第四話
*
「杜希……」
病院に行くと、杜希は苦しそうに顔を歪めて胸を押さえ込んで蹲っていた。
「苦しい?」
僕が来たのに気がついた杜来は、苦しいのを一生懸命に我慢して僕に笑顔を向けた。
「大丈夫、大丈夫だよ想」
もう、誰も大丈夫じゃないのはわかっているのに。
僕は杜来の呼吸が落ち着くまで背中を擦っていた。
「想、ありがとう」
「ごめんな、これくらいしかしてやれることなくて」
「ううん、ありがとうね」
杜希は少し寂しそうにお礼を言った。
「僕さ、多分もう長くない」
「…………うん」
「少しだけ我儘言っても良い?」
杜希は胸を押さえて僕の目を真っ直ぐに見つめ、子供っぽく笑ってみせた。
「僕が死ぬときは、笑ってね」
……本当に、無理難題を言う。
@
今日は想と入れ違いで病院を訪れた。
想は顔色が悪かった。……あいつも本当は辛いんだろうに、きっとまた杜希に心配かけないように無理してる。
「想、無理すんなよ」
「お前こそな」
すれ違いざま、そんなやり取りをした。
正直、俺は想が心配だ。裕也が死んだとき、想は泣かなかった。
……無理をしている。
本当はあいつが一番泣きたかったんじゃないだろうか。裕也にかける言葉を一生懸命探して、裕也が前を向けるように悩んで……でも裕也は死んでしまった。
想は悲しみを抱え込んでいる。
それは陽斗が笑顔を望んだからなのか、裕也が生きようとしたからか、俺と杜希がいるからなのか……いや、全部なのかもな。
「馬鹿だよ、あいつは」
少しくらい、俺にもお前の抱えてるもの背負わせろよ。
皆の前で、泣けよ。
本当に、こういう時にはお兄ちゃんぶらなくても良いのに。
俺はお前の隣にいたいんだけどな。
「……頼りにならないのかな」
ふと、窓から入り込んだ風が心地よかった。
「今日はいい天気だなあ」
こんな日にシケた顔は似合わないか。こんな顔で杜希の元へ行ったら心配されてしまう。
俺は窓に映る自分に向かって笑顔を作って見せた。そうすると、少し元気が出る気がした。
「杜希、体調はどうだ」
「俊、今は落ち着いてるよ」
病室を開けると、杜希は俺を見て明るい笑顔を見せた。
……この笑顔を最後まで守れたらなあ。
想と、杜希の笑顔を見て、最後に俺が死ぬことが出来たらなあ。
俺は杜希に、ありったけの気持ちを込めて微笑んだ。