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第4章:リスナーからの手紙

笑い声とグラスの音が響く賑やかな会場を後にして、

一人、地元のFM局へと向かった。

夜風が頬を撫で、遠ざかる喧騒が、まるで

過去との距離を示すようだった。


週末の夜に放送している「青春リクエスト」の録音。

今回の録音は、少しだけ特別なものになる。


スタジオの扉を開けると、機材のランプが静かに点滅していた。

マイクの前に座ると、20年前の記憶が、誰かがそっと再生ボタンを

押したかのように胸に広がっていく。


「こんばんは、西村紀子です」

「ちょっと特別な夜。昨日20年ぶりの同窓会に

行ってきました。懐かしい顔、懐かしい声、

そして…懐かしい気持ち」


少し間を置いて、一枚のCDを手に取った。


「今日は、私が選んだ一曲を、最初にかけさせてもらいます。

あの頃、私たち女の子の間で流行っていた『イルカ』の『

なごり雪』です。」


曲が流れ始める。

曲の旋律に身を委ねるように、瞼をゆっくりと閉じた。


春の校庭、制服のスカートが風に揺れ、

しっちゃんが笑いながら走ってくる。

シュートはカメラを構え、ミッチは私の隣で

桜の花びらを拾っていた。

あの頃の私たちは、未来が永遠に続くと信じていた。


曲が終わり、マイクが再びオンになる。


「ここで、リスナーからの手紙を読みます」

引き出しから、昨日渡すはずだった手紙を取り出す。


手紙:


あなたへ

今日、あなたに会えないかもしれません。

だから、私の気持ちを綴ります。


あなたとは小学生時代からの幼なじみでした。

中学でサッカーをはじめて男らしくなり、

男性として意識するようになりました。


中学の時、一度、告白しました。

あなたがある人を好きだと知っていたけれど、

どうしても気持ちが抑えきれませんでした。

だから、振られても大きなショックは

ありませんでした。まだ、子供だったからかな。


高校になって、あなたの部活のマネージャーに

なりました。やっぱり好きだったので

そばにいたかった。

友達のふりをしていたけど

あなたへの思いはつのるばかりでした。


ある時から、私の親友のA子さんと、あなたが

卒業アルバムの作成で一緒にいることが

多くなり、二人がお互いに思い合っていることに

気づきました。

それから私は、A子さんに意地悪をするように

なりました。


私より後にあなたと知り合ったのに、私より

親密になっているのが気に食わなかった。

あなたの気持ちを惹きつけているのが

許せなかった。

プライドもズタズタになったからです。


あなたから「彼女を傷付けるな」と言われたとき、

今まで気づかないふりをしていた事に気づきました。

私の居場所は、あなたの心にはないのだと。


A子さんには、卒業式の朝、あなたに嫌がらせを

止められていたことだけ伝えました。謝りもせずに。


あれからずっと、酷いことをしたと後悔しています。


あなたとA子さんは、きっと今日、結ばれていると

思います。どうか、幸せになってください。


「いま、あらためて分かりました」

「人を好きになることには覚悟と勇気がいる事を」


そして――


アッコ (言い直して)A子さん、あの時は

意地悪してごめんね。

嫌いだったわけじゃないのよ。


「本日はご視聴ありがとうございました。

次回まで、どうぞお元気で」


マイクを切ったあと、静かに息を吐いた。

長い間、胸の奥にしまっていた言葉をようやく

手放せた気がした。

マイクの灯が消えた瞬間、胸の奥が安らいだ気がした。

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