【第28話】合同作品会議、爆発
合宿三日目の午後。
宿舎の大広間の一角に、三人分のスケッチブックと筆記用具、そして昨日書いた一行詩が並んでいた。
「じゃあ、合同作品の構成、決めよっか」
真理子が提案する。
来月の展示会に向けて、三人の合作が必要だった。テーマは「今の自分たち」。
昨日の“あの夜”を経て、それぞれが書いた一行詩を基に、作品にしていく。
志津香が口を開く。
「私は、三つの詩を一つの流れにしたい。左から右へ、“感情の変化”が伝わるように」
「ふむ……整ってて美しいけど、ちょっと静かすぎないか?」
あすかが言う。
「うちはもっと、“叫ぶような構図”の方がいいと思う。三人の詩、並べるんじゃなくて、“ぶつける”ように配置するの。書く位置も、サイズも、角度もバラバラでさ!」
「それ、ただの混乱じゃない?」
志津香の声が少し鋭くなる。
「混乱って……表現じゃん。人の感情なんて、そんなに整ってないでしょ?」
「でも、見る人に伝えるためには“整える”ことも必要よ」
「整えるために“削る”なら、うちは嫌だ」
ぴしゃりと、あすかが言った。
部屋の空気がピリッと張り詰める。
「……私は、昨日の詩をそのまま生かしたい」
真理子が静かに言った。
「そのままの言葉を、まっすぐ、正面に出したいの。形や構図より、言葉を読ませたい」
「ああもう、三人三様かよ!」
あすかが頭をかかえる。
「ていうかさ、うちら全員、“自分の詩が大事”ってなってない?」
「当然よ。自分の言葉だもの」
志津香が言い返す。
「それを“寄せ合う”のが合作でしょ? 自分だけ通したいなら、個人作品にすべき」
「……!」
その瞬間、あすかの目に火が灯る。
「それ、うちのこと、自己主張ばっかって言いたいんだろ?」
「違う。……でも、あなたの“勢い”に、全部持ってかれそうになるのが怖いの」
「じゃあ志津香の“整いすぎた構図”に、うちらの気持ちを埋められるのは怖くないのかよ!」
「やめて!」
真理子の声が割って入る。
「二人とも……言いたいこと、わかる。でも、それ、今はぶつけ合うだけじゃだめ。これ、“三人の作品”でしょ?」
沈黙。
誰も何も言わない時間が、少し流れる。
「……うち、志津香の“構成案”も、真理子の“正面性”も、いいと思うよ」
あすかが口を開いた。低い声で。
「ただ、どれかを犠牲にしたくないって思っただけ。……だから、爆発した」
「私も……ごめん。整えることに執着しすぎた。あすかの言う、“ぶつける表現”って、大事だと思う」
「ありがとう」
真理子が深く息を吸う。
「じゃあ、こうしよう。“三人の詩”を中心に、それぞれの筆致で“同じ言葉”を別々に書くの。言葉は一つ、でも線は三様。そうすれば、“ぶつかる”“整う”“伝える”が全部できるかもしれない」
三人は顔を見合わせた。
「……それ、やってみたい」
「うちも」
「いい案だわ。真理子、やるじゃない」
三つの想いがようやく、同じ紙の上で交わろうとしていた。
それは、ぶつかったからこそ見えた“合同”のかたちだった。




