番外編【魔女の恋】
リリスがローグスに出会ったのは田舎から出てきて間もない頃だ。
恐らく向こうは覚えていまい。
田舎の村で一番成績が良かった為、王都に招かれたのだ。
有頂天だったリリスの出鼻をこっぴどく叩き折った男。
それがローグスという男だった。
だが、同時に故郷の田舎村が流行り病に侵された時に救ってくれたのもローグスという男だ。
母が女手一つで育ててくれたリリスは、その母を病から救ってくれた男に心惹かれた。
無論…そう簡単に好意を告げられる性格ではなかったので、今だに胸に秘めているけれど。
「やりました! 料理レベルが5に到達しました!」
「おお! 凄いぞ、オルガ! それでこそ私が見初めた女性だ!」
「アレクは料理レベルいくつになったの〜?」
「僕? 僕は昨日10になっ………」
「…………」
「クリス…なにを言わせるの…」
「え、あ、いやぁ〜…今のは素で純粋な疑問だったんだけど〜…。……ごめ〜ん、オルガ〜! そんなつもりじゃなかったのぉ〜!」
「い、いいえ」
「ふご…」
ステンド奪還戦から早五日。
マスキレア王国『サカザス』を目指してメディレディアの港町を目指して旅をしている。
勇者アーノルスの同行者に誘われたローグスを追って、同じくその一員となったリリスは攻撃魔法特化の『魔女』に転職した。
ただの『魔法使い』より役に立てると思ったからだ。
しかし、パーティーは気付けば随分な大所帯と化した。
二つのパーティーが同行すると非常に賑やかになる。
そして、我らがマスキレア王国の勇者アーノルスは同行しているパーティーの勇者…新、勇者と言った方が正確か…オルガにどうやらぞっこんになったようだ。
どうも前々から性癖がおかしいと思っていたのだが、アーノルスはムキムキ系の逞しい女子がお好み。
そしてそれにがっつり当てはまったのが、オルガ。
高身長に、ペタンコ体型。
髪は短く、最初の頃は余りに化粧っ気もなく身嗜みにも無頓着で初見では男にしか見えなかった。
それが今や髪を毎朝クリスが編み、お化粧も施すので見目はそこそこクール系のお姉さん…といった感じになっている。
これなら初見で男と勘違いされることはないだろう。
クリスの化粧スキルにはリリスも感服だ。
その上、毎日毎食アレクと二人で料理を作ってくれるのでついに料理スキルのレベルが5に到達した。
料理スキルレベルが5になると、料理に効果付加が出来るようになる。
リリスも料理は得意なのだが職業『魔女』の効果で作る料理は全て『呪い付加』になってしまう。
残念だが味方には披露する機会はない。
「なんにしてもこれで『おかゆ』に治癒効果を付加できるようになるのだよ」
「は、はい! カルセドニー、すまない…今夜から三食おかゆで頑張って治そうな!」
「ふ、ふご…」
「…というか、まだ包帯取れないの?」
「お前の回復力と一緒にするのではないよリガル。カルセドニーは極々一般的な人種なのだよ。…普通複雑骨折…それも顔面を陥没したら治るのに一ヶ月はかかるのだよ。ついでに…元通りは難しい…」
「ふ、ふご…!」
「ああああぁ〜! 本当にすまないカルセドニー〜! わざとではないんだ〜!」
「そ、そうね…わざとではなかったわね…色々」
カルセドニー…マティアスティーン王国の『元』勇者。
オルガの幼馴染で、コードブラックにより堕落して勇者の資格を失った男。
焚き付けておいてなんだが、リリスも少し反省している。
まさかオルガの『闘士』スキルがあれ程だったとは。
『戦士』として戦う姿しか見てこなかったので、拳で戦うスタイルをあそこまでマスターしていたとは思わなかった……というか、完全に頭になかった。
クリスの治癒魔法で死にかけたところを救われてはいるものの、オルガを「女子力レベルが低いからパーティークビ」発言により半分しか治してもらえず…また『聖女』の称号を持つ『回復師』、マティアスティーン王国の姫エリナも裏切った事により治してもらえず…今だに包帯が取れない。
唯一ローグスが治療を続けているものの、顔面を少しでも元に戻そうとしているらしく四苦八苦状態が続いていた。
オルガも…言葉通りわざとではないのだ。
愛の鞭…多分…そんな感じ。
国に帰ってから幼馴染が少しでも楽に生きられるように…そう願っての制裁。
