第94話「守るべき背中。その名は -戦艦イーゼル-」
GENESIS地下
崩壊は止まらない。
天井が崩れ、通路が裂け、施設そのものが悲鳴を上げていた。
イレイダたちは救出した能力者を先頭に避難を続けている。
ネリクマが先頭を歩き、燕はセツナを支え、結衣は最後尾で負傷者を癒やしていた。
「結衣さん。」
燕が振り返る。
「もう十分です。休んでください。」
結衣は優しく笑う。
「まだ歩けない人がいるから。」
その声は弱々しい。
何度も Healer(回復) を使った反動で、体力は限界へ近づいていた。
イレイダは結衣の肩へ軽く手を置く。
「絶対に無茶だけはするな。」
「お前が倒れたら助けられる奴も助けられなくなる。」
結衣は小さく頷いた。
「……うん。」
その瞬間だった。
ドォォォォォン!!
巨大な爆発。
通路全体が激しく揺れる。
「伏せろ!」
イレイダの声と同時に全員が身を伏せる。
数秒後。
轟音が止む。
しかしネリクマだけは奥を見つめたままだった。
「イレイダ。」
「なんだ。」
「レイ。」
イレイダの表情が変わる。
「レイ、いやソウヤが押され始めてる。」
GENESIS外郭
レイと一仁。
激突はさらに激化していた。
「ハァァァァッ!!」
レイの拳。
一仁は腕で受け流す。
そのまま掌を地面へ。
periculum(崩壊)
半径数百メートル。
地盤そのものが崩れ始めた。
「まだ広がるのか!」
千太が叫ぶ。
「全員退避!!」
マリアたちNWOが能力者たちを誘導する。
バスティーユが瓦礫を押し返し、マダラと鬱星が退路を確保する。
レイは崩れる地面すら利用して加速する。
しかし。
一仁も止まらない。
「崩れろ。」
大地が裂ける。
瓦礫が宙を舞う。
二人の戦いだけで、GENESIS外郭は完全に戦場へ変わっていた。
デウスは静かにその光景を見つめる。
「……一仁。」
「少し力を出し過ぎだ。」
東京湾
空は黒煙で覆われていた。
ハルシオンを中心とした艦隊の周囲へ、Azの無人兵器が再び集結する。
レーダーが赤く染まる。
オペレーターが叫んだ。
「敵影急増!」
「北東海域より接近!」
ベルトが素早くモニターを見る。
「百……いや二百を超えます!」
フランは静かに立ち上がる。
「来たか。」
ベルトが息を呑む。
「さっきの倍です。」
フランは窓の向こうを見る。
「数では負けない。」
右手を上げる。
structūra imperium(構造物制御)
ハルシオン全砲門展開。
艦隊各艦も一斉に砲門を敵へ向ける。
だが。
今回は敵も違った。
Az無人艦。
大型飛行兵器。
さらに海中から巨大兵器が浮上する。
ベルトの表情が険しくなる。
「艦長。」
「この数をハルシオン一隻で受けるのは危険です。」
数秒。
沈黙。
そしてフランは静かに頷いた。
「……そうだな。」
通信回線が開く。
「ベルソルト。」
ベルトが敬礼する。
「はい。」
「イーゼルの出撃準備!!」
「了解。」
ベルトは通信機を握る。
「全乗組員へ。」
「戦艦イーゼルを戦闘配置!」
「ハルシオン前方へ進出!」
その瞬間。
ハルシオン左舷後方で待機していた一隻の巨大戦艦が動き始めた。
ベルソルトを艦長とする能力型戦艦「イーゼル」。
蒼い船体。
幾重にも配置された迎撃砲。
高速巡航用推進器が一斉に点火する。
ゴォォォォッ!!
海面を切り裂きながらハルシオン前方へ展開。
ベルトは艦橋へ立つ。
「全速前進!」
「ハルシオンを守る抜くぞ!」
「了解!!」
乗組員たちが一斉に応答する。
フランはハルシオン艦橋からその姿を見つめ、小さく笑った。
「頼むぞ。」
ベルトも通信へ返す。
「任せてください!」
「あなたの背中は私が守ります。」
その瞬間。
Az飛行兵器が一斉に急降下。
「来る!」
ベルトが右手を振る。
「イーゼル!」
「全迎撃砲、発射!」
ズドドドドドドドッ!!
無数の迎撃弾が空を埋め尽くす。
次々とAz兵器が撃ち落とされる。
しかし、その隙を狙い大型兵器がハルシオンへ迫る。
フランの瞳が鋭くなる。
「主砲。」
「照準固定。」
「撃て。」
ズドォォォォォォォン!!!
ハルシオン主砲。
巨大な光線が海上を貫き、大型兵器を真正面から消し飛ばした。
爆炎が夜空を赤く染める。
その光景を見たベルトは思わず笑う。
「相変わらず派手だな。」
フランも僅かに口元を緩めた。
「前は任せた。」
「後ろは任せる。」
ベルトは即答する。
「はい!」
「ハルシオンの盾になります!」
二隻の戦艦。
戦艦ハルシオン。
戦艦イーゼル。
その二隻を中心に、東京湾での艦隊決戦が本格的に幕を開けようとしていた。
第94話 完




