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第二十一話 『神様』

 足音が止まった方向から、妙に明るい調子の少女の声が聞こえた。


「いやいやいや、結局止められんかったなぁ、二人があっちの世界行ってまうんを」


 私は深くため息をつき、声のした方へ振り向く。


 そこには、妻と同じセーラー服を着た少女が建っていた。

 その瞳の色は金色で、淡い栗色のショートヘアは鳥の羽のように毛先が外側へはねている。


「私が理想を求める意思よりも、あの二人が理想を求める意思のほうが勝っていた。それだけのことですよ、ラトナ様」

「そーいうもんかねえ。せやけどあんた、なんで自分が異世界からこの世界に転世したっちゅうことを言わんかったんや? それ言うとったら流れ変わったかもしれへんのに」

「ラトナ様もご存じのとおり、私は平凡で平穏な日々を求めて転世したんですよ。そんな私が異世界からの転世者であることを明かしてしまったら、それこそ私の理想は永遠に失われてしまいます」

「平凡で平穏な日々て。言うたら悪いけど、それもう手遅れやろ。結局あの二人は異世界に行ってもうたんやから。もうあんたらの日常には異世界要素が食い込んでもうとんで」

「大切なのは、あの二人が私をこの世界の人間であると信じていることなのですよ。それに私は妻にうそをつきました。彼女と初めて出会った時、私は施設を脱走してきた孤児であると言ったのです。生まれてすぐに捨てられたから、生まれた場所も親もまったくわからないとも言いました。彼女はその話を信じ、そのうえで私を受け入れてくれたのです。だから私は、このうそを守り続けなければならない。妻の真心を傷つけないためにも、転世者であることは隠さなければいけないのですよ」

「まあ、どのみちそう言うしかないわな。剣と魔法のファンタジーな世界が嫌で、平凡で平穏な日々を求めてこの世界に転世しましたなんて言うたら、そらもうただのヤバい奴や。ケーサツ呼ばれるんがオチやろな」

「そうですね。でも彼女は昔から、そういうヤバい奴を求めていたんですよ」

 なつかしさのあまり、私は小さく笑った。


 彼女と初めて出会った時のことは、今でも昨日のことのように思い出せる。

 非日常を求めて夜の街をさまよっていた彼女の前に、私はなかば行き倒れるようにして現れたのだ。


 そんな私を見て、彼女は言った。


 もしかして、あなたは異世界からやって来たの?


 その時の彼女の瞳はとても純粋に輝いていて、ただまっすぐに真実のみを求めていた。


 しかし私はうそをついた。

 私は私の理想を求め、それまでいた世界を捨てて転世したのだから。

 ここでそれを失うわけにはいかないと思ったのだ。

 しかし結局のところ、私は私の理想のために、彼女の理想を否定してしまったのだ。


 そう。


 最初に理想を否定したのは、私だったのだ。


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