……ただ、彼女が強すぎただけで。
「クリス君なら元に戻せるんでしょう? やってあげればいいのに」
「い、や! うちのオルガを「女子力低い」って言うんなら、いい女にしてやれば良かったんだよ〜。それも出来ない甲斐性なし、治す価値なし〜」
「ふ、ふふふふごー!」
「なんて?」
「え、ええと……恐らく「そんなの思いつくわけあるかー」…でしょうか」
「まあ…さっぱり反省していませんわね」
「本当だね〜。もっぺん死ぬ?」
「エ、エリナ姫、クリス様…お許しくださいこれ以上は…!」
リガルの提案は治癒系二人にあっさり却下される。
ローグスがそれを見て頭を抱えた。
相変わらず、どんな悪人にも分け隔てない。
医者としてどんな人間でも治療が必要なら治す。
まさにアーノルスとリリスが惚れ込んだ『回復師』。
きっとこの先もローグスだけは、地に落ちた元勇者を見捨てないのだろう。
そして幼馴染のオルガも。
そんな人たちが側にいる。
愚かな一人の男に成り下がったカルセドニーは…幸せな男だ。
「ねーねー、そろそろ港町には着いてもいい頃だよね? 全然見当たらないんだけど…方向は合ってる?」
「道通りに来ているから大丈夫なはずだが…。ローグス、コンパスを出してくれないか?」
「ああ」
アレクの指摘にアーノルスがローグスへコンパスを出させる。
地図を見ながら方角を確認する三人へ、リリスは近付いてみた。
オルガとカルセドニー、クリスとエリナ、リガルのやり取りは見ていて面白いが…やはりローグスの側に少しでも居たい。
見上げてみると、リリスには気付かず真面目な顔で地図を眺めている。
そんな横顔が密かにお気に入り。
「ふむ、道順は間違っていないようなのだよ」
「この辺りは南西の大陸に程近い。魔物もレベル60を超えるものも現れる。それで少し遅れてしまったのかもしれないな」
「うーん…確かに方角も道も合ってる…。でも、全然辿り着かないよねー? 海らしきものも見えないしー…」
「…そう、だな…首都ステンドから大体五日のはずなのだよ。…大所帯だからといってゆっくり歩いて来たが…ふむ…」
「そうだな…?」
「まぁいいじゃない。急く旅って程のもんでもないし。のんびり行きましょ」
「リリス…」
アーノルスに呆れた顔をされる。
そんな変な事を言ったつもりはないので胸を張るが、ローグスにも似たような表情で見られた。
心外である。
「私は早くマスキレアに行って、父や母、兄にオルガを紹介したい!」
「…もっとゆっくり行こうかー」
「……そうだね…急く旅でもないしな…」
「…でしょう…?」
進路決定権の強い三人中二人の同意を得られたので、リリスの意見の勝利だ。
「…というか、アーノルス…陛下たちにオルガを紹介って…ちゃんとお付き合いする事になったわけ?」
「それは……、…まだだが…」
「気が早いわよ。あの子はマティアスティーンの勇者になっちゃったのよ? 手を出すのも国際問題になりかねないし…色々すっ飛ばすべきじゃないわ」
「その通りなのだよ。君たちの交際は反対しないがね、我輩は…。だが、やはり次期国王に最も近いアーノルドの実弟である君の妻候補となれば…」
「ハイ、ストップ」
「なぁに、アレクちゃん」
「……金髪勇者ってまさか…王子様なの…?」
あ。
「…そういえばアレクちゃんはよその世界の子なんだもの、知らないわよね?」
「知らなーい…。説明してもらっていいー?」
「マスキレア王国国王は十七人妻がおり、子供は三十二人いるのだよ。アーノルスは十六人目の側室の子で、王子としては末っ子の第十五王子だ。だが、アーノルスの兄のアーノルドが優秀でね…マスキレア王国の次期国王は指名制故、現在最も王位に近い男とされている。我輩はアーノルドの友人でな。彼に頼まれてアーノルスのパーティーメンバーになったのだよ」
「ローグスは私の家庭教師もやっていてくれたんだ。その縁でね」
「アーノルスは学業成績は最低だが、剣聖と呼ばれる程に剣に関しては秀でていた。その上勇者として聖剣に選ばれた故に…今アーノルドの王位は確実とまで言われてるのだよ」
「…………」
「アレクちゃん?」
随分険しい表情になった。
アーノルスが王子だったのがそんなにお気に召さなかったのだろうか?
