19.
-手術1日前-
「兄貴…やっぱり怖いよ」
「そうだな…だけど兄貴がついてるから。大丈夫だよ」僕はそう言って悠くんの頭をなでてあげた。
「うん…」
「あっ悠くんちょっと待っててね。お見舞いに来たいっていう人が居るからさ…」
「うん…誰?」
「お楽しみ~な?待ってな」
僕は病室に、ある人を呼んだ。
それは…
「悠斗、久しぶりだな…ごめんね、ずっと来れなくて」
「えっ…嘘…星波?」
そう。星波くん…
手術だ。って言ったら飛んで来てくれて…
「兄貴は外出とくよ」
僕は2人の邪魔にならないように、病室の外に出た。
<悠斗side>
星波に会うのは本当二年ぶり?
スーツ姿で大人びて…
「何だよ…お前大人じゃん」
「高校卒業してすぐに仕事決まってさ…今はニューヨークに住んでるんだぜ」
そうだよな…
高校卒業か…
僕はふと自分の状況とで劣等感を覚えたが、『仕方ない』そう思うことにした…
「ニューヨークか…凄いな。ってか彼女とか居るのか?」
「居ないよ。あっベッド起こそうか?」
その気遣いは嬉しいんだけど起こすと苦しいし…
「ごめん、起きるの辛いんだよね」
僕が笑いながら言うと、
「そうだよな…ごめん」って一気に暗いムードになってしまった…
「星波…もし僕が死んじゃったらさ…」
「えっ?」
「悲しむ人なんているのかなぁ?」
僕はこれが心配だった。
凄く凄く心配だった。
「悠斗…お前ばかだよな…悲しむに決まってんじゃん」
「……」
「泣きじゃくってわめいて…『うるさい』って言われても泣きまくるよ…当たり前だろ?」
「本当?」
「僕はな。まーお前の兄貴なんか多分やばいぜ。なにせ悠斗のこと溺愛してるからな…」
星波は、『手がつけられないよ』って笑った。
「うん。ありがとな」
僕は安心できた。
そして、安心し過ぎて泣いてしまった。
「悠斗…手術頑張れよ。絶対負けるな、死んだら許さない」
星波は、涙を目にいっぱい溜めてそう言った。
「じゃあ怖くて死ねないや」
僕はボロボロこぼしながら笑った。
<叶音side>
今日はにぃにの手術日だから、蓮くんは夜中の3時くらいに家を出て行った。
ほとんど寝てないみたいだ…
私は夏休みも終わり、学校に行かないといけないんだけど…
『行きたくないよ』
そんなことを思っていると、いつの間にか朝が来た。
私はいつもよりも早く準備を終えて、学校…じゃなくて、にぃにと蓮くんの居る、病院に向かった。
「ねぇ青葉さん、蓮くんは?」
「叶音ちゃん!?先生今忙しいからさ…」
青葉さんは、少し困ったように言った。
「ねぇ蓮くんは?どこに居るの?」
私のしつこい問いに、青葉さんは『仕方ないな…』って感じで笑って、
「悠斗くんの病室。一緒行こうか」そう言ってくれた。
にぃにの病室に向かっていると、中から蓮くんが、慌ただしく出て来た。
「先生!どうされたんですか?」
「ううん。悠くんが寒いって言ったから毛布をって思ってね…」
蓮くんは足早に去っていった。
私には気づいて居ないみたいだ…
毛布を持って、病室に入ろうとする蓮くんの白衣の裾を、私は引っ張った。
「えっ…叶ちゃん?どうしたの?」
蓮くんは明らかに困っていた。
だから少し投げやりで…
「今日学校行かない。ここにいる」
「どうして?具合でも悪い?」
「違うよ…だって今日にぃに手術でしょ?」
「うん…」
「にぃにのそばに居たいよ…私だって家族じゃん。にぃにの家族だよ…」
私だけ蚊帳の外なんて嫌…家族なのに…
そう言って泣いてしまった私を、蓮くんは優しく包み込んでくれた。
「ごめんな…叶ちゃんはお兄ちゃんたちの家族だよ。な?だから泣かないで…」
「私ね…今日はずっとにぃにのそばに居る!いいでしょ?」
「そうだな…悠くんも叶ちゃんがいたほうが喜ぶしな」
蓮くんは、私の涙を拭ってから病室のドアを開けた。
「兄貴…遅いよ。何で」
にぃには少し拗ねていた。そんなにぃにに、
「ごめんごめん」って蓮くんは笑いながら毛布をかけてあげていた。
「にぃにごめんね。私が蓮くんに話しかけたから…」
「叶!?何で?学校は?」
