6.遥か遠く知らない場所で
長い歴史を持つ大国サヘラン王国。
その王都に聳える白亜の王城の美しさは、世界的にも有名で、王国の地方に住む人々も、この城を一目見たいと願って王都を訪問することがあった。
そしてまたこの王都は、サヘラン王国でも最も人口が多い街であり、人と物の流れが止まらぬ商業都市としても有名だった。
王国中の特産品が揃い、その国土に港を持つサヘラン王国ならでは、多くの舶来品も店に並んだ。
舶来品が、検品と販売許可を得るために、まず王都に集められるためである。
そういった事情もあれば、自然人の流れも多くなる。
ただし異国人の扱いには厳しく、サヘラン王国の民以外は容易く王都を囲う要塞の中に入ることは叶わない。
異国人にとってはいくつもの手続きを踏んで、奇跡的に許された者だけが侵入出来る夢物語の中に存在するような幻影の街だった。
そのアルストゥール王国からは、はるか遠くの白亜の王城にて。
玉座に座り冠を抱く男が、その絵姿を手に取ったのは、アウストゥール王国の王が婚姻式を行った日より二月も過ぎてからのこと。
「この絵姿は本物なるか!」
側近の手により運ばれた小さな額に入れられたその絵姿は、つい先ほど男の手に渡ったばかり。
それから無言を貫いていた男は、しばらくすると額を持つ手をわなわなと震わせ始めた。
そして待つことしばらく。
やっと男から出て来た声が、その怒声だったのだ。
男の座る場所からは遠く、低く、段上の玉座に続く絨毯の上にひれ伏していた者たちは、今か今かとお声掛けの時を待っていたのだが、彼らは予想外に震え上がることになった。
今や彼らに出来ることなど、絨毯に頭を擦り付けて「ははぁ」とさらに深く頭を下げる仕草を見せるだけ。
「本物かと問うておる!答えよ!」
怯えた王家御用の商人らから、声が出て来ることはなかった。
皆が答えようとは試みていたのだが、身体の震えは止まらず、声を発せられなかったのである。
「もう良い。そなたらは下がれ。二度と顔を見せるでない。おい!あれはまだ帰らぬか?」
男は長く待てず、商人らを追い出すと、男より一段低いところに立つ側近に問い掛けた。
この側近が先程商人から額を受け取り、男まで運んでいた。
「まだにございます」
側近は怒鳴られ慣れているのか、立った状態で腰を折り頭を下げた姿勢から微塵も動くことなく、淡々と返事を済ませると、男はさらに苛立った様子で足を組み換えた。
「やはり外になどやらなければ──」
ぶつぶつと言っていた男は、今度は側近に至急大臣を集めよと命じた。
頭を下げて出て行った側近が戻ってくるときには、大臣たちは勢ぞろいして、先ほどひれ伏していた者たちの場所に集まっていた。
ただし彼らは商人とは違い、片足で跪く姿勢を見せている。
ここまではいつものことであったが、今日はいつものように、それぞれが順に挨拶の口上を述べ頭を上げる許可を得る時間は与えられなかった。
先に玉座から男が言ったからだ。
「アウストゥールに迎えを送れ。全員を連れ戻せ。以上だ」
男が玉座から立ち上がると、音で気付いた大臣の一人が急いで顔を上げ、男に問い掛ける。
大臣の中では最も高齢の男だった。
「ぜ、全員とは?」
「そなたはまだそんなことも聞かねば分からぬのか?私と妃の子、全員に決まっておる」
「それはまさか……厄災の……」
「全員と言った。次はない」
大臣らは命令通り、それから男に何も問うことはなかった。
大臣らが焦り始めたのは、男が奥へと消えたあと。
皆が一様に青い顔をして目を合わせたのち、その場に残った側近に事情を問い質していく。
「アウストゥールの国王夫妻の絵姿をご覧になりましてございます。その絵姿が──」
大臣らは青い顔のまま城内で部屋を移動して、それから長く対応を話し合った。
その話し合いの間、それぞれの顔付きは、面白いほどに一致していなかったが、長く平和に過ごしてきた国の重鎮たちは、はたしてそれに気が付いていたかどうか──。
「どのような手を使っても、全員を連れ戻さねばならん」
いくら話し合っても、その結論だけは変わらず。
大臣らには終わりの見えない果てしなく長い夜となるのだった。
読んでくださいまして、ありがとうございます♡
更新が長く空いてしまい申し訳ありません。
一時猫が入院しておりまして不安な日々を送っておりました。
今は元気に自宅に戻ってきてくれまして、お注射や点滴が必要となりまだまだ大変なところはありますが、やっとこの日常に作者自身が慣れ始めて、本作の続きを書く余裕も出て来ました。
長くお休みしているのに引き続き本作を読んでくださいます皆様には感謝しかありません。
この先もどうか楽しんでいただけますようにと願いながら、続きを書いてまいります♡