確かにオルガを「従者」と呼ぶアレクとクリスからすると彼女は大切な部下。
取られたくないのかもしれない。
あの双子がこの世界で一番頼れるのはオルガなのだろうし。
「…まあ、僕だってオルガには幸せになってもらいたいし? …オルガが金髪勇者を好きなら応援するのも吝かじゃないけどー…。…無理矢理は絶対やめてほしいな。オルガは真面目なんだからなんでもすぐ本気にしちゃうし…」
「私は彼女の事は本気だ!」
「なんにしても、陛下たちへの紹介は見送るべきなのだよ。マスキレアに着くまでに恋仲になったのなら、アーノルドへは紹介してもいいと思うが…」
「でもオルガはマティアスティーンの勇者になったんだよー? 勇者って各国の最終兵器的な存在でしょー? ホイホイ紹介していいのー?」
「そ、そうなのだよ。…いや、そもそも…女性の勇者はオルガが初めてなのだよ。こんな事になるなんて誰が想像するかね?」
「え? そうなのー?」
「そうね、ワタシも女勇者は初めて聞いたわ。どの国も『勇者選定』への参加は男のみのはずだから…」
「…成る程それで…」
と、なにかを納得したらしいアレク。
だが、リリスもふとその事に違和感を覚えた。
マスキレアはまず王子たちが城下の広場に突き刺さった聖剣を抜こうとチャレンジして、アーノルスが見事引き抜いた。
そしてその後も噂で各国、国で抱える騎士や兵士たちを中心に『勇者選定』を行なったという。
男の多い職業のところから『勇者選定』が行われたため、自然に男ばかりが勇者として選定されたのだ。
だが、よく考えれば冒険者の割合は6:4。
男女の数は似たようなものだ。
冒険者たちが『勇者選定』に挑んでいたら…オルガのような女勇者も多くなっていたかもしれない。
「勇者も聖剣も意外と分かってない事が多いわよね…。もう五年も勇者と聖剣に頼って戦ってるのに…」
「確かにそうなのだよ。…我々は聖剣を知らなさすぎる。…もしかしたらカルセドニーのように、勇者らしからぬ者が勇者になっているのかもしれん」
「そもそも聖剣はなにを基準に勇者を選定してるのかしら? ねぇ? アレクちゃん」
「……。…まあ、僕の予想では『勇者の資質』だろうねー」
「勇者の資質?」
「素質、と呼ぶ場合もあるけどー…まあ、要するに『それになる為の才能』だねー。『勇者の資質』は特にピンキリ感が強いから、聖剣は『一定以上の才能』がある人間を選定したんだと思うなー。もっと強い力のある聖剣はその力に伴う『資質』を求めるー。…この世界の聖剣はそんなに力の強いものじゃないから選定基準もそれに応じて低いと思うー」
「ひ、低いの…?」
「低いねー。そうじゃないと『資質落ち』する勇者を選んだりはしないかなー」
そうなのか、と微妙な顔になる三人。
だがそうなると聖剣がオルガを新たに勇者に選定した理由にも合点がいく。
その資質とやらが、オルガにもあったという事だ。
だがその理屈でいくと…。
「我が世界の聖剣は弱いのかね?」
「弱いねー。…金髪勇者やバカトールを見てて思ってたけど、多分この世界の聖剣は元々は一振りだったんじゃないかなー。それを十二分割したんだと思うー。それに伴い聖剣を使える『資質』の質も下がり、オルガの幼馴染みたいなのですら勇者に選ばれる事になったんだと思うー。でも多分、その分選定された勇者の『資質』によって聖剣の力が逆に補われて強く現れると思うー」
