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全ては安住のため  作者:
復讐猛炎ゲームスタート
28/32

奪還の冒険者……死して屍故に彼らは

「アサギさん」

 グンジョーはその人の名前を呼ぶ。その存在を確かめるかのように、噛みしめるようにその名を呼ぶ。

 グンジョーの目の前には一人の男が立っていた。薄い藍色の、独特な色の髪から覗く垂れた瞳は、飄々としていそうでしかし芯があり、がっちりと引き締まった体格はグンジョー達の成長途中の青年の肉体と比べて完成されているという印象を受ける。

 彼こそが、グンジョーが探していた人物であり、グンジョーとカーキにとっての人生の恩人であるアサギその人だった。

 グンジョーは半ば混乱していていた。ダンジョンで行方不明になった人物と言うのは死体が発見されないだけで基本的には死亡していると考えるのが冒険者の常だからである。

 つまり、グンジョーがどれだけアサギの生存を切望していたとして、それが叶うというのはそれこそ望み薄だったのだ。

 グンジョー自身もそれは分かっていた。しかし、分かっていたからと言って一縷の望みを捨ててしまえるほど、グンジョーはアサギに対して感じている恩義は小さくなく、またアサギの実力ならば生き残っているはずと信じる心が強かった。

 しかし、実際このダンジョンの真の恐ろしさを味わい、どこかグンジョーの中に、アサギの生存を信じきれない気持ちが芽生えていたのも事実だった。

 ダンジョンでの行方不明は死と同義であるということ。

 アサギは己が尊敬する偉大な冒険者であるということ。

 『不明の遺跡』が非常に悪辣な迷宮であるということ。

 それらの情報がグンジョーの脳内で入り乱れ。グンジョーはアサギの死を認めてしまいそうになっていた。

 しかし、である。

 グンジョー自身に危機が訪れたとき、颯爽と現れ敵を全滅させたその様。

 一瞬も忘れたことはない。灰色の街で、ボロボロだったグンジョーに手を差し伸べてくれた英雄像(ヒーロー)

 その姿が、再び目の前にあった。

「……っ! アサギさん!」

 グンジョーは思わずアサギに飛びついた。

 プライドが高く。他人を寄せ付けない突っ張りめいているように見えるグンジョーだが、その反面、彼は非常に寂しがりやで身内に甘えたがり、尊敬するものには傾倒するきらいがあった。

