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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
志七郎、南へ の巻

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千二百六十九 想定外に驚き子供の成長を感じる事

 具足を通して足先に伝わる想定していた以上に硬い感触に、俺は選択肢を誤った事を早々に悟る。


 繰り出した蹴りはあしの指を上へと開き、小指球や母指球と指の間の部分、中足骨頭部と呼ばれる部分を意識した物だ。


 爪先を使った蹴り技はこの部分を当てる物と、握り込んだ足の指を当てる物の二種類が有るが、前者は割と鍛えて無くても普通に繰り出す事が出来るが、後者はしっかりとした部位鍛錬を行っていないと足の指を折る事になる。


 空手や中国拳法なんかだと生身の身体を武器に変える様な、肉体改造とも言える様な激しい部位鍛錬を行う事も有るが、前世(まえ)今生(いま)でもソコまで無手武術に傾倒して居る訳では無い俺には縁の無い話だ。


 それでも空手家が日々の鍛錬として巻藁を突いて『拳を造る』と言う様な話は、格闘技に絡む話では良く耳にしていたし、暴力団員(ヤクザ者)の中には道を外れるまではそうした道場で鍛えて居たと言う様な者も少なくなかった。


 そうした者は部位鍛錬の結果として、普通の人の拳とは違い『拳ダコ』と呼ばれる独特なタコが、拳の人差し指と中指の付け根辺りにくっきりと出来て居たものだ。


 中にはそうした拳ダコの付き方を見ただけで、どんな格闘技をやっていたのかを見抜く……なんて事も極々普通に行われていたし、捜査四課(マル暴)でも上記した人差し指と中指のタコは空手、小指と薬指の根本ならば少林寺拳法……と言う様な情報共有もされていた。


 それに暴力団員って奴は最初からソレに成りたいと思ってその道に入る者と言うのは極々稀だ。


 大概の者は禄に躾を受ける事も無く成長し学校の勉強も真面目にやらず、高校受験に失敗してだからと言って勤労青年として働こうにも、マトモな躾を受けていないので社会に出ても落伍者として堕ちて行き、行き場が暴力団組織しかなかったと言う感じである。


 そしてソコまでベタベタな落伍者では無くしっかりと高校を卒業し、何等かの道で相応の結果を出していた者が、ちょっとした蹴躓きで人生の落伍者へと堕ち、行き場を求めた結果が暴力団だったと言う案件(ケース)も割とよく聞く話だ。


 学生時代に素人(アマチュア)拳闘(ボクシング)でそこそこ良い成績を残し、職業(プロ)拳闘の道へと進んだが大した成績を残す事無く、道半ばで故障したり絶対に勝てないと心折れたりして道が閉ざされた者が暴力団員に堕ちる事は割と有る。


 拳闘だけでは無い、相撲や野球と言った職業競技の道で結果を出せず、相撲部屋や球団から戦力外を通告された者が暴力団に流れ着く……と言う話は向こうの世界ではそこそこ聞く話だった。


 職業選手に成る者の多くは幼少期からその競技に人生を捧げて居る様な者達で、子どもの頃から『勝者には全て得て(オール・オア)敗者は全てを失う(ナッシング)』世界で勝ち続けて来た側の人間だ。


 故に敗者に成った時に全てを失う怖さを知らず成長して来た者が大半だと聞いた事がある。


 無論彼等も専門馬鹿の嫌いがあるとは言え本物の馬鹿である事は少なく、言葉としてそれを知っているが、勝者で有り続けて来た側で……所謂『成功者』として職業選手と言う立場に着いた時点で全てを失う実感を持っている者は稀なのだそうだ。


 そして職業選手と言う奴は一般的な職業と比べると、割と多大な収入を得ている事が多い。


 純粋に実力不足で戦力外と成る様な者は然程大きな収入を得ている訳では無いだろうが、上位(トップ)層に居た選手が怪我なんかが理由で引退を余儀なくされた場合なんかは、生活が本気で一変してしまうのだろう。


 しっかりと貯蓄し万が一に備えて居たならば何とか成るかもしれないが、大概の場合は収入に見合う……或いは更に浪費する様な生活をして居る場合は、そうした転落で一気に人生と言う坂を転がり落ちていく事も有るのだ。


 順風満帆しか知らず派手な生活をしていた者が、突然全てを失ったならば色々と精神的にもダメに成るのはある意味当然の事なのかもしれない。


 相応に歳を重ね女房子供が居れば、家族を養う為に歯を食いしばって再出発に奮起すると言う事も有るのだろうが、独り身の男ならば転落し堕落してしまう方が『楽』なのだ。


 特に暴力団の世界はその名の通り『暴力』がモノを言う社会、格闘技経験者は勿論の事、未経験でも身体能力が高ければそれ相応に稼げてしまう時代が確かに有ったのである。


 俺が前世でくたばる頃には暴対法の強化なんかで『知恵の回らない暴力団員』は稼げない時代に成って居たが、先輩刑事の若い頃……丁度日本が好景気に湧いていた頃合いには、元職業拳闘家が大手暴力団の若頭補佐として有名だったらしい。


