(錯乱)
結果として向かい合う形になり、気付けば俺は再び剣を構えていた。
せっかく生ける伝説に稽古をつけてもらえる機会なのだ。
今の自分がどこまでできるのか、しっかり試させてもらうことにしよう。
「ではもう一度やりますかな?」
「はい、よろしくお願いします!」
剣だけの戦いだと流石に圧倒されっぱなしだったけど、やられっぱなしは趣味じゃない。
実は前からやりたいと思ってた戦い方がいくつかあるんだ。
こういう時じゃないとやる機会がないから、とにかく今の自分にできることはなんなのか、格上相手の戦いでも通用しそうなものはなんなのか、レオニスさんにボコボコにされながら実地で試させてもらうことにしよう。
「――行きますッ!」
俺はレオニスさん目がけて駆けていき――結果として俺の魔力が切れるギリギリまで、俺とレオニスさんの模擬戦は続くのだった――。