 グンジョーの行動はそれが如実に表れたものだった。目の前にいるアサギに触れて感じることで、その存在を幻でないと確信したい。そんな子供のような突発的な行動だった。

 アサギさんは受け止めてくれる……そうグンジョーは思っていた。

 しかし、アサギは半歩後ろに下がって、グンジョーの好意を拒絶した。

 アサギの硬いブーツの靴底が石床を叩くコツンという音が妙に響く。

 明確な拒絶。グンジョーは信じられないといった風に目を見開き、動きを止める。

 周りで感動の再会を邪魔すまいとしていたソラ達もアサギの行動に驚く。

「……すまねえな」

 アサギは、悲しそうに微笑んでそう言った。

「時間がねーから、今から俺の言うことをよく聞いて実行に移してくれ、俺の最後の頼みだ」

 最後の頼み、という唐突に出て来たワードが、ソラの心を鋭く抉った。

 この感覚をソラは覚えている。忘れるはずもない。

 前回、ソラが『龍狩』と共にこのダンジョンに侵入したとき、ソラ達は完膚なきまでに敗北した。そして、大切な仲間を失った。

 しかし、今回はこのダンジョンの脅威を乗り越えたと思っていたのだ。先ほどのレッドバグの群れを殺しつくした時、己はこのダンジョンの奥の手を破ったと信じていたのだ。

 しかし、それはどうやら違うようだとソラの心が警鐘を鳴らす。目の前のアサギと、スライムの海に沈んでいった親友――キーロとがどうしても重なって見えるのだ。

 このダンジョンは、まだ切り札を隠している。ソラは確信した。

 つまりソラはこの『不明の遺跡』を未だ攻略できていないというわけだ。ソラの焦燥に誰も気づかない。

 アサギは悲壮を隠すように、極めて明るく言い放った。

「俺を殺して、さっさとこのダンジョンを脱出しろ。そして、二度とこのダンジョンに近づくな」

 アサギの衝撃の一言は、グンジョー達の心に絶望の波紋を起こした。

「ど、どういう意味だよ」

 グンジョーが問詰めるがその声は震えていた。

 死んだと思っていたものが生きていた。ようやく見つけた希望であり、奇跡的なこの状況下で、アサギの発言はあまりにも場にそぐわないものだった。

 本来なら、お互いにどちらともなく抱き合って、生存を喜び、涙を流しても良い場面である。

 そんな中で、ようやく見つけた恩人に自らを殺せと言われて、それをすんなりと飲み込めるはずがなかった。

「どういうことだよ! ちゃんと説明してくれよアサギさん!」

「…………」

 声を荒らげるグンジョー。それはもはや八つ当たりに近いものだったが、アサギはそれを黙って受け入れる。

「……お前らが思っている以上に、本当に時間はない。説明も最低限になる。端的に言えば、俺は既に死んでいる」

「なっ」

 その場にいる全員が息を呑んだ。

「馬鹿言わないでくださいアサギさん! お、俺にはアンタが見えるんだ! それとも、幽霊か何かって言いたいんですか!」

 たまらずカーキがアサギに問う。

「そうだ、俺は死んで、改造され、アンデット種のゾンビとして、今ここにいる……」

「ゾンビ!?」

 ヴェスタが声をあげる。

「う、嘘っ。ゾンビって、もっとこう、フラフラしてて、腐ってて気持ち悪くて、手当り次第に私達を襲ってくる、あの……」

「……有情うじょうの、ゾンビ」

 狼狽するヴェスタの言葉の隙間に、ミントがするりと言葉を差し込む。

「……よく知ってるなお譲ちゃん、ミント、つったっけ。優秀な魔法使いみてーだな」

 アサギが感心するように言う。どういうことだと戸惑うグンジョーたちのためにミントは続ける。

「ゾンビには、基本、自我、がない……歩くこと、と、殺すこと、だけ……それが普通……でも、明確な自我をもって、襲って来るゾンビ、が確認、されてる……普通、と違って……腐敗、も少なく、生前と変わらない様子……それが、有情のゾンビ」

 そんなものが、と驚愕するメンバーだが、その話が本当で目の前のアサギがそうだとすれば、話の辻褄が合わない。

「で、でもよ、アサギさんは、俺らに攻撃なんてしてこねーぜ⁉ やっぱり何かの間違えじゃ……」

「……確かに、有情のゾンビ、は、高レベルダンジョン、で稀に確認、されるくらい……このダンジョン、にいるのは……」

 ミントもどことなく違和感を抱いている様子だ。しかし、ミントはすぐさま自らの常識を捨てる。居るはずがないと否定するのは簡単だが、現実との離反に混乱し隙を作るわけにはいかないからだ。

「でも、それ以外……考えづらい」

「多分、その通りだ……有情のゾンビとただのゾンビは、ダンジョンマスターの支配を受けているかどうかだと思う。そしてここのダンジョンマスターは、基本どのゾンビも強制支配はしていねえ」

