大丈夫、僕たちになら出来る
丸1日かけてこの辺り一帯の水源である場所に到着した。近づくにつれて感じ取っていた邪悪な気配が、より一層強くなっている。
「うん、ここだね。いやぁな気配がすごいね」
「私も感じております。ジャスティン、マーク、気を付けてください」
「……気を引き締めていく」
僕とマークは辺りに気を配りながら進んで行く。妖精のチョコも警戒しながらついて来ていた。
この場所には洞窟があり、そこから一番邪悪な気配が漂っていた。足元の悪い洞窟を進む。この奥にきっと、魔族がいる。
僕はもう、勇者になった。勇者になってから、救った命もある。今回もきっと救う。それは僕が勇者であるから。勇者は人を、世界を救う。それが、本当の証だと僕は思う。
だいぶ歩いただろうか、開けたところに出る。
「あらやだぁ。随分カッコいい子が来たわね」
「!?」
暗闇から女の声が聞こえ、僕とマークは剣を抜く。
だいぶ暗さには慣れたが、暗いことは変わらない為神経を研ぎ澄ませる。魔族がいる。どこに。どこからくる。
「あはは。暗いと大変よねぇ」
パチン。
音がすると同時に、洞窟内に明かりがともる。
そのおかげで魔族の姿が浮かび上がる。上半身が女性、下半身が蛇で、背中には羽まで生えている。
「ジャスティン。あれはエキドナです。気を付けてください。闇属性の高位ですよ」
嫌な気配で何となく、小物じゃないことは察していたが、よりにもよってエキドナか。これは無傷では帰れなさそうだ。それでも、倒さなければいけない。
「マーク」
「了解」
マークが双剣を構え、地面を蹴ってエキドナとの距離を詰める。マークは俊敏で速い攻撃と双剣の手数の多さが強みだ。
マークを先行させ、僕も後に続く。
「チョコ、上からサポート頼む」
「お安い御用でございます」
チョコが横を離れ、エキドナと僕たちの上に行く。これで、死角のカバーが出来る。
「こんのっ!」
「あら、あら、あらら」
マークは攻撃を繰り出すが、エキドナはその攻撃をいなしていく。素手で受け止めているようにも見えるが、魔法で腕を剣と同じくらいの硬度にしているのだろう。
余裕ぶったその表情が気に入らない。
僕もマークが次の一手を繰り出す間に剣を振るうが、全くダメージを与えられているような気がしない。
「あらら。もう終わりなの? つまんないわね」
「……ジャスティン、埒が飽きません。エキドナは闇属性なのでこのフィールドは少々不利です」
一旦マークと共に下がる。
連続攻撃で、息が若干上がってきてしまっていた。これ以上策もなしに突っ込んでいくは体力の無駄だろうな。
「属性鉱石は何があった」
「……辛うじて、炎の鉱石がございます」
「それを使おう。出してくれ」
属性鉱石は所持している武器の属性を変えることが出来る鉱石だ。元々、精霊の力が込められた属性の決まった武器もある。しかし、たいていは無属性の武器だ。そこで、役に立つのが精霊の力が宿った鉱石である属性鉱石だ。
無属性の武器である僕の剣に炎の鉱石をセットする。
「マークの分もだし――」
ビュン!
右の頬がじりじりとし熱い。
何が起きた。エキドナが目の前にいない。何故だ、さっきまで視界に入れていたはずなのに……!
「がはっ」
「つまんないから、私もうちょっと力出そうかな♪」
背後から声が聞こえて来た。
炎に包まれていく剣を構え、僕は振り返った。
「……マーク!」
目に入ったのはエキドナがマークの首を絞めあげている光景。
まずい。
「やめろ!」
「……あら、素敵な武器になったこと」
エキドナはマークを放り投げて不気味な笑みを僕に向けた。舌なめずりした妖艶な姿に寒気がする。
「ジャスティン、怯んではいけません!」
チョコの声に、剣を握りしめる手に力を込めて斬りかかる。
エキドナは腕でそれを受ける形となる。じりじりと力を入れ、エキドナとの力比べになった。
じりじりとお互いの力が拮抗しているかのように見えるが、実際そんなわけがない。マークをあんな力で吹き飛ばした力がこの程度のわけがない。遊ばれているのか……!
「うふふ」
「……っこの!」
笑っているっていうことは、余裕なのか。
「ジャスティン!!」
「……な」
その瞬間飛んできた赤い輝きがエキドナの腕に突き刺さる。見覚えがあったそれはマークの剣である。どうやらチョコが属性鉱石を渡してくれたらしい。さすが、妖精だ。
隙を見逃すか!
「おらっ!」
完全にヒットした。この機を逃すわけにもいかない。畳みかける。すぐさま構えなおしてもう一太刀エキドナにお見舞いする。
エキドナはよろよろと後退し、傷口を抑えながら恨みがこもった視線を僕に向けた。
「なぁにすんのよ。女性の身体を切り裂くなんて信じらんないわ」
「水源を止めたお前が悪いんだ」
「あははは。そうねぇ」
グルンとエキドナは首を曲げ、僕から視線を逸らした。
おい、そっちには……!
「マーク逃げろ!」
「おっそぉい」
エキドナの影から闇がマークめがけて一直線に伸びていく。鋭い闇は剣山のようで、マークに襲い掛かろうとしていた。
「くっそ!」
マークは残ったもう1本の剣を盾にした。
それだけじゃ、全てしのげるわけじゃない。……一か八か、間に合え!
「我が剣よ、属性の力を持って闇を切り裂け……!」