「…つまり、勇者の資質によって逆に聖剣の力が強く現れる事もある…って事?」
「そうー。勇者っていうのは「当たり前の事を当たり前に出来る人間」の事なんだってー。それは誰にでも当てはまるし、それが出来ない人間も多いー。…だからその才能はピンキリだし、聖剣はその資質に応じて力が現れるのー」
「…当たり前の事を当たり前に出来る人間…」
アーノルスが腕を組んで考え込む。
当たり前の事を当たり前に出来る人間。
…それなら、とリリスはローグスを見上げる。
確かにアーノルスは困ってる人がいれば助ける男だ。
王子らしく…頭の方の成績と性癖は残念だが人当たりも良く王族の中では人気はピカイチ。
実は兄のアーノルドよりも人気があるのだが、多分本人はその事を知らない。
そしてリリスの故郷が流行り病に脅かされた時、真っ先に医師団を結成して駆け付けたのもこの王子だ。
自分が流行り病に罹る事も恐れず、ローグスたち…医者たちと共に。
中には医者のくせに流行り病に怯えて招集に応じなかった医者もいたらしいのに、アーノルスと共に「そこに患者がいるから」と来てくれたローグスも…リリスにとっては勇者のような存在。
目の上のたんこぶの様に魔法使いとしての才能もある彼は、当たり前の事を当たり前に出来る男でもある。
「ふむ…興味深い話なのだよ。…聖剣に使われるか使えるか、かね」
「言っちゃえばそうだねー」
「ねえ、聖剣と勇者を一箇所に集める…って事はあれ? 聖剣が十二分割されてるなら、もしかして集めた聖剣が一本に戻って十二人でまた勇者の選定をやる、とかなのかしら?」
「どうだろー…」
「そもそも聖剣が十二分割されているというのも…一体どうやったらそんな事が?」
「聖剣は創世神の宝具の一つと言われるからねー…デザインが同じところを見ると力を十二に分けたんじゃなーい?」
「そんな事出来るのかね?」
「出来るでしょー。聖剣は物質に見えて物質ではないものー」
「え? 物質に見えて物質じゃない…? ど、どういう事なんだい?」
「神力という力で出来ているんだよー。神様が使う力の事だねー。魔力とは別物ー。神の体の一部って感じー?」
「魔力みたいな力で出来てるけど、触ったり出来る…って感じ?」
「まあ、そんな感じー」
ローグスと顔を見合わせる。
世の中知らない事がまだまだあるらしい。
「一度アレクちゃんたちの世界で勉強してみたいわ…本気で」
「うむ」
魔法使いとして。
魔法の研究者として。
あまりに彼の知識は興味深い。
だから割と本気で訴えた。
「えー…こないだも言ったけどうちの世界とこの世界は文明レベルが違いすぎるから歴史に影響が出かねないよー。お断りー」
「そ、そんなぁ」
「何故駄目なのだね? 我が国の文明が豊かになるのは君の世界にとって不都合でもあるのかね?」
「そういう訳じゃないけど…人は急に強い力を手にすると調子に乗る。あそこの元勇者とかがいい例でしょー」
「…………」
「…………」
「ぐ、ぐうの音も出ないのかローグス、リリス…」
「ぐ、具体例が的確すぎるんだもの…」
「う、うむ」
「うちの国に移住するんなら歓迎するけどねー…」
「い、移住…!」
それは考えてもみなかった。
異世界に移住!
