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第1話


いつからか、この世界には病気が蔓延した。

テレビは毎日同じことを報道する。

『大変残念なことに、救いの見込みはありません』

国規模じゃない、これは世界規模で起きた病気の大量発生。

今はもう、どこの国へ逃げても発病者はいる。

つまり、逃げ場はないのだ。

「おはよう、皆」

「おっはよーございます!!」

「……おはよう」

「ははっ、相変わらず、陽斗(はると)は元気だなー。裕也(ゆうや)もおはよう」

「おはよー(そう)。俺と杜希(とき)もいるよ」

「おはよう、(しゅん)に杜希」

おはよう、僕の大切な友達(かぞく)達。

一番年上なのが僕、想。それから次に俊。僕らはこのメンバーの中では兄的立ち位置にいる。それで、その下は杜希。杜希は場の空気を読むのに優れているから、とても頼りになる人だ。それから、その下に裕也。一番下は陽斗。この二人はこのメンバーの弟的立ち位置だ。

彼らは両親を亡くして一人で暮らしている僕にとって家族のようなもの。

皆が今日もにっこりと笑っていつもの公園にいる。

それだけで今日も僕は安心した。

「皆元気? 変な病気とか拾ってないよね」

「ダイジョウブです!! 超元気!」

「当たり前だろ、俺らがなるわけないじゃん」

「えー、でも他人事じゃないよ」

「そうだよ。この街にも発病者たくさん出てるし」

「……僕のお隣さんもこの前あの病気で亡くなった」

「え、マジかよ」

「裕也んちお隣さんって誰だっけ?」

「ほら、あのネチネチおばさん」

「あ、あの嫌味たっぷりの!」

「……いなくなっちゃうと、寂しいなあ」

「でも、元からいい歳だったよね」

一瞬皆が沈黙する。

それから、僕は皆の顔を見て明るく切り出した。

「僕達も気をつけようね」

「そそ、体調管理はしっかりしようね」

「じゃあじゃあ、俊にーちゃん健康的でおいしーご飯作ってください!!」

「いいぞー、なんでも作っちゃうぜ!」

「やったあ! 俊の料理美味いもんなー」

「……僕レタス食べたい」

「レタスは料理じゃないよ、裕也」

にこにこしながら杜希が裕也の頭を撫でる。

それにつられて、僕も隣の陽斗の頭を撫でた。

「……にしても、今日めっちゃ暑いねー」

「溶けまっすー!!」

「陽斗って割と存在が暑いよね」

「ありがとーございまっす!!」

「褒められてないよ!?」

「陽斗は可愛いなぁ〜」

お決まりのやり取りをして、僕らは顔を見合わせて笑った。

「あ、そうだ。家にアイスあるし、家来ない? 皆でアイス食べよ」

「アイスー!! 食べたーい!!」

「食べる」

「氷系?」

「色々あるよ」

「俺二個くらいいけそう」

「一日一個だからね!」

「ちぇー」

「想にーちゃんっち行こー!! アイス、アイス!」

先頭を陽斗が走って、慌てて僕はその隣に並んだ。

ああもう、陽斗はそそっかしいな。僕が少し笑って陽斗を見ると、陽斗は僕の視線に気がついてにっこりと笑った。

「想、想ってアイス何味が好き?」

肩をとんとんと叩かれて振り向くと、楽しそうな顔をした俊が歩調を少し早めて僕の隣に来る。

「グレープ、かなあ」

「やっぱ? 昔から好きだよね、ブドウ」

「美味いじゃん。お前はあれだろ、オレンジ」

「当たり前だろ!」

それから俊は少し考えるような仕草をして、「うーん、今度作ってこようかな」と漏らした。

「マジで、アイス作れんの?」

「頑張れば作れるよ。作ってきたら喜ぶか?」

「喜ぶに決まってるし!! 言ったからには今度作ってこいよ! 僕めっちゃ期待したからね!」

「おうよ、任せろ!」

そう言うと、俊は上機嫌そうに杜希にちょっかいを出し始めた。

俊って、見た目も中身も男らしい男なのに、凄い器用なんだよね。不器用な僕としては凄く羨ましい。

「……ねえ」

「うぎゃっ」

「……変な声」

「びっくりしたー、どうした裕也」

「……俊何か作んの?」

「アイス作るらしいよ!」

「良いね。楽しみ」

裕也はさりげなく一番俊の作る料理が好きだ。

僕の言葉を聞くとジッと俊を見て嬉しそうに頬を緩めていた。

「……あと、家通り過ぎてる」

「うわっ、ちょ、裕也そういうのはもう少し早く言ってよ! 陽斗! 行き過ぎ!」

「ふふふ、そんなこと言ってるけど自分の家通り過ぎる人もなかなかだよ」

「杜希うるさい」

「おっじゃましまーす!!」

あっという間に僕の家に辿り着いた。

家を通り過ぎてしまったのは、僕がぼおっとしているからではなく、この四人といると楽しすぎて周りが見えなくなるんだよ。

……なんて素直に言ったところで、笑われるだけだろう。それに、僕も確かにぼんやりしてたし。

僕は苦笑を浮かべて家の中へ入った。

「やっぱり想の家って落ち着くなあ」

後から入ってきた杜希が、大きく伸びをしながら呟いた。

「そう?」

「うん、落ち着くよ。よく考えると、僕らいっつも想の家ばっかり行ってたもんね」

「ああ、確かに」

「……なんか、ここが僕らの、このメンバーの家みたいだね」

「僕にとっては皆が家族だしな」

「ふふ、僕もそうだよ」

杜希はそう言って、優しい目をした。

「……ねえ、想。僕らの出会いって覚えてる?」

「何だっけ、確か僕が皆を見つけたんだよね?」

「うん。僕はまだその時高校生で、想は新社会人一年目だった」

「ああ、それってあの日か。僕の父親が死んだ日。その日僕は死のうとか考えてた」

「うん、そう」

懐かしい。

僕はあの日、皆に出会えなかったら死んでいた。

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