2.読めない王子王女
その場の空気を読み取らないのは、サヘラン王国の王族の習性だろうか。
ゼインを真直ぐに見据えてきた王子は、その恐ろしい形相を確かに受け止めているはずなのに。
恐れ知らずか、それとも王子こそが恐ろしい人間なのか。
「やぁやぁ遠路はるばるやって来てしまったよ。いやぁ分かっていたことだが、馬車での長旅は想像以上に大変だったね」
王子はこの場にとても似つかわしくない様子でふんわりと柔らかく微笑むと、勝手に話しはじめた。
一国の王相手によろしいかと聞くこともないその姿勢には、重臣らはなお激怒する。
一方でゼインは自身が軽んじられたことについてはさほど気にしておらず。
──敵城でいい度胸だ。
今や目のまえの男に対し、妙な関心を覚えているのだった。
これはゼインが王子を完全に敵認定したという目安となる。
戦に意識を置けば、いつでも将として冷静さを保つことが出来る、ゼインはそういう男だった。
だから隅々まで相手を観察するようなこともはじめている。
あの日同じこの場所で初対面となるフロスティーンにそうしたように。
──嫌味なほど着飾った男だ。頭に首に手首にとじゃらじゃらと。動きの邪魔になりそうだが、あれも刹那の武器にはなるか。ふむ。髪も目もフロスティーンとは違うが顔は……似ているな。くそっ。
さてゼインが本当に戦中と同じところに意識を置けていたかどうか、それは疑問視せねばなるまい。
何せゼインの胸には、こんなときにも後悔の念が大波となり寄せていた。
あのときフロスティーンがいかに立派な挨拶をしてくれていたか。
事情はあったとはいえ、そんなフロスティーンに対しゼイン含めアウストゥール側のあの非礼な態度。
ゼインの中に元々あった後悔の念が目のまえの王子を起因に膨れ上がる。
悔しさに拳を握れば、王子の明るい声はより忌々しくゼインの耳に触った。
「だがこうして苦労を乗り越え、やっと会うことが出来たと思えば。疲れも空の彼方へとたちまちに吹き飛んでしまった」
──疲れと共に飛んで行き、星屑になればいい。
とあまりなことを考えていたのは、ゼインだけではない。
謁見の間に詰める多くの者が射殺さんとばかりの厳しい視線で王子を睨みつけている最中。
王子は堂々名乗った。
「私はサヘラン王国の第一王子ヘイルストーンだ。隣は妹の第一王女グレイシアだよ。これから末永くよろしく頼むね、義弟殿」
最後の言葉に場が騒めいたその一瞬。
──何だ?
ゼインは何かが気に掛かった。
その何かが特定出来ず、より険しい顔をして王子の顔を見詰めてしまう。
変わらずにっこりと微笑む王子がそこにいた。
違和を覚えていたのも、ゼイン一人ではない。
ある重臣は、塵一つ見逃さまいとして、王子の言動を具に観察していく。
しかしここで、もう一人の観察対象が動いたことにより、ゼインとこの重臣の視線の先は分かれた。
「あら?妹はおりませんの?」
謁見の間を時間が止まったような静寂が支配する。
しかし実際それは、形あれば小指の先程の短い時間のことだった。
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