第二十二話 『転生』
私は軽く頭を振り、ラトナ様に言う。
「しかしラトナ様。あなたもひどいお方だ。さっきの妻の話だと、あの二人は私がかつていた世界へ転世したようじゃないですか」
「しゃーないやろ。あんたの嫁はんが言うとったように、あの世界は今ピンチなんやから。聖地を守護する一族がみんな死んでもうて、生き残っとるんはこの世界に転世したあんたと、あんたの血を継ぐ中二病の息子だけや。せやけどあんたはあの世界を否定して、二度と戻らんという誓いを自分との間に立ててこの世界に転世したやろ。せやから息子をあっちへ送るしかなかったんや」
「もしかして、三年前に妻をあの世界へ転世させたのは、息子を転世させるためだったのですか?」
「そういうこっちゃ。ちょっとしたサービスやな。誰も協力者がおらん世界に一人でいきなり放り込むんも酷やろ。それに嫁はんも長いこと異世界での冒険を望んどったみたいやしな。転世するかって聞いたら喜んで飛びつきよったわ」
「そういうことだったのですね。ところでなぜ、妻は十代の姿をしているのでしょうか」
「ああ、あれな。あれは自分の趣味や。若い娘のほうがなにかと絵になる思てな」
「あいかわらず、やりたい放題なんですね」
「というのは冗談で、本人が言うとったやろ。聖剣ドラマツルギーを創りだすために嫁はんの魂が半分ちょい必要やってん。せやからあの姿になったんや。あれがないとこっちの世界とあっちの世界を行き来できんからな。ちなみに在りし日の制服姿なんは、そこはほんまに自分の趣味や。自分、セーラー服属性あるからな」
「やっぱり、やりたい放題じゃないですか」
「ええやないか。その性格のおかげであんたはこの世界に転世できたんやし」
そうですね、と私はうなずく。
この方の遊び心と気まぐれのおかげで、私はこの世界に転世できたのだから。
「それにな、自分はちゃんとやるべきことはやっとんで。さっきのこともそうや。あの嵐の中を、あんたと息子に激突する寸前に、見事なハンドルさばきでよけたったやろ。自分のドライビングテクニックもたいしたもんや思わんか」
「やはりあのトラックはラトナ様が運転していたんですね。どうりでタイミングが良すぎると思いましたよ」
「あんたんところへ行くゆうことも、息子が転世するかもしれんということも事前に伝えたったしな」
そう。
今日の夕方頃に、ラトナ様からその旨を伝える電話があった。
そして、それからほどなくして雲行きが怪しくなり、夜になると嵐が始まった。
転世の時が近づくと、なぜか決まって嵐が訪れる。
まるで、異なる世界を結ぶ道ができたことをし知らせるかのように。
「今日、ラトナ様からそのことを教えられてから、気が気でなりませんでしたよ」
「今日やない、昨日や。もう明日が今日になっとんのや」
そうでしたか、と私は夜空を見上げる。
「…………あの二人は、本当に大丈夫なのでしょうか」
「さあなぁ。まあでも、ぼちぼちやるやろ。二人とも見込みはあるし、素質もある。何より息子はあんたの血を継いどるんや。うまいことやれるわ」
「そういえば、妻は血のことも言ってましたが、あれはどういうことなんですか?」
「あれなぁ、まあ、半分だましたみたいになってしもたな」
「だました?」
「自分はあっちの世界で嫁はんに、聖地を守護するためには転世者の血を継ぐ者が必要やって教えたんや。あんたも転世者であることに間違いはないから、うそは言うてへんやろ。そのことを嫁はんは自分の血を継いどるもんのことやと解釈したっちゅうこっちゃ。ほんまに必要なんは、聖地を守護する一族の血を継ぐ者やけどな」
「そうですか……。ラトナ様は、私が転世者であることを妻に隠してくださったんですね」
「これでも自分はそこそこ義理堅いからな。せやけど、あんたの嫁はん大丈夫なんか? あの人普段はまともやけど、ファンタジー要素がからむと急におかしなんねんけど」
「大丈夫ですよ」
たぶん、と私は心の中でつぶやく。
「しかし不思議なものですね。私が理想を求めた結果、私の理想は失われ、かわって妻と息子の理想が叶ってしまったのですから。そして、本来なら私が果たすべき使命であった聖地の守護という一族の役割をあの二人が担い、逆に私はあの二人が生きるはずのこの世界で生きている……。運命とは、なんともおかしなものですよ」
「あんたのわがままの尻ぬぐいを嫁と息子が喜々としてやっとる、とも言えるけどな」
「それを言われると辛いですね。しかし私には、もうどうすることもできません。私はもう、あの世界には行けないのですから」
「たしかに、転世はできんなあ」
せやけど、とラトナ様は続ける。
「『転生』ならできるで」
次回で最終回です。