アレクたちの世界はとても興味深い。
そこで学んでみたい、すごく。
しかし異世界…。
研究者として行きたい気持ち半分。
この世界への未練半分。
「そ、それは少し考えるわね…」
「簡単に言ってくれるのだよ…」
「そう? まあ、別に今すぐ云々じゃないし旅が終わるまで考えておけばー? 僕らすぐに帰らないしー」
「そ、そうなのかね?」
「うん。でも、一度異界の門を潜ると人は簡単には戻れない。中には二度と門を潜れない一方通行の世界もある。異世界と異世界を簡単に移動する力は人ならざる者の領域だからねー。…まあ、創世神によっては界門を隔たりなく開いている者もいるらしいけど…この世界も僕らの世界もそういう類ではないしねー」
「簡単に異世界を行き来する事が出来る世界もあれば、そうじゃない世界もあるって事?」
「そうー。んで、魔王族は基本どんな世界にも立ち入る特別な力があるのー」
「なにそれずるい…」
「では君の世界にも魔王が現れるのかね?」
「…………」
「なんでそこで黙るのよ?」
しかもやや神妙な面持ち。
腕を組み、ほんの少し小首を傾げる。
「…いやぁ…魔祖レベルじゃないと…うちの世界には来ないんじゃないかなぁー」
「…それって一番強い魔王って言ってなかった…?」
「うん。…うちの世界にはドラゴンと幻獣が住んでるからー…。うちの親もヤバイしねー…」
「や、やばいってなにが…⁉︎」
「兄様もヤバイしねー…」
「だからなにが⁉︎」
強さ的なものが、だろうけれど…。
言い方が抽象的過ぎて無駄に怖い。
「こ、こほん。話を少し戻すが、我々がもし移住となったらこの世界には戻って来れるのかね…?」
「うーん…僕らと一緒なら界門は潜れるけどー…僕らの世界の知識をこの世界に持ち帰りたいとかなら話は別ー」
「過ぎた力ってやつなのよね? …でも、魔法の研究者としてはこの世界に知識を還元するのは義務だと思うんだけど」
「問題はそれだけじゃないよねー。リリスもメガネもマスなんとかって国の人でしょー? しかも一番大きくて強い国の人ー。…僕らの世界の力を大国が手に入れる事になるのは良くないよねー。まあ、オルガの国みたいな小国が手に入れてもまずいけどー」
「…、……。……そ、そうね…」
「大きな力は使いたくなるものだものー。それが正しく使われる保証がない以上お断りー」
「…………。…そうだな。分かったのだよ」
「ローグス」
アーノルスが少し、意外そうにローグスを見る。
リリスも同じ意見だ。
国の為に知識を持ち帰りたいわけではないが、もし持ち帰ってもそれがマスキレアにとっていい事になるかどうかは分からない。
大きい国だからこそ、内部分裂を起こすかもしれない。
交渉や合併吸収で成長してきたマスキレアが、力を手に入れて急にシン帝国の様な武力制圧の国に成り下がるかもしれない。
正直リリスだってクリスやアレクの使う魔法を使ってみたい、というのが一番の理由だ。
使ってみたい…。
つまり、大きな力を使いたいという事。
自分でそうなのだから、国の規模になれば……。
「でも、ワタシたちが使っても大丈夫そうな魔法はこれからも色々教えてね」
「うん、それはいいよー。治癒系ならいくらでも教えてあげるー。…使えるかどうかは別だけどー」
「一言余計よ」
『魔女』のリリスは治癒系魔法は使えない。
それに近いものとして『呪い解除』ぐらいだ。
それを分かってて付け加えたな?
「二人は魔法が好きなんだねー。それなら僕らの国の魔法、少し教えてあげるからそれからこの世界に見合った魔法に作り変えていけばいいよー」
「魔法を作り変える…?」
「僕らの世界の魔法の起源は幻獣とドラゴンが使う魔力術。それをオディプス・フェルベールという人が人間が使える様に再構築して昇華したものなんだー。彼が遺した魔法の多くは未だに未解明なものが多いけどー、解明された魔法をより効率よく使える様に研究してる人たちがいるのー。現存する魔法をより少ない魔力と詠唱で簡単に使えるようにねー」
「そ、そんな研究を?」
思いもよらなかった。
リリスたちの世界は新しい魔法を作り出す事が主な研究。
その魔法を…より簡単に使える様にする研究なんて誰もしていない。
「僕らの世界はそうやって普通の人でも気軽に魔法が使える様に研究が進んでるよー。…まあ。魔石っていうのが普及しちゃって、初級の魔法も使える人はあんまりいないんだけどー…魔法学校とかがあるから全く使えない人はあんまりいないかなー。簡単な強化魔法は比較的誰でも使えるねー」
「「「魔法学校⁉︎」」」
「え、そこに食いつくの…?」
またも思いもよらなかった。
魔法学校!
魔法を専門に学べる学校、という事だろうか?
もしもそんなものがあれば多くの人が魔法を学べる。
魔法使いの人口は、爆発的に増えるはずだ。
「素晴らしいのだよ! アーノルス! マスキレアに帰ったらアーノルドへ提案してみるのだよ!」
「そ、そうだな! それは素晴らしい! 私は魔法の才能がからっきしだったが…魔法使いが増えれば魔法の研究も進むはずだ」
「強化魔法っていうのもクリスちゃんがめちゃくちゃ色んな種類使い分けてたものね! そういうのを研究して、ワタシたちの世界でもっと効率よく魔法を使える様にすれば…もっとたくさんの事が出来るようになる!」
「う、うん、そだねー…?」
燃えてきた。
これは是が非でもローグスと語り合わなければならない!
