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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
盗人の顛末と碇家の人々 の巻

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八百十 志七郎、医術の法と暴力に付いて過去世に思い馳せる事

 即席の経口補水液を飲ませ、ほんの少しだけ様子が落ち着いた様に見えたので、俺は普段纏っているよりも少しだけ氣を高めると、其の子供を抱き抱えたままで四煌戌の背に跨った。


 江戸市街では武士が(みだ)りに走るのは、町民の心を乱す行為として禁じられて居る、勿論其れは騎乗でも同じ事なのだが、誰が見ても緊急だと言い切れる状況であれば其の限りでは無い。


 今回の場合倒れた子供が居り、其の手当を俺や吉八さんと柿の葉茶売りの(あん)ちゃんに、更にはこの道に見世を構える原黒げんこく屋の旦那がして、其れを見ていたこの辺で生活している者も其れなりに居た。


 なので後から調べられても危急の状況だったと証言してくれる人は幾らでも居る状況で有る。


 と成れば、四煌戌を走らせても咎めを受ける事は無い。


 恐らくはこの辺にも医者は居るだろうし、原黒屋さんに聞けば懇意にして居る者を紹介してもくれるだろう。


 けれどもその医者が(やぶ)では無いと言う保証が無い、勿論此れを真正面から言えば原黒屋の面子を潰す事にも成るし口に出す事はしないが……。


 まぁ敢えて言わずとも家に帰れば名医と断言出来る人物に伝手が有るのだから、そちらを頼る方が間違いないし、原黒屋さんも猪山藩猪河家の面子を立てると言う意味で理解してくれるだろう。


 ちなみに風邪を引くだけでも『身体の弱い子』扱いをされる猪山藩に、何故名医に伝手が有るのかと言えば……智香子姉上が錬玉術と平行して医学を学んだ師が、江戸でも有数の名医だからである。


 向こうの世界では明治維新後に成る迄医師免許なんて制度は無く、名乗った者勝ちと言ってしまえばあんまりだが……医者に認められている幾つかの特権を得る為だけに『自称医者』なんて者が割と居たと何かで読んだ覚えが有った。


 だが此方の世界の江戸では、幕府開陳の祖で有る家安公が「無免許医駄目絶対!」と言葉を残してくれたお陰で、きっちり医者には免許制度が有るのだ。


 ただ其れを得るには各地で名の通った医者に弟子入りするか、江戸と京の都の他には幾つかの大藩にだけ有る『大学』で学んだ上で、医師開業免許試験に合格しなければ成らない。


 大学とは言っても前世(まえ)の世界の様に小中高と学んで、受験して……と言う様な物では無く、元服して居て学費さえ払えるならば誰でも学べると言う点では広く門戸が開かれていると見るべきか、其れ共『世の中銭や』と嘆くべきか……。


 ちなみに小藩で有る猪山藩には当然大学は無く、其れ所か家安公の旗振りで各地に築かれた何処の大学にも、猪山藩出身者が進学した事は無い。


 何処まで行っても脳筋族の戦闘民族猪山人は、高い銭払って四六時中机に齧りつく様な学生生活を送りたいと望む者は今まで誰一人として居なかったのだ。


 一応、予定では信三郎兄上が安倍家に婿入りする前に京の都の大学に進学する予定に成っているので、火元二百五十余藩の中で唯一大学進学者の居ない藩……と言う不名誉な称号は返上出来る予定ではある……当然医学を専攻する訳では無いが。


 なお猪山藩の国許には医者は居ない、なんせ風邪を引く者すら数十年に一人居るか居ないかと言う、超健康優良児しか(・・)産まれないのが猪山と言う土地なのだ、医者なんて開業しても商売上がったりで有る。


 勿論怪我人は阿呆程出るのだが、其れだって天然の霊薬で有る『鎌鼬の軟膏』がバカスカ手に入る事も有って、薬師(くすし)にすら仕事が無いと言うのだから、もう笑うしか無いだろう。


 とは言え医者を名乗るのに免許は居るが、医療行為をするのに免許が必要だと言う訳では無いと言う辺り、前世の世界に比べたらやはり法律がガバガバだと言える。


 切り傷擦り傷何でも御座れな鎌鼬の軟膏も、ザックリ大きく切り裂かれた傷を一瞬で治す程の効果は無く、必要と有れば傷を縫う位の事はするし、骨が折れたならば正しい位置に治す所謂『骨接ぎ』の技を持つ者は居るのだ。


 この辺の治療は、猪山藩でも他所でも医者が行う事も有れば、各地の道場主や骨接ぎ名人と呼ばれる様な老人が行う事も有る。


 それに農村なんかだと医者が常駐して居る様な場所は稀で運良く旅の医者が通り掛かったりでもしなければ、病気の者が出れば自称薬師が民間療法的な治療を行う事の方が圧倒的に多い。


