【第5話】書道室に集う三人
放課後のチャイムが鳴ると、三人は自然とあの部屋へと向かっていた。
入部届を提出する前から、書道室は彼女たちの居場所になりつつあった。
「ふーっ、やっと授業終わったー!」
あすかが勢いよく扉を開けると、窓の近くの机にもう志津香が座っていた。筆を構えたまま、こちらを一瞥する。
「今日、少し遅かったわね」
「うるさーい、体育の後だっつーの。あ、真理子は?」
「ここにいますよー」
真理子が半紙の束を抱えて入ってきた。三人が揃うと、書道室は一気ににぎやかになる。
志津香はそれを邪魔だとも言わず、ただ静かに筆を走らせる。けれどその筆音に、どこか楽しげなリズムが混じっていた。
「あのさ」
筆を墨に浸しながら、あすかがぽつりと言った。
「なんか、ふつーに部活っぽくなってきたよね」
その言葉に、真理子が頷く。
「うん。書いてる時間もだけど……なんだろ、こうして三人でいるのが、安心する」
「そうね。……まだ何もしてないのに、居心地がいいのは不思議」
「書いてるだけなのにね」
静かに、しかし確かに、三人の間には「繋がり」ができはじめていた。
あすかの筆は、豪快に紙を揺らす。
志津香の筆は、まるで空気を切り裂くように静かに動く。
真理子の筆は、迷いながらも丁寧に紙の上をなぞる。
異なるリズム、異なる線。
けれどそれが、同じ時間、同じ空間に並んでいることが、なんだか不思議に心地よかった。
誰かが話し、誰かが笑い、誰かが黙って筆を走らせる。
ただそれだけの時間が、少しずつ、この場所を「書道部」に変えていった。
「ねえ、部室って、もうちょっと個性出したくない?」
ふと、あすかが言った。
「個性?」
「そう。なんか飾るとか。好きな言葉をでっかく書いて、貼るとかさ」
「うわ、あすかっぽい……」
「いいかも。それ、やってみようよ」
そしてその日、三人は各自の“好きな言葉”を一枚ずつ書いた。
真理子は「一筆入魂」。志津香は「無心」。あすかは――「爆」。
貼られた三枚の言葉が、並んで風に揺れていた。