 だから、俺はお前らに話しかけていられるんだがな、とアサギは憎憎しげに吐き捨てた。

「……別に、いいじゃねえか」

「……グンジョー?」

 グンジョーの突然で奇妙な言葉に、ソラが思わずグンジョーの顔を覗き込む。その顔は青ざめてぎこちない笑顔を作っている。無理やりの笑顔だ。

「アサギさんは見つかった、このまま連れ帰ろう。ゾンビ? 日に当たらなきゃいいんだろ?」

「おいグンジョー! 何言って――」

「出入り口までいって、夜を待てば良い。そりゃ冒険者は続けられねーだろうが、俺がアサギさんを養う分稼ぐし、カーキも、なあ?」

「お、俺は……」

 返答を求められたカーキだが思わずどもる、そんな様子にグンジョーは声を荒げた。

「ふざけんなよ! お前ら……ここまで来て見捨てんのか!? ここに、ここに居るのに! 殺ぜって……なんだよ! どういうことだよ!? なあ!?」

 グンジョーは錯乱していた。

 助けを求めるようにグンジョーの目は泳ぐ。メンバーの顔を次々と見るも、誰もが渋い顔をしていた。

「よ、よく考えてよグンジョー……ゾンビ、なんだよ?」

「だったら何だよ! アサギさんはアサギさんだろうが!」

 ヴェスタがどこか怯えたふうに話しかけても、まるで聞く耳を持たない。

「い、いい加減にしろよグンジョー! お前の気持ちも分かるが、でも魔物になってるんじゃ――」

「うるせえ泣き虫カーキ! このパーティのリーダーは俺だ! 逆らうんじゃねえ! 俺は、俺はアサギさんを救うんだよ!」

「グンジョー……覚悟、を決める、べき」

「ミントまで……テメーら、このっ……人でなし共め! 何で、何で何で何で! なんでこんなことになってんだよ⁉ クソオオオオオオ!」

「…………」

 ソラには、そんなグンジョーを黙って見つめることしか出来なかった。おそらく、グンジョーも心の底では気づいているのだ、自分がどれほど愚かな発言をしているのか。

 それでも、グンジョーは奇跡を信じたかった……。

「グンジョー……」

 アサギが低い声で呼びかける。グンジョーは顔を上げる。アサギは真っすぐにグンジョーを見つめていた。

「ありがとう」

 アサギは感謝の言葉を述べる。グンジョーは一瞬、己を肯定してくれたと喜びの表情を見せるが、次の一言でかき消えた。

「でも、もう良い」

「そん、な」

「ハッ、辛気臭え顔すんなグンジョー。お前はこれから、冒険者として前に進むんだ。お前はもう、俺がいなくても立派にやっていける……お前はこのアサギが認めた男だ! 胸を張れ!」

「や、止めてくれ……まるで、お別れみたいじゃねえか……何言ってんだよアサギさん」

「その通り。お別れだ、グンジョー」

 アサギは固まってしまったグンジョーから目を離し、ミントに話しかける。

「ミント、お前『浄化魔法』は使えるか?」

「……一通り……『昇天浄化魔法』も、使える」

「ほお、そいつは重畳。あいつらに頼むには荷が重いだろうし、ヴェスタはゾンビ自体が生理的に無理っぽいし、お前にやってもらいたいと思ったんだ」

「……それ、だけ?」

「それに、お前の眼には『芯』がある。それに、俺が現れてから一時もククリの柄かから手を外さず俺を警戒している。お前の腕は、信用できる」

「……分かっ、た。聖水も、聖灰も、良い媒介、がない、から。詠唱に頼るだけ、簡素で、ごめん……なさい」

「頼む。多分、もう本当に時間がない……俺も相当急いでここまで来たんだ」

 コホン、とミントは一つ咳払いをし、胸元から十字架のペンダントを取り出し、祈るようにそれを手で包み込む。

「じゃあ……《我らが主オルカラよ、その御手に纏う一欠けの――》」

 ミントが詠唱を始める。カーキは涙を乱暴に拭い、ヴェスタも魔法は使えないながらも祈りのポーズをしていた。グンジョーがどこか睨むような目つきでミントを見ていた。

 そして、ソラはただ沈黙していた。

「《――光をもってして、理を外れし存在、道に迷う存在、影に溺れる存在を――》」

 アサギの身体が光に包まれる。まるで氷が解けるように、火が消えるように、その存在が淡いものになっていく。

 グンジョーは、見ていられなかった。

「《遍く闇より――》」

「……クソオ!」

「っ……きゃっ」

 グンジョーは、ミントに乱暴に掴みかかり、詠唱を無理やり止めたのだ。

「何……を……」

 ミントの瞳は、困惑と驚愕に見開かれる。

「ちっ! グンジョー、お前――」

 アサギは焦ったようにグンジョーを叱責しようとする。が、しかし、己の失敗も気づく。アサギ自身はしっかりとけじめをつけ、別れの訣別は済ませたつもりだったのだが、グンジョーにそれは圧倒的に足らなかったのだ。

 アサギが思っている以上に、グンジョーにとって、アサギという存在は大きなものだったのだ。

「絶対! 絶対におかしい! こんなの俺の望んだ展開じゃねえ! つうか、話がポンポン進み過ぎなんだよ! テメエら、全員諦めが良すぎるんだろうが! もっと、アサギさんを助ける方法はねえか探すべきだ!」

「……ゾンビを……治す……? それは、死人、を完全に生き返らせる、ということ……? そんな、ものは、ない! から、アンデット、を生む外法が、存在、する! グンジョー、分かって! 彼は、消滅させなきゃ、救われない!」