 と、少々話が逸れたが無手での戦闘を十全に熟すには部位鍛錬はほとんど必須と言って良い項目だと言う事だ。


 無論相撲とて例外出は無い、履物を履かずに土の上で激しい闘いを繰り広げる力士の足の裏は皮が分厚く成長し多少割れても血が出る様な事は無く、そうした怪我は瞬間接着剤で治療する……なんて程に成っていると言う。


 そしてこの話の肝は力士と力士が立合いで打つかり合う時に発生する衝撃の大きさだ。


 一説に依ると力士のブチかましは二百六十六貫目(約1トン)にも及ぶ衝撃力を持っていると言う。


 ソレが互いに打つかり合うのだから合計で五百三十二貫目《約2トン》と言う交通事故にも等しい衝撃が発生する訳だ。


 そんなとんでもない衝撃で額と額をぶつけ合う様な取組が日常である力士は、当然ソレに耐えられる様に身体を造る必要が有る。


 人間に限らず多くの生物の頭部が弱点なのは、脳という器官が木綿豆腐並にヤワなモノだと言う事だ。


 崩れるまで行かずとも頭部に衝撃を受ければ、少し揺れただけでも脳震盪を起こし立っている事もままならなくなる。


 だがソレは飽く迄も脳が……もっと言ってしまえば頭部が揺れる事で発生する被害(ダメージ)で有り、顎を撃ち抜く攻撃が人体に対して有用なのは頭部が揺れる可能性が高いからだ。


 しかし多少の攻撃では頭部が揺れない程に首や肩周りの筋肉が鍛えられて居れば?


 結果は今俺が目にしている通り、お連は顎を蹴り上げられても小揺るぎすらする事無く、寧ろ圧倒的な筋力に守られた首と十分に鍛えられているらしい顎でもって、此方の蹴り足の方が痛くなる程だった。


 事前に想定していたのか其れ共本能的にソレが最適解と判断したのか、お連は即座に左の手で此方の胸目掛けて突っ張りを繰り出し、同時に右手で担いだ鉞を重力に任せて振り下ろす。


 下からの張り手と上からの鉞、蹴り足を戻すよりも早く繰り出された反撃は見事に俺が体勢を崩した隙を突いていた。


 軸足だけで後ろへと跳ぶのは少々難しい、氣を軸足から放って無理やり跳ぶ事は出来なくは無いのだろうが、恐らくは体勢を整える事が出来ず着地に失敗する可能性が高い。


 ならばどうするべきかを加速した意識の中で考えソレを行動へと移す。


 俺は身体を前へと倒しお連が放った張り手へと自ら当たりに行く、肘が伸び切る前に鎧の胸を彼女の掌に押し付け、その衝撃を利用して後方へとわざと吹っ飛び頭上から落ちてくる鉞を間一髪で躱したのだ。


 本来の想定では顎への蹴り上げを十中八九彼女が躱すと見ていたが、真逆首の筋肉でガッツリ耐えるなんて事をするのは流石に予想外だった。


 立ち上がる事で間合いを取り蹴りを躱したならば、俺は蹴り足をそのまま大きく振り上げる勢いを利用して、残った軸足を踏み切りその足でニ撃目も蹴りを繰り出す予定だったのだ。


 初撃或いは二撃目の蹴りが当たり痛打に成れば良し、躱されても此方は想定した通りの体勢で着地しソコから斬撃を繰り出せる筈だった。


 けれどもガッツリ耐えられると言うのは流石に想定外が過ぎる!


 確かにお連の腕力は俺より……と言うか下手をすれば義二郎兄上と腕相撲をしてもいい勝負が出来るかもしれない位に圧倒的で前世(まえ)の世界で言う所の『力こそパワー!』と言う様な体質では有った。


 だが真逆首周りの筋肉で俺の蹴りを普通に耐えるとは思わんだろ!


 もっと言ってしまえばそんな無茶な堪え方をすれば顎の方が砕けても何ら不思議は無い。


 にも関わらずお連は耐えた……耐えきった、ソレを鑑みれば彼女はもう守られるべき姫では無く、俺を越える前衛戦力だと思って間違い無いと言う事だ。


 子供の成長は早い……とは前世で散々聞いて来た言葉だが、ソレをこんな形で実感するとはな。


 俺はお連の張り手に乗って敢えてふっ飛ばされる事で、再び大きく距離を取り仕切り直しを試みると同時に、今までは有り得ないと切り捨てていた可能性を含め、今度こそ確実に詰みへと持っていく手順を模索し始めるのだった。

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