「休んじゃった。だから今日はずっと一緒だね」
私が笑うと、にぃにもつられて笑顔になった。
「兄貴、今日いつから?」
「えっと…一時から準備。それまでは何しててもいいよ」
「走っても?」
「ばかか。駄目に決まってるだろ?」
蓮くんがにぃにの頭をぐりぐりすると、にぃには
「冗談だって…今日は叶にとことん甘えるから」そう言って私の目を見つめて笑った。
「いいよ。今日は何でもしてあげる!」
「よーし。じゃあ…抱きしめてよ。にぃにのことぎゅーって」
「うん!」私がにぃにを抱きしめると、蓮くんは
「バカップルめ…お邪魔虫は退散しますよ~」
そう言って笑いながら病室を出て行った。
<蓮side>
「悠斗くん手術大丈夫そうですか?」
「あぁ。叶ちゃんが来て凄い元気になってさ…さっきまであんなに辛そうだったのに…ね?」
僕が青葉くんに同意を求めると、
「えぇ…確かに」そう言って笑った。
「何で笑うのさ…なに?僕じゃいけないって言うのか?」
「そうじゃありませんよ。でも妹の力って凄いですよね…」
「まぁな」
僕は少し叶ちゃんに嫉妬しながらも、『良かった』ってホットした。
12時になったから、お昼ご飯を届けようと、悠くんの病室を訪ねた。
「叶ちゃん、悠くん。ご飯食べる?」
「いる~」「いらない」
まぁ予想通り、叶ちゃんはいるけど、悠くんはいらないって…
「買ってきたお弁当でごめんな。作る時間なくて…」
「ううん。蓮くんありがと」
そんな天使の笑顔見せられて…もうメロメロだよ。
「じゃあ悠くん、時間になったら迎えにくるから…あんまりはしゃぎすぎんなよ?」
「はーい」
僕は少し顔色も良くなってきたといえる悠くんの笑顔に安心しながら、病室を去った。
唯一スマホの使える中庭に行って、スマホを開いた。
すると、かなりの数のメールが届いていて、「何事か?」と思ったが、それは全て星波くんからだった。
内容は悠くんを心配するもので…
悠くんは幸せものだね…
僕は星波くんに、『手術が終わったらまた連絡するね。ありがとう』
そう打って、スマホを閉じた。
院内に戻ってデスクワークをしていると、ナースコールが押された。
それは悠くんの病室からで…
「悠くん!?待ってすぐ行く」
僕は全力で病室に向かった。
ドアを開けるとそこには、
叶ちゃんにもたれかかったまま咳き込んでいて苦しそうな悠くんと、そんな悠くんの背中をさすっている叶ちゃんの姿があった。
「叶ちゃん、ありがとな…悠く~ん、ゆっくり息しようなぁ…大丈夫だから」
叶ちゃんと場所を入れ替えるようにして悠くんの背中をさすった。
「ごめん…兄貴」
僕は悠くんをベッドに寝かせて、頭を優しくなでた。
「まだ少し時間あるからな、寝とこうか」
「う…ん。はぁはぁ」
「ちょっと息しにくいかな…マスクつけとこうか」
悠くんにマスクをつけて、ポンポンとしてあげると、悠くんは夢の世界に入っていった。
「蓮くん…」
「か~なちゃん。悠くん大丈夫だから。な?僕らで支えてあげような」
「うん!」叶ちゃんは安心したように笑った。
<悠斗side>
「悠くん、起きようか」肩をトントンと叩かれた。
「ん…」
いつの間にかマスクは外されていて、息は幾分か楽だった。
「準備しようか…別の部屋連れて行くよ」
「お兄ちゃん…怖い」
本音が漏れていた。
「悠くん、大丈夫だよ。青葉くんはちゃんとやってくれるからな…あとは悠くんの気持ち次第」
「兄貴…」
「悠くんは生きたいよな?だから大丈夫。な?安心してよ…」
兄貴は涙を我慢していた。
「うん。僕は信じるよ…兄貴も青葉先生も。そして僕自身も」
「ありがと…一緒に頑張ろうな」
兄貴は僕の手をずっと握っていてくれた。
「じゃあ睡眠薬入れるね…名前は?」
青葉先生が僕にそう聞いた。
「坂本悠斗です。先生、信じてるから」
「うん。ありがとな…じゃあ数を数えようか」そう言われたから、僕は数を数えた。
「いーち。にー。さーん。よーん。ごー。ろーく……な…な。は……」
どんどんろれつが回らなくなって…
僕は深い深い眠りについた。




