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第1話 聖剣で一撃!お手軽魔王討伐

「本日はアザール観光をご利用いただきありがとうございます。

私は専属ガイドのミーエルです。


アザール観光では、憧れの異世界アザールで体験できる様々なプランをご用意しております。


お客様にはご希望に応じた能力をひとつ付与し、

お望みのシチュエーションへご案内いたします。

憧れの異世界生活を、皆様もぜひご体験ください。


今回のお客様は会社員の英雄ひでお様、旅行内容はこちらです!」


【ツアー名】聖剣で一撃!お手軽魔王討伐

【お客様】 英雄様 35歳・サラリーマン

【付与能力】万物を切り裂くチート武器『聖剣』

【ご要望】現実の仕事に疲れたから、魔王でも倒して英雄えいゆうになりたい

【旅行日程】

1日目:最後の「人間の街」に宿泊

2日目:街から魔王城へ 魔族の街に宿泊

3日目:魔王軍四天王と対峙(記念撮影可) 魔王城に宿泊

4日目:魔王と対峙(討伐予定) アザールから現世へ帰還、現世解散


「それでは、異世界アザールにご案内いたします。どうぞ良い旅を!」


【1日目】

「……あの、ミーエルさん。俺、ビジネススーツで来ちゃったんだけど、本当にこれで魔王倒せるの?」


異世界アザールに降り立った英雄は、運動不足の身体で持つには少し重い『聖剣』を片手に、不安そうに首を傾げた。


案内人のミーエルは、にこやかな笑顔でそれに答える。


「はい! 身体能力は上がっていませんが、英雄様に付与したその聖剣があれば、魔王なんて一撃で倒せますよ!魔王討伐まで、『私の案内に従って頂ければ』ですが――」


案内されたのは、人間社会の最果てにある薄暗い宿屋だった。


「明日の朝、いよいよ魔王城に向けて出発します。ここから先はしばらくフカフカのベッドでは寝られませんので、今夜はゆっくりお休み下さいね!」


だが、夕食として英雄の前に出されたのは、カチカチの黒パンと謎のドロドロしたスープ、そして何かの魔獣の干し肉だけ。案内された部屋のベッドも、藁が詰まったガチガチに固いものだった。


「確かに異世界来れたけど、格安だったからな…。どこがフカフカなベッドだよ!せめてビジネスホテルぐらいのクオリティはあってくれよ……。」


英雄は不満を漏らしながら眠りについた。


【2日目】

翌朝

「ここから魔王城へは馬車で行きます。周りの森には凶暴な魔獣がウヨウヨいますので、休憩の時も絶対に私から離れないでくださいね」


ミーエルに促され、英雄はガタゴトと激しく揺れる馬車に乗り込んだ。


道は舗装すらされていない荒れ地だ。

窓の外からは、聞いたこともない不気味な獣の鳴き声が絶え間なく響いてくる。

ずっと揺られっぱなしで、英雄のお尻はとっくに限界を迎えていた。

おまけに昼食に出されたのは、パサパサした携帯食のみ。


「クソッ、なんで魔王城に行くだけで、こんなキツいんだよ……!」


「うふふ、あくまで『ツアー(行程)』ですので。メインイベントの4日目までは、異世界ならではの景色や風土をお楽しみ下さいね!」


「手軽に魔王を倒して英雄になれると思ったのによ…」


英雄は快適な旅を想像していただけに、不満が隠しきれなくなっていた。



夕暮れ。

ついに馬車は、どす黒いオーラを放つ魔王の城下町へと到着した。


「ここからは魔族の街になります。馬車から降りて魔王城に向かいますよ。大変危険ですので、私のそばから絶対に離れないで下さいね」


「やっと着いたか!」


馬車を降りた瞬間、周囲の魔族たちがギロリと人間である英雄を睨みつけた。


「ヒッ……!」


見たこともない凶悪な異形たちに囲まれ、英雄の心臓が跳ね上がる。

だが不思議と、魔族たちは睨みつけてくるだけで、誰も襲いかかってこようとはしない。


(……あ、そうか。こいつら、俺の聖剣が怖くて手が出せないんだ……。)


聖剣を周りの魔族に向けると、怯えたように後ずさりしていく。

英雄はニヤリと笑った。


(今は上司や取り引き先に怒られてる俺じゃない……。ここでは俺が最強なんだ!)


そう気付いた瞬間、先ほどまでの恐怖は消え失せ、全能感が英雄の脳を満たしていった。


「聖剣があるんだから、こんな魔族なんてどうってことないだろ! 」


魔族の群れに向かって聖剣をかざし、走り出した。


「あっ! 駄目です英雄様、まだ自由行動の時間では──」


聖剣を一振りするとズバァン! と眩しい光が弾け、何人かの魔族が綺麗に斬り伏せられる。


「本当に化物が簡単に切れたぞ!」


英雄は逃げ惑う魔族を見て、高らかに笑いながら容赦なく斬っていく。


「ははは!俺はチート武器で無敵だ!このまま四天王もすっ飛ばして、魔王を倒してや……えっ?」


ドスッ。


英雄の言葉が止まった。


見下ろすと、いつの間にか背後に回り込んでいた魔族に、素手で背中から貫かれ、腹には大きな穴が開いていた。


「あ、が……は……!?」


聖剣が英雄の手から離れ落ちると、


「ギシャアアアアッ!」


「ニンゲンが、よくも同胞を!」


怒り狂った魔族たちが一斉に群がり、英雄の身体へ爪と牙を立てた。

あっという間に肉が引き裂かれ、地面には鮮血の池が広がっていった。


「う、嘘だろ……俺は、最、強……!魔王を倒して、えい、ゆうに……」


視界が急速に暗転し、英雄の意識は途絶えた。


「……はぁ。だから予定を守って私の後ろにいてと言ったのに。聖剣はありますが身体能力はそのままなんですから。──これにて今回のツアーは終了となります。」

 

ミーエルは目の前で凄惨な捕食劇が行われているというのに、冷静に手帳にバツ印をつけた。

くるりと案内用の旗を回し、ミーエルは笑顔でこちらを向いてペコリと一礼する。


「今回は残念ながら魔王討伐はできませんでしたが、アザール観光では魔王討伐以外にも、王都観光ツアーや、農村でのスローライフなど、様々なプランをご用意しております。

当社では一切の責任を負いかねますが……。」


ミーエルが手元のファイルを開く。


「さて、次のツアーは――『ハーレム』ですか……。好きですよね男性は……、私にはあまり理解ができませんが。

それでは、皆様のご利用を心よりお待ちしております。」

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