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34 番外編 ~ハロウィン・ナイト 後編 (リアを探して・イーサン視点)~

 リアと王都へハロウィンの夜を楽しもうと約束して、部屋を訪ねると返事がないので不審に思って部屋に入ると誰もいなかった。


「リア? リアが居ない! 何があった?! リア、何処だ?」


 クローゼットや寝台の下まで探す。


 使用人達も一緒に探してくれる。窓辺のお菓子が無くなっていたのに執事が気づいてくれた。


「若旦那様。ハロウィンのお菓子が無くなっております。もしや……、妖精の仕業かもしれません」


 そのときくすくすと笑い声が部屋に響いた。


「この光の光跡は妖精か……。厄介だな」


 くすくすと笑い声がする何も見えない空中に剣を向けると何もないのに悲鳴が上がった。


「何かいるな」


『何かいるじゃないよ! 妖精様だぞ。これだから人間ってやつは! 僕達は鉄が嫌いなんだ。やめろよ』


 剣を向けたところから小さな光のような妖精が現れた。


「リアをどこにやった? 教えないともっと嫌いな鉄をくれてやるぞ!」


『せっかちだな。美味しいお菓子くれるなら連れていってあげても良いよ。僕はあいつらとは違うからね』


 メイドに頼んで今日のデザートを運ばせる。


「これでどうだ?」


『ホールケーキ! 生クリーム一杯だ! いいよ! 扉を開けてあげる』


 部屋の床に光るきのこの円環が現れた。


「ダメもとで行ってみるか」


「若旦那様!」


 執事が心配げに叫んだ。


「大丈夫だ。リアを連れて必ず戻ってくるよ。これ以上、妖精が悪戯しないように美味しいお菓子を用意しておいてくれ」


 光と影に包まれて浮遊感を感じる。そうして目を開けるとドラゴンに巻き付かれた塔の前だった。


『誰か来た』


『嫌。鉄の匂いがする。あっち行けよ』


『あの子を連れ戻しに来たのかも』


 光る小さな妖精達が塔へ行く道を阻んできた。


「するとここにリアがいるのか? ドラゴンをどうにかしろと言う訳だな」


『ドラゴンに勝てたら帰してあげるよ。無理だろうけど』


『人間がドラゴンに勝てる訳がないじゃない!』


 クスクスと笑う妖精達。


 ドラゴンが威嚇するように咆哮した。


「勝てるかどうかじゃなく、勝つんだよ!」


 僕は手に愛剣を掲げた。


 夜の王都だから念のためにと下げてきて良かった。馴染んだ剣を手に持つとドラゴンの前でも落ちついてきた。


 ――ドラゴンなんて大きな蜥蜴と思えばいい。


 すると不思議なことに抜き放った剣が輝きだした。


「ドラゴンが守る塔に囚われるとか、どこかの三文小説みたいだな。いくぞ!」


 僕は走り出して、勢いのまま塔に巻き付く胴体に切りつけた。


 ドラゴンの不吉な雄叫びが周囲に響いた。


『まさか、人間のくせにドラゴンを見て怯まないなんて!』


『生意気な人間なんて、やっちゃえ!」


 炎を吐き出すドラゴンのブレスを吹き出すタイミングや向きを咄嗟に確認しながらギリギリ躱していく。


「リア! 何処だ? 聞こえるなら返事をしてくれ! 無事なのか?」


 そのとき最上階の窓のカーテンが揺れた。


「リア!」


 声を限りに叫んだ。


「誰?」


 窓から顔を出したのは薄い紫の妖精のようなミニドレスを纏ったリアだった。


「リア、凄く似合ってる……」


「騎士様?」


 暫しお互い見合ってしまった。そこにドラゴンのブレスが襲う。


「きゃあぁぁ。危ない! 騎士様!」


 ――辛うじて避けることができたけれど騎士様ってなんだ?


