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第四話



「杜希……」

病院に行くと、杜希は苦しそうに顔を歪めて胸を押さえ込んで蹲っていた。

「苦しい?」

僕が来たのに気がついた杜来は、苦しいのを一生懸命に我慢して僕に笑顔を向けた。

「大丈夫、大丈夫だよ想」

もう、誰も大丈夫じゃないのはわかっているのに。

僕は杜来の呼吸が落ち着くまで背中を擦っていた。

「想、ありがとう」

「ごめんな、これくらいしかしてやれることなくて」

「ううん、ありがとうね」

杜希は少し寂しそうにお礼を言った。

「僕さ、多分もう長くない」

「…………うん」

「少しだけ我儘言っても良い?」

杜希は胸を押さえて僕の目を真っ直ぐに見つめ、子供っぽく笑ってみせた。

「僕が死ぬときは、笑ってね」

……本当に、無理難題を言う。


@


今日は想と入れ違いで病院を訪れた。

想は顔色が悪かった。……あいつも本当は辛いんだろうに、きっとまた杜希に心配かけないように無理してる。

「想、無理すんなよ」

「お前こそな」

すれ違いざま、そんなやり取りをした。

正直、俺は想が心配だ。裕也が死んだとき、想は泣かなかった。

……無理をしている。

本当はあいつが一番泣きたかったんじゃないだろうか。裕也にかける言葉を一生懸命探して、裕也が前を向けるように悩んで……でも裕也は死んでしまった。

想は悲しみを抱え込んでいる。

それは陽斗が笑顔を望んだからなのか、裕也が生きようとしたからか、俺と杜希がいるからなのか……いや、全部なのかもな。

「馬鹿だよ、あいつは」

少しくらい、俺にもお前の抱えてるもの背負わせろよ。

皆の前で、泣けよ。

本当に、こういう時にはお兄ちゃんぶらなくても良いのに。

俺はお前の隣にいたいんだけどな。

「……頼りにならないのかな」

ふと、窓から入り込んだ風が心地よかった。

「今日はいい天気だなあ」

こんな日にシケた顔は似合わないか。こんな顔で杜希の元へ行ったら心配されてしまう。

俺は窓に映る自分に向かって笑顔を作って見せた。そうすると、少し元気が出る気がした。

「杜希、体調はどうだ」

「俊、今は落ち着いてるよ」

病室を開けると、杜希は俺を見て明るい笑顔を見せた。

……この笑顔を最後まで守れたらなあ。

想と、杜希の笑顔を見て、最後に俺が死ぬことが出来たらなあ。

俺は杜希に、ありったけの気持ちを込めて微笑んだ。

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