表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
筆の軌跡 **「未」**  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/150

【第32話】師匠からの便り

放課後の書道室。

 蒸し暑い午後の日差しが、障子の影を淡く映していた。


 「これ、先生から預かった」


 志津香が封筒を差し出した。


 「なに、それ?」


 あすかが額の汗をぬぐいながら覗き込む。


 「田島先生の師匠……川端先生って方から、うちら三人の作品への講評が届いたの」


 真理子が封を開け、便箋を取り出す。

 墨の香りがふわりと立ちのぼる。丁寧な筆致の、しかし力強い筆跡。


 志津香が声を整えて、読み始めた。


 三人へ


 まず、このような若い世代が「書」に真摯に取り組んでいることを、とても嬉しく思います。

 それぞれの作品に、未熟さを超えた“書きたい”という強い意思を感じました。


 天童あすかさんへ

 あなたの筆は、暴れているようで、実は律しようとする意志があります。

 「壊」の字には、爆発の中に“芯”が見えました。乱れても、自分の中の“形”を信じてください。


 佐々木志津香さんへ

 あなたの筆は、静かで、流れがあり、冷たさと温度が共存しています。

 「澄」の一字から、“余白”の美しさが伝わりました。整えすぎず、息をのこしてください。


 山下真理子さんへ

 あなたの筆には、問いが込められている。

 「続」の字に迷いが見えるのは、あなたが“何を書きたいか”を問い続けているからです。

 その問いは、いつかあなた自身の道になります。


 最後に。

 “書”は、あなたの生き方そのものを映します。

 上手い下手より、“なぜ書くか”を見失わないでください。


 川端壽山 拝


 三人は、しばらく黙って便箋を見つめていた。


 「……泣かせにきてるやろ、これ……」


 あすかがぼそっと言った。


 「でも……すごいよね。ちゃんと見てくれてる。あの一枚一枚を」


 真理子が、そっと口元を緩めた。


 「うち、正直“勢い”で書いたって思ってた。でも、“芯”があるって言ってくれた……それだけで救われた」


 「私も。“整えすぎる”って癖、バレてた。でも、余白を活かすって言ってもらえて……嬉しかった」


 「“問い”って言葉……なんか、すごく腑に落ちた。私、たぶんずっと、自分に聞きながら書いてるんだと思う」


 紙の上に残る、乾いた墨の匂い。

 言葉が筆で書かれるということ。

 それがどれだけ重く、どれだけ真摯なものか。


 川端先生の手紙には、それが詰まっていた。


 「“なぜ書くかを見失うな”って、すごいよね。

  逆に言えば、“迷いながらでも、問い続ける限り、うちらは書き続けていい”ってことじゃん」


 あすかが筆を持ち直す。


 「……よっしゃ。もう一枚、書く」


 「え、また? もう十分じゃないの?」


 「十分かどうかなんて、書いてみなきゃわからんでしょ」


 三人の手が、再び墨にのびる。


 書道室には、また新しい風が吹き始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