『騎士様! お助けいたします』


 リアがそう言って窓からカボチャのランタンを次々にドラゴンに投げつけていた。


 ゴンゴンという音がしてドラゴンの頭や目に当たる。


 きゅううぅぅとまるで赤ちゃんのような唸り声を上げてドラゴンが塔から離れて飛んでいった。


『あーあ、折角ドラゴンに守ってもらっていたのに』


「リアを返してもらうぞ!」


『ふん。もう遅いよ。彼女はあなたのことなんて忘れているもの』


『そうそう、あたしにもこのお洋服を作ってくれたの。優しいね』


「リアは優しいし、可愛い。いや、そんなことよりも、リア、待ってて!」


 僕は塔の扉を蹴破って階段を駆け上った。最上階の部屋ではリアがカボチャのランタンを抱えて立っていた。


 妖精のようなコスチュームで淡い紫で薄い透ける生地を重ねたドレスは大胆にも膝から下は素足だった。


 こんなときだけど思わず言葉を失って見惚れてしまっていた。


「リア、その恰好……」


 思わず口元に手を当てた。


 ――それは良く似合っているけど僕が用意したドレスじゃないぞ。


 リアは不思議そうな顔をして僕を眺めていた。まるで僕を初めて見るみたいに。


「騎士様は私のことをご存じなのですね?」


『お菓子を食べると嫌なことを忘れるんだよ!』


 ケケケと面白そうに妖精が叫びながら宙を舞っている。


「騎士様って、僕のこと? それに、嫌なことを忘れるって……、僕を?」


 リアはきょとんとして僕をただ見つめ返していた。


 クスクス笑う妖精達は本当に質が悪い。


 僕はリアに手を差し出した。


「君が忘れても僕は忘れない。さあ、帰ろう。僕達の家に」


 ――差し出した手を拒むなら無理やりでも連れて帰ろう。


 記憶が無くてもドラゴンに果敢に戦いを挑んだのだ。嫌われてなんていない。


「僕達の家?」


 超絶可愛いリアが小首を傾げたので彼女の指先が手に触れるや否や自分の腕に引き寄せて思いっきり抱き締めた。リアの匂いがする。やっと安堵の息をついた。


「……そう、僕達のね」


 耳元で囁くと、きゃとか可愛くリアが叫んで藻掻いていたけどそのまま腕の中で閉じ込めておいた。


『ちぇ、折角可愛い子がきてくれたのにねー』


『ねー』


「早く僕達を元の世界に帰せ。ハロウィンの祭りが終わってしまうじゃないか」


 ――いや、このまま二人でずっとここでいてもいいか。


 腕の中のリアは大人しくしていた。普段なら恥ずかしいと逃げ出しているのに。


『あーあ、楽しかったのに』


「約束は守れよ。ドラゴンはいなくなっただろ」


 ――ドラゴンを無事撃退したけど、どうなんだ? 弱すぎるだろ。


『はいはい。じゃあ、仕方ない。急だったから、赤ちゃんしか雇えなかったしね』


 ……あれで赤ちゃんドラゴンか……。


『またね。リア、そっちのお兄さんも』


「もう結構だ。妖精の悪戯は二度とごめんだな」


 クスクスと笑いが響くと床に光るキノコの円環ができていた。


 視界が光で覆われて、次いで暗転した。




 そして、気がつけばリアの部屋だった。まるで何も無かったかのような様子だった。


「ここは……」


 不安そうなリアの声にそう言えば記憶が無いとか言っていたなと思い出した。


 全部を忘れている訳じゃないし。ゆっくり教えていけばいい。


「目覚めるには騎士の……。まあ、いいか」


 そっと無事を確かめるようにリアの唇に……。すると、


「あれっ。イーサンどうして? きゃあぁぁ。私の服がどうしてこんなに短いのっ」


 今度は妖精に攫われていた間の記憶が無くなったのかもしれない。


「さあ、どうしてだろうね。それも良く似合うけど。やっぱり僕と一緒に選んだ方にしようね」


 いつの間にか寝台に置かれていたリアの本来着るはずだったドレスを手に取る。


「あれ、確か着ていたのに……」


「早く着替えて街に繰り出そう」


 外の様子から妖精の世界に行った時間は無かったようだった。


「やれやれ、妖精はお騒がせだな。お菓子は切らさないようにしておかないと」


 ドレスに着替えたリアと今度こそお祭り騒ぎの王都のハロウィンパーティに繰り出した。



 番外編 ~ハロウィン・ナイト~


 了

いつもお立ち寄りいただきありがとうございます。

執筆の励みになります。

それでは良いハロウィンの週末を!

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