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Psycer Brain ─ 神に抗え。その力で運命を変えろ。─  作者: n217 (嘯江 新«ウソブエ シン»)


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第一話「知らない時間」

挿絵(By みてみん)


最近、自分のことが分からない。


そう思うようになったのは、いつからだったか。


はっきりとは覚えていない。


ただ気づけば、


“自分の時間”が、ところどころ抜け落ちるようになっていた。




教室のドアの前で、一之瀬ソウヤは足を止めた。


理由はない。


ただ、すぐに開ける気になれなかっただけだ。


小さく息を吸う。


肺に入った空気が、妙に冷たく感じる。


(……入るか)


それだけを考えて、扉に手をかける。


ガラ、と音が鳴った。


数人の視線が、こちらに向く。


けれど、それも一瞬だけだった。


すぐに会話が再開される。


笑い声も、椅子の音も、普段と変わらない。


ソウヤは何も言わず、自分の席へ向かった。


椅子を引く。


座る。


机に手を置くと、


自分でも気づかないうちに、指先に力が入っていた。


(……まただ)


無意識の緊張。


理由は分からない。


何かがあるわけでもないのに、体だけが反応している。


ゆっくりと、指の力を抜いた。


黒板に視線を向ける。


授業は普通に進んでいる。


教師の声も、周囲の空気も、何も変わらない。


――なのに。


ほんのわずかに、現実感が薄い。


(ちゃんと見えてる……よな)


文字は読める。


声も聞こえる。


理解もできている。


ただ、“そこに触れている感覚”だけが弱い。


透明な膜が一枚、間にあるような。


その感覚に気づいた瞬間、


頭の奥に、軽い違和感が走った。


(……?)


痛みではない。


ノイズのような、小さな重なり。


意識の奥で、何かが触れた気がした。


そして――


――大丈夫。


一瞬だけ、思考に別の流れが混じる。


言葉として聞こえたわけじゃない。


ただ、“意味”だけが自然に浮かんだ。


(……今の)


ソウヤはわずかに眉をひそめる。


自分で考えたにしては、


妙に“外から来た感じ”があった。


だが、それも一瞬だった。


すぐにいつもの思考に戻る。


(……気のせいか)


そう結論づける。


それ以上考えても、答えは出ない。


視線を黒板に戻す。


ペンを持つ。


ノートを取る。


その動作は、普段通りのはずだった。


――そのはずだった。


ふっと、音が遠くなる。


黒板のチョークの音が、途切れる。


教師の声も、周囲のざわめきも、


急に現実感を失っていく。


(……あ)


気づいたときには、もう遅かった。


意識が、滑る。


何かに引かれるように、


静かに、抵抗なく――


途切れた。




「……っ」


視界が開く。


最初に見えたのは、空だった。


夕焼け。


赤く染まった空が、ゆっくりと広がっている。


まぶたを、ゆっくりと閉じて、開く。


(……どこだ)


体を起こす。


ベンチ。


木。


見覚えのある公園。


「……またか」


小さく呟く。


驚きは、もうほとんどなかった。


ポケットからスマートフォンを取り出す。


画面をつける。


時刻は、午後六時を少し過ぎている。


(……三時間くらいか)


教室にいたはずの時間から、


綺麗に抜け落ちている。


その間、自分が何をしていたのか。


思い出そうとしても、何も引っかからない。


ただ、空白だけがある。


(……まあ、いいか)


そう思う自分がいる。


最初に気づいたときほどの不安はない。


ただ、少しだけ気になる。


(……慣れてきてるな)


それがいいことなのかどうかは、分からない。


立ち上がる。


身体の調子は普通だ。


違和感もない。


ただ、“時間だけがない”。


風が吹いた。


木々が揺れ、葉が擦れる音が響く。


その中で、ふと足が止まる。


理由はない。


ただ、ほんの一瞬だけ――


(……ここで、何かしてた気がするな)


思い出せない。


でも、完全な空白とも違う。


“痕跡だけが残っている”ような感覚。


「……気のせいか」


軽く首を振る。


それ以上考えるのはやめた。


無理に掘り返す必要もない。


そうやって、日常に戻ればいい。


そう思った、そのとき。


頭の奥に、再び“重なり”が走った。


今度は、はっきりと。


――見つけた。


ソウヤの動きが止まる。


呼吸が、一瞬だけ途切れる。


(……誰だ)


声ではない。


けれど、意味は明確だった。


外からじゃない。


内側から、直接浮かんでくる。


――やっと、見つけた。


感情のない、静かな響き。


恐怖というより、理解できない違和感。


(……なんなんだよ)


問いかける。


だが、返答はない。


ただ、一つだけ――


――もう、始まっている。


それだけが残った。


次の瞬間、違和感は消える。


何もなかったかのように。


風の音だけが、戻ってくる。


ソウヤはしばらく動かなかった。


(……始まってるって、何が)


分からない。


ただ。


自分の知らないところで、


何かが進んでいる。


それだけは、はっきりしていた。


ソウヤはゆっくりと歩き出す。


その意味も、理由も分からないまま。

Psycer Brain タイトル画像

https://52170.mitemin.net/i1220799/


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