 ミントは必死に、苦手な言葉を何とか紡ぎグンジョーの説得を試みる。その言葉は熱を帯びていた。

「ホントは、彼に、構っている、時間も、ない! 早く脱出、すべき……だから、やるなら、早く」

「お前には分からねえだろミント! この人は! 俺を底辺の底辺からここまで引き上げてくれた人なんだ! 俺を初めて愛してくれた人なんだ! 塵と垢に塗れた俺の手を握ってくれた人なんだ! それを、その人との決別を『ついで』みたく言いやがってえええええ!」

 グンジョーの激情に、ミントは怯え、目じりに涙を溜める。

「グンジョー……」

「アサギさん! 待っててくれ! 俺がアサギさんを助ける方法を何とか――」

 アサギは己の不甲斐なさに歯噛みしながら、声を振り絞りグンジョーの言葉を制す。

「……俺はっ! 人を殺したくねえんだ! 俺だって本当はテメえらを早く逃がしてやりてえ! だけど、ここで俺を放っておいたら、俺は操られていつか人を殺しちまうかもしれねえ! だからっ……さっさと消してくれっ! 時間がねえんだ!」

 アサギの言葉に、グンジョーは思わず黙ってしまう。

「頼むっ」

 振り絞るように吐き出されたアサギの言葉は、これ以上なく重かった。

「ちく……しょう」

 グンジョーは俯き、顔を覆った。カーキもアサギの様子を見て悲壮に暮れている。ヴェスタは、この空間の空気自体に押し潰されそうだった。

「アサギ……さん」

「……どうしたミント」

「もう、時間が無い……留まれば留まるほど、私たちは不利になる……詠唱、の時間ももったいない……から、浄化魔法では、なく……炎魔法で跡形もなく焼き付くす方法を、提案する」

「……ああ、それで良い。贅沢を言えねえことは分かってた。魔法抵抗は限界まで抑える、やってくれ……」

 ようやく……アサギを消滅させることを何とか呑みこんだグンジョーだったが悔しさは残っているようで、握りしめた拳からは血が垂れていた。

 そして、ソラは考えていた。何故このダンジョンはこんな惨たらしいことをするのか。ここまで悲惨な運命を作り出すことが出来るのか。

 目の前で恩人が消えるさまを見るグンジョーはどんな気分なのだろうか。すぐ手を伸ばせば届くのに、救えない気持ちが……。

 魔物の海に沈みこんだ二人の仲間を救えなかった時のソラは、丁度今のグンジョーのような様子だっただろう。

 そしてソラは、アサギとキーロだけでなく、グンジョーと己を重ねてしまった。

 ここでアサギを救いグンジョーに希望を与えられたのならば、ソラはこのダンジョンに、本当の意味で打ち勝ったと言えるのではと考え付いた。

 ――――――――――愚かなこととは露ほども思わずに。

「……本当に、どうにもならないのか?」

 沈黙を破ったソラの発言は、定着しかけていた雰囲気を再びかき回した。

 カーキとヴェスタは、ソラの突然の発言に虚をつかれ、グンジョーは同意者の出現に希望を見出し、アサギは焦り驚いた――アサギはまさか、冒険者として優秀なソラが、今更そんな発言をすると考えていなかったからだ。

「アサギさんが支配されていなくて有情のゾンビの状態なのは、ダンジョンマスターがまだアサギさんレベルは手が余るからだと考えられないか? なら、アサギさんが完全に操られる前にこのダンジョンを出るのは策の一つだ。それに、有情のゾンビが貴重なら、調査してもらえばいい。体の腐敗が進んでいないなら、何とかなるかもしれない。僕の知り合いにそういうのに強い人はいるから。なんとかなるかも……」

 ソラが何かに憑かれたかのように捲し立てていると、ミントが突然ソラに殴り掛かった。

 といっても非力な彼女では攻撃にすらなっていないが、普段の様子から考えて、それは彼女にとって最大の抗議だった。

「なん、だい……ミント」

 ソラが驚き、ミントの表情を見る、その表情は今にも泣きだしそうなほど唇を噛みしめ、そして怒っていた。

「……いい加減、な、こと、言うな」

「なっ」

「リスク、を……考えろ」

 ミントの振り絞るような怒りの声に、それ以上……ソラは何も言えなかった。

「……すまない、俺がお前らパーティを掻き乱したようだ……」

 アサギは反省していた。事実、アサギが姿を現した理由は、百パーセント彼の我がままなのだ。これから魔物として、化け物として生きていかなければならない己の人生にけじめをつけるならば、いっそ彼らに消してほしいと思ってしまったのだ。