 この辺の事情は多くの村を抱える大藩よりも、藩都と村々が然程離れていない小藩の方が、真っ当な医者に見てもらえる可能性が高く成ると言う話で有る。


 ……まぁ医者も薬師も紹介する者が居た上で、銭も払えにゃ診て貰う事も出来ないんだがな。


 そう言う意味では此の子は運が良かったと言えるだろう、幾ら見世の前で死なれちゃ縁起が悪いと言っても、江戸で商売を始めたばかりの露天商で有る吉八さんにゃぁ、医者を紹介する伝手も診せる銭も厳しい筈だ。


 かと言って原黒屋さんが、何処の馬の骨とも知れない子供に対して身銭を切って其処までの事をするだろうか?


 見世の名を売る為の見栄として、最初の一回位は出すかも知れ無いが、完全に元気に成る迄面倒を見る理由は無いし、其処までしたならばしたでその間に掛かった費用を負債扱いにして、一生丁稚扱いで使うと言う可能性だって有るだろう。


 と言うか寧ろ商人足る者其れ位の損得勘定が出来なければ、然う然う大店を構える事なんか出来ない筈だ。


 此の子を助ける筋目の話をするならば、俺だって絶対に此の子を助け無ければ成らない筋は無い。


 けれども一度は三十路(みそじ)半ばまで生きた警察官としての俺が、目の前で倒れている子供を見捨てると言う判断を決して許さないのだ。


 まぁ智香子姉上が桂太郎を弟子兼丁稚にしたのだって似たような経緯からなのだから、掛かる費用さえ自弁すれば家の者は誰も何も言わないだろう。


 問題が有るとすれば、此の子が此処まで衰弱して居る状態に成るまで育児放棄(ネグレクト)した糞親が誘拐だ何だと騒いだ場合だが……此れだってこうして道で倒れた姿を見た者が何人も居るのだから、文句を言って来たなら其れこそ無礼討ちとして叩き切ってやる!


 此方に生まれ変わってそろそろ十年、鬼や妖怪は数えるのも馬鹿らしい程に殺したし、此方に殺意を持って刃を向ける者を斬る覚悟も出来ている、だが只単純に無礼を働いたからと弱い者を斬る事は考えても居なかった。


 しかし相手が子供を虐待する様な外道であれば、躊躇う事無く刀を振るえる……そう思う。


 俺が居た地元の暴力団(ヤクザ)は昔ながらの任侠道が生きていた、極めて稀有な土地だったが故に、直接目にする機会は無かったが、他所の土地で生きてるその手の輩の中には、自分の子や妻に平気で暴力を振るえる様な屑が少なからず居たと聞く。


 勿論、八九三者だからと言って必ずしも家庭内(ドメスティック)暴力(・バイオレンス)に手を染めると言う訳では無い。


 寧ろ端から見れば極々普通の仲の良い家族が……と言う案件(ケース)だって山程有った筈だ。


 俺が居た千薔薇木県警千戸玉署の捜査四課(マル暴)は、どちらかと言えば暴力団絡みの問題よりは海外黒社会(マフィア)の犯罪に対する捜査の方が圧倒的に多かった為に、家庭内暴力案件に関わる事は無かったが、そうした話は同期会なんかで数え切れない程に耳にした覚えが有る。


 逆に端から見れば明らかに『やってそう』な見てくれの珍比良(ちんぴら)が、滅茶苦茶家族愛旺盛だったりする事も有るので、人は見かけで判断しては行けない。


 洋の東西を問わず、其の手の組織が『一家(ファミリー)』を名乗るのは、暴力性の強い馬鹿者に『家族にゃ手を上げるな』と躾ける為だ……と言う様な話を先輩から聞いた覚えが有る。


 そうした馬鹿の更に下に付いた馬鹿を躾ける際に、殴り役をやらせてやり過ぎそうに成れば上の者が止める事で、馬鹿にも『手加減』と言う物を教えるのだと言う話も有ったな。


 どの程度殴られたらどれ位痛いのか、殴られた痛みと殴る加減、其の両方を躾けるからこそ馬鹿は馬鹿為りの使い方が出来、そうした馬鹿の受け皿として暴力団が有るのだ……と其の先輩は言っていた。


 そうした暴力の連鎖が良い事だとは思わないが『痛い目に合わなければ理解出来ない馬鹿』がどうしても一定数は居る以上、暴力団が必要悪だったと言う事は暴対法の強化で力を失い、半グレと呼ばれる連中が勢力を増している事を現場でヒシヒシと感じて居た物だ。


 ……火元国がこの先どの様な歴史を辿るのかは解らないが、悪党外道が野放図に生きられる世の中にだけは成らないで欲しい。


 そんな事を考えながら、俺は四煌戌を屋敷まで一気に走らせたのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 何れ回復役はヒヨコになるだろうと予想ww
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