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厄災の王女の結婚~今さら戻って来いと言われましても~  作者: 春風由実
幕間

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0-2.天上国の王と王妃


「この身体は、天上国の王妃として失格でしょうか?」


 菓子の感想でも出て来るかと思いきや。

 予期など出来るはずもない妃からの返答に、ゼインの笑いはいよいよ止まらなくなってしまう。


 フロスティーンは揺れるゼインの身体に身を預けたまま、ゼインの見えないところでほんの僅かに眉を下げた。



 ──天上国の皆さまの一員になろうというのだもの、簡単なことではないわ。それもゼインさまの妃なのよ?道のりは遠くて当然。頑張りましょう!



 一室からはじまった天上世界は、いつから一国の規模となったのだろうか。



「フロスティーンは俺の王妃だ。もう失格になることはない。だがそうだな、もう少し肥えてくれたら、俺が安心出来る──」



 ──きゃっ。くすぐったいわ。これは……あれよ!



「これが天上国の挨拶ですね?」



 ──読んでいた通りだわ!ついに親密な挨拶をしたのよ!天上国の方と親密になれただなんて。ふふ。うふふ。こんなにくすぐったいだなんて、どこにも書いていなかったわね。ふふっ。湯浴みのときと一緒だわ。



「どこで学んだかも、その内容も気になるが。それは違うぞ、フロスティーン。少し足りない」


「……足りない?」


「これは天上国の夫婦の挨拶だ」


「夫婦の挨拶」


「あぁ、だからこれをするのは俺とだけだ。他の者とは絶対にするな?いいな?」


「はい」



 嬉しそうにはとても聴こえないが。

 返事をするフロスティーンの様子から確かな喜びを感じ取ったゼインは、勝手に許諾を得た気になって、目のまえの首筋に顔を埋めると、すでに妃となった王女を存分に味わっていく。


 もう二人は婚姻しているのだ。

 いっそ今夜はこのまま……とゼインが一方的に誘惑されていたところに。


「ゼインさま。視察に行けるとお聞きしました」


 酷く冷静な声は問い掛けた。

 それがまた、ゼインの耳には何故かここ最近で一番嬉しそうな声として届いたものだから。


「なんだと?」


 ついゼインからいつもより低めの声が出る。


「……違ったでしょうか?」


 ゼインは戦場に長く身を置き過ぎたのかもしれない。

 得たばかりの妃を少しも傷付けたくなかったゼインは、焦るあまり全力で妃の言葉を否定した。


「いや、違わないぞ、フロスティーン。落ち着いたら少しずつ国を回ろうとは考えていたんだ。もちろんフロスティーンも連れて行く」


「はい。ご一緒します」


「で?誰に聞いたんだ?」


「はい。ヒース卿が教えてくださいました」


「ほぅ。そうか。あいつか」


 フロスティーンには告げ口という意識がない。

 だからゼインには何を聞かれたって答えてしまう。


 ここに来た当初は、異国の王女として尋問を越えた拷問を受けることになるのでは、とまで考えていたフロスティーンであったが、そもそもその必要はない王女であった。


 人付き合いの経験が圧倒的に足りず、王女の前に人として欠けだらけで丸く育つことのなかった王女。

 というのは、ゼインが短い付き合いの間にフロスティーンに持った評価だ。


 しかしそんなフロスティーンは、人間を学びたいという欲も強かった。

 いや、むしろ孤独な育ちだからこそ、より人を知りたいと願うのかもしれない。


 そしてフロスティーンは知り得たものを吸収する力も凄かった。

 それも今まで常に足りず枯渇していたからこそ、水のようにあっという間にその身にしみ込んでいくのかもしれない。


 ゼインが日々驚かされる速さで成長していくフロスティーンは、もうアウストゥール王国にやって来た頃の痩せ細ったあの王女とは重ならなかった。


 ゼインの声色から不穏なものを感じ取ったのだろうか。

 その顔を見たいと望むようにフロスティーンはゼインの膝上で振り返ろうとしていたが、それはより腕に力を込めたゼインによって阻止されてしまった。


 おかげで妃の瞼がとろりと落ちていく様をゼインは見られない。


「ゼインさまは温かいです」


「天上国の王さまらしいだろう?」


「はい。あの、ゼインさま。教えていただきたいことがあるのですが」


「ん。なんでも言ってみろ」


「私も天上国の王妃になりましたので、温かい人になりたいのです。どうしたらいいでしょう?」


「ははっ。もう温かいぞ、フロスティーン」


「もう温かい……私がですか?」


「そうだとも。フロスティーンはすでに俺の王妃だからな。これからはずっと温かいままになる」


「凄いわ。ゼインさまの妃になると温かくなるのね」


「そうだとも。俺は凄いんだ」


 こうしてフロスティーンは、夜な夜な妙な知識を蓄えていくことになった。

 妙な女を喜ぶ男に嫁いだことが、フロスティーンにとっては運の尽きか、それともこれは幸運のはじまりに過ぎないのか──?



 温もりに身を委ねていたら、とうとう瞼が落ち切ったフロスティーン。

 その瞼の裏に不意に懐かしい日々を見せられた。


 けれどもそれはとても不鮮明なものだったのだ。



 ──ふふっ。あの頃は天上国の王妃になる日がくるなんて考えたこともなかったわ。もうあの頃の暮らしも思い出せなくなってきているみたい。ゼインさまにお知らせするのも難しくなってしまったわ。



 フロスティーンの中に、まだ残るサヘランの日々。


 そこに、その人らは存在していない。



 ──国を出てからお会いする。不思議なこともあるものだわ。




 ──どんな方たちなのかしら?






読んでくださいましてありがとうございます♡

次回から二章スタートです♡

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