 ――諦める、消える方法はまた考える。突き合わせて悪かった。お前らはいち早くこのダンジョンから逃げてくれ――そう続けようとアサギは思った。

 しかし、突如として、アサギは自分の舌が痺れていることに気付いた。否、舌だけではない。体全体の筋肉が硬直していた。

 アサギは理解し絶望する。時間をかけすぎたのだ。

 ――俺は、俺の意思を全て捨てて、コイツらの安全に全力を尽くすべきだったのだ。

 アサギが今更後悔しても、もう遅い。タイムリミットはやってきたのだ。

 ダンジョンマスターが満を持して、このパーティの運命をズタズタに引き裂く準備が整ったと言う事だ。

 伝えなければ、しかし、声が出ない……。

「アサギ、さん?」

 ミントがアサギの異変に気付く。しかし、伝えることはできない。

 グンジョー達を挟んで、固まってしまっているアサギの正面に二つの影が現れた。

「《緑の弾丸、ウィンドブレッド》!」

 圧縮された空気の弾丸が、ソラ達の間をすり抜けアサギに直撃する。硬直状態のアサギは防ぐことも出来ずそのまま後方へ吹き飛んだ。

「何だと⁉」

 グンジョーは己の恩人を吹き飛ばしたであろう犯人の方を向く。そこには冒険者の出で立ちをして男女の二人組がいた。おそらく冒険者パーティだろう、と瞬時にグンジョーは判断した。そして、同じ冒険者稼業の人間だと分かったうえでグンジョーは彼らに怒鳴り散らす。

「何しやがんだテメーら!」

「気を付けろ! そいつはゾンビだ! 色んなことを言って来るかもしれないが、そいつの言うとおりにするとあっという間に殺されるぞ!」

「アサギさんがそんなことするわけねーだろうが!」

「そういうのが命とりなんだ! もしかして、知った顔だったのか? なおさら危険だ、そいつのいう事を信用するな!」

 その二人は『四剣』とソラを守るように取り囲み、アサギに剣を向ける。

「大丈夫かい⁉ 怪我はないか⁉」

「え、ええ大丈夫よ……」

 ヴェスタを慮るように早口で話しかける男。ヴェスタは正直、アサギを倒してくれたことに安堵していた。

 グンジョーの手前言いづらかったが、ヴェスタとしては、ゾンビとはれっきとした魔物なのだ。確かにヴェスタにもアサギを救いたい気持ちはしっかりとある。しかし、それは大前提としてアサギが生き残っていたらの話だ。アンデットになった状態と言うのは、尋ね人が死体で見つかることよりも不運であり、仲間を敵と認識しなおすことは残酷と言うほかない。

 しかし、そこは冒険者として、ある程度の葛藤を持ったとしても切り捨てなければならないラインだ。元仲間であっても、ダンジョンの中で魔物と出会えば倒すという冒険者としての本分は行わなければならない。少なくともヴェスタはそう思っていた。

 ところが、アサギと、ましてやソラでさえ、それを救うとか救わないとか、そんな問答をしているのだ。ヴェスタにとってみれば、その葛藤は今ダンジョンの中ですべきことではなかった。

 だから、彼らの言い分はヴェスタの感性に近かった。

「あなたは……『龍狩』のソラですね! 私たちもここを出るところなのです、どうでしょう、一緒に行きませんか?」

 一方、駆け付けた少女も早口でソラに問う。

 ダンジョンの探索を終え、帰路についていたといった感じだ。

 しかし、ソラはその問いかけに答えない。というよりも、ソラにはこの光景が奇妙だった。

 ヴェスタに話しかける男も、今自分に問いかける少女も、本来はここにいないはずの人間なのだ。

 ……いや、この言葉は正しくない。

 正確には、このダンジョン内に存在しているだろう。だが自分たちの前に現れ、何もなかったように――今まさに探索を終えたように振る舞うことが出来るはずない、ということだ。

 何故ならば彼らは――。

「君たち……隠密機動組『影這』のメンバー……だよね? このダンジョンで行方不明のはずの……」

 その言葉は、ソラの脳内にあるはずの、懐疑や推測といったフィルターをすり抜けて無意識のうちに吐いてしまった言葉だった。

 ソラの言葉に、彼らの顔から作られた表情は消え。

 いつのまにか、ヴェスタの腹部とカーキの左肩には、短剣が突き立てられていた。

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