第3話:水のエキスパート
俺がまず取り組んだのは、ミーの生活環境の改善だ。
当面の食料は問題ないはずだった。町で購入した保存食を数日分、リュックに詰めて持参していた。
まず、寝床の確保に取り掛かった。近くの茂みから、厚手の木の葉を集め、洞窟の隅にふかふかの簡易ベッドを作った。
「ここが俺たちの新しい寝床だ。元々この場所はミーの場所だし、ミーのベッドは、一番奥の平らで、居心地のいい場所にしよう。ふかふかの方が気持ち良く眠れないかな?」
「うん、気持ちいい! ヤマダー! ありがとう!」
ミーは、自分のために作られた寝床に、感動していたようだ。
(誰かにこんなに感謝されたのはいつ振りだろうな……)
そんなことが頭をよぎった。
◆◇◆
生活環境がわずかに改善して、ミーとの関係性も少しずつ縮まったように思う。
そんなときだ。
外で強い雨が降り始めた。
その雨音を聞きながら、ミーは俺に切実な思いを言葉で伝えてきた。
「ミー、水が飲みたい! 水をいっぱい飲んで、大きくなりたいんだー」
「水が飲みたいのか?」
「うん、でも、近くの水辺にはミーより大きいモンスターがいるときもあって、あまり近づけないんだよー。近づいたら、ミー、やられちゃう」
ミーの願いは水を大量に摂取し、身体を大きくすること。そして強くなることだ。
だけど、水辺のモンスターの存在がそれを阻んでいる。俺もこの先、きっと飲み水が必要になるだろう。
(スライムは、体がほぼ水分でできている。ということは、水分を扱う特性がないか。例えば、浄水器のように、ミーの体内で濾過や浄化をするとかできるのかもしれない)
これは『ハーモニー』による能力ではない。
俺自身の勘だ。
正直なところ、あやふやな知識なんだが、やる価値はありそうだ。
「ちょっと試したいことがあるんだ。ミーは、水を体内である程度、自由にコントロールできる?」
「うーん……できる、かも?」
その言葉を聞いて、俺は大きな木の葉で受け皿を作って雨水を貯めた。
そして、ミーに尋ねた。
「この貯めた雨水でも、ミーは飲んでも問題なさそうかな?」
「大丈夫だよー。それにこの水も、ミーは嬉しい」
「そうか! そしたら、ついでにお願いがあるんだ。体の中で、雨水の中から余分なものだけを外に出すことってできるかな?」
「やってみるー」
ミーは貯めた雨水を吸収した後、ミーの体がわずかに膨らんだ。
体内で濾過しているように見えた。
そして、その口から、透明で冷たい水を吹き出した。
俺は手でその水を掬って、飲んでみた。
(美味しい……!)
「すごいよ! ミー、大成功だ! この森のどんな水も、安全な水に変えることができるんだ!」
ミーは俺の言葉に応えて喜んでくれたようだ。
これで、生活の悩みが一つ解決した。
「ミー。お前はこの基地で、水のエキスパートだ。あ、エキスパートってのは、特別な存在ってことなんだよ。俺は水を集めてくる。その水で、ミーはきっと強くなれる」
「強くなれる?」
「そうだ、そしてミーが浄化してくれた水で、俺も生活ができるんだ。ミーは、俺にとって大切な存在なんだよ」
「うれしいー! ヤマダーの、大切な存在ー」
ミーは、ぷよぷよと弾んで喜んでくれた。
その様子を見て、俺も嬉しくなった。
◆◇◆
しばらく過ごして分かったことがある。
この森は、比較的短時間に大量の雨が降る瞬間がある。現実世界だと、スコールってやつに近いのかもしれない。
雨のときにミー自身が外に出て雨を浴びればいいのではないか、なんてことを思った。
しかし、常に雨が降っているわけでもないので、ミーもタイミングを逃してしまうみたいだ。
そこで、あらかじめ俺は雨水を貯める仕組みを用意しておき、貯めた水をミーに浄化してもらった。その水で、ミーは自分の体を大きくし、その後綺麗な水として、俺も飲むことができた。
こんなサバイバル生活だが、会社で疲れ果てていた頃とは比べ物にならないほど、深い安らぎを感じていた。
当然、現実世界の方がずっと便利な暮らしだったはずだ。
それでもここには、争いのない穏やかな日々があった。
俺は、以前よりも少し大きくなった気がする、ミーの体を優しく撫でた。
まだまだ道半ばだが、異世界でミーと一緒に、ノーストレスな生活を始めることを、改めて強く決意した。