「ローグス、早速現存する魔法とクリスちゃんたちに教わった魔法を比べてみましょう! 詠唱とそれに伴って現れる魔法陣に違いがあるのは分かっているから、その魔法陣の解析からね!」
「うむ! それと詠唱に関してもこの世界の言語に訳してみよう! クリスたちの言語とこの世界の言語には違いがある。それらをこの世界の言語に訳した場合魔法の効果に差異が生じるかもしれないのだよ」
「そうね。紙に書き起こしてみましょう」
「言語の訳に関しても協力を頼むのだよ」
「うん、でもまずは港町に進まない? …すんごい立ち止まって長話しちゃったけど…」
と、アレクがオルガたちの方を見やる。
あちらもあちらで盛り上がっているが、何故かカルセドニーがリガルにバックブリーカーを食らっている。
…なにがどうしてそうなった?
「今日中に港町に着くといいけどー…」
「そうね。おーい、あんたたちー! そろそろ休憩終わらせて進むわよー」
「はーい、今行くよー」
「え、待ってリガル…そのまま来るのか…⁉︎」
「うん! カルセドニーを持ち上げながら歩けばいい訓練になると思って!」
「私もエリナ姫を背負いながら歩きます!」
「……」
脳筋リガルに追随するオルガに言葉を失うローグスとリリスとアレク。
クリスも珍しく無表情でその光景を眺めている。
そして、プルプル震えだすアーノルスに酷く嫌な予感を感じ始めた。
「ローグス! 私に背負われてくれ!」
「嫌なのだよ。言うと思ったのだよ!」
「ならアレク君!」
「え、嫌だけどー」
「クリス君!」
「服がシワになる〜」
「リリス……は、やめておく」
「そりゃ断るけど。…なんかワタシだけおかしくない⁉︎」
オルガが加わった事で脳筋コンビはトリオになった様である。
いや、しかしリガルのカルセドニーの持ち方が絶対におかしい。
「リリスはローグスにお姫様抱っこの方が嬉しいよね!」
「⁉︎ リガル…」
「ぴゅ、ピュピュー」
余計な事を…。
呪ってやろうかと思ったら脱兎の如く走りだす。
その後をオルガがなにを思ったのか「成る程! 人を抱えたまま走る事で足腰を鍛えるのですね!」と言い出して追いかける。
エリナ姫を背負ったまま。
…心なしかエリナ姫が頬を染めて「オルガってば大胆ですわ…」と言っているのが聞こえた様な…。
それを見たアーノルスがますます羨ましがって、ついに「アレク君、クリス君、肩に乗ってくれないか!」と言い出した。
二人も肩に乗る、という状況に目を輝かせて「いいよー」「いいよ〜」と快く了承。
ある意味両手に花。
王子トリオが脳筋二人を追って走り出すと、残されるのはリリスとローグス。
「……ホント脳筋…」
「全くだね。…我々は瞬歩で追うのだよ」
「そうね」
良かった、バレていない。
と、内心安堵する。
リガルめ、本当に余計な事を。
「マスキレアに着いたらあの双子にじっくり魔法について話を聞かなければならない。楽しみなのだよ」
「…そうね!」
子供の様に瞳を輝かせる。
今はまだこの関係がいい。
同じ魔法の研究者として、側に居られればそれで。
(…とは言えマスキレアに帰るとアイツが居るのよね…。まあ、ローグスのこの様子だと大丈夫かな…。魔法の事しか頭にないだろうし…)
(今度こそ)了
『私の新しいパーティーメンバーが勇者よりも強い件。』を、閲覧頂きましてありがとうございました。
一応完結です。
完結三作目…ホッ。
広げようと思えば広げられる余地を残しつつ完結です。
理由は題名を見ていただければ分かっていただけると思います…。
なんにしてもまだ完結してないのもあるのでこれからもぼんやり頑張ります。
閲覧ありがとうございました。
古森でした。








