物語のその先
「さっきので終わると思った?」
そこには、「混沌」が椅子に座っていた。
「いやぁ、随分と長い時間が経ったね」
彼は、誰にともなく、楽しげに語り始めた。
「彼女が旅を終えてから、もう何百年になるのかな?」
指折り数えるような仕草を見せたあと、彼は首を傾げた。
「……まぁ、そんなことはどうでもいいか」
くすりと笑う。
「ちょうど今、僕は少し困っていてね」
そう言って、彼はわざとらしく目元を拭った。
「どうやら、『創造』である彼が、僕の存在を脅かそうとしているらしいんだ」
一瞬だけ、悲しげな表情を浮かべる。
しかし、すぐにその顔には笑みが戻った。
「これから何が起こるのか、楽しみじゃないか?」
彼の瞳は、まるで少年のように輝いていた。
「……ああ、そういえば。花神と契約したのも彼だったね」
まるで、今思い出したかのような口ぶりだった。
「生まれたばかりだったというのに、なかなか面白いことをしたじゃないか」
「それに、まだ言ってなかったことがあるね」
彼は指先で頬を軽く叩きながら、考えるような仕草を見せた。
「記憶、宿命、法、時、死」
ひとつずつ名前を挙げていく。
「かつて存在した古代の神たち。どうやら今では、その名すら忘れられてしまっているらしいよ」
そう言って、彼は小さく笑った。
「新たなる神、『創造』。彼が一体何をしようとしているのか。そして、古代神たちはなぜ忘れられてしまったのか」
「……気になるだろう?」
まるで、答えを知っているかのように、彼は目を細めた。
「でも、その答えを知るのは、まだ先のことになりそうだ」
彼は、ゆっくりと椅子から立ち上がった。
「……彼女の物語の最後は、どうしても僕が書きたかったんだ」
こちらを見つめ、彼は微笑む。
「彼女の旅は、これでお終い」
まるで、一冊の本を閉じるかのように、彼はそう告げた。
「ここまで読んでくれたこと、本当に感謝しているよ」
ふと、彼は何かを思い出したように首を傾げた。
「……まぁ、僕のイカれたところがバレただけかもしれないけどね」
くすくすと笑いながら、彼は再びこちらを見つめた。
「神代観測録」
「これにて閉幕!」
「次の旅路は、もっと面白くなることを期待して」
そう言い残し、「混沌」は